第13話

「手続きはこれで完了しました。ハットリ様は本日からロイパーティーのメンバーであることが正式に認められました。今後も良いダンジョンライフをお過ごしください」


 冒険者協会のパーティー統括課窓口の職員から返却された冒険者登録カードの裏面を、ハットリが感無量といった様子で眺めている。


「おめでとう。では早速そのカードで地下40階に行ってみようか!」

 エルさんがノリノリだ。

 ハットリなら攻略できると踏んでいるのだろう。


 それに対しハットリは浮かない顔をしている。

「あのう……実はさ」

 言いにくそうに口をもごもごさせながら、昨日の加入テストで張り切りすぎて手持ちの手裏剣が底をついてしまったから、今日は戦えないという。


 確かに昨日、惜しげもなく手裏剣投げまくってものねえ。

 パーティーの加入テストだったんだから、もったいぶってる場合じゃなかったんだろうけどね。


「あら、ちょうどよかったわ」

 わざとらしく手をポンと合わせてにっこり笑う。

「地下40階には敵がいないのよ。入ってすぐの部屋でお姉さまから鍵を受け取ればいいだけなの」


「ほえ?」

 間抜けな声をあげるハットリを引っ張ってダンジョンに入る。

「だから丸腰で問題なし! さ、行きましょ!」


 転移水晶で地下40階まで行き、目の前の扉を開けると狭い部屋の中で椅子に座るボスがいる。

 このフロアは、たったのこれだけの空間しかないとても奇妙な構造だ。


 椅子に座るボスは、真っ白な肌と真っ白な長い髪から淡い光をぼうっと放つ人の形をした発光体で、小さな顔には不釣り合いなほどに大きくて不気味な深紅の瞳を真っすぐにこちらに向けている。


 通称「BANバ ン姉さん」、その名前の由来は後程説明するとして、わたしとエルさん、トールさんはBAN姉さんと目を合わせないように扉の陰に隠れた。


「あの光ってるお姉さまから鍵をもらってきて」

「おう」


 やはりハットリは素直なのだろう。

 詳しい説明を求めることなく、ボス部屋へと入っていく。


「あのう、鍵もらえます?」

 ハットリの声が聞こえる。


「ありがとうございます」

 鍵を手に戻って来たハットリは、扉に隠れているわたしたちを見て「何してんすか」と首を傾げた。


 やった!

 ボスクリア! 討伐完了!


 扉をお尻でドンと突いて閉めながらエルさんと抱き合って喜んだ。

 トールさんも無言で手をパチパチ叩いている。


「は? なに?」

 なにもわからない様子で戸惑うハットリにもエルさんが抱き着く。


「すごいね、ハットリくん。頼りにしてるよ」

「だから、なに?」


 クスクス笑って再び扉を開けながら説明する。

「さっきのBAN姉さんなんだけどね、実はこの階層のボスなの」


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