第3話
盗賊に襲われるという事件もあったが、何とか王都に着いた。王宮までの道すがら、ザルツに色々教えてもらいながら歩く。
「ライラちゃん、そんなにきょろきょろしてると、置いてかれるよ」
「でも、王宮に入ってしまったら、簡単には街に出ることは出来ないって言ってたから」
マーリの育ったオアシスも栄えていたが、やはり王都は規模が違う。建物も大きく、物も人もあふれかえっている。色鮮やかな果物、きらきらと輝きを放つ装飾品、細かい見事な模様の絨毯、忙しそうに駆けていく住民、その中に普通に馴染む見たことのない衣を来ている異国人。なかには肌の色が違う人もいてライラは驚いた。本では読んだことがあったが、実際にいるとやはり物珍しくて、思わず見つめてしまう。
「ライラちゃん、あんまりきらきらした目で見つめると、向こうが勘違いしちゃうから」
ザルツが小声で注意してきた。
「ご、ごめんなさい。そうですよね、じろじろと見られたら気分悪いですよね」
「その可能性もあるけど……ライラちゃんは男心ってものを、ちょっとばかし勉強した方がいいかもね。こりゃ、シンがやきもきするだろうなぁ」
ザルツの呟きに、ライラは首をひねる。どうしてシンの名前が出てくるのだろうか。王宮で遭遇することはあるかもしれないけど、そんな頻繁に接することはないと思うのだが。
「ライラちゃん。君がどんな想いでここに来ることを決めたかは分からない。けれど、自らの幸せもちゃんと考えて欲しいなって思ってる。色々と惑うことが王宮では多いと思うけど、自分を犠牲にしすぎないで。譲れない一線は、譲らなくていいと俺は思うんだ」
突如、ザルツが語り始めた。
「ザルツおじさん、どうしたの?」
「近所に住んでたおじさんとして、伝えておきたいなと思ってね。俺はさ、立場上はシンに仕えているけど、シンを育ててきた人間でもあるわけ。だから息子の幸せをどうしても願っちゃうんだよね。色んな邪魔が入ると思うし、まわりは誰も味方しないだろうけど、シンはきっと諦めない。だからライラちゃんもさ、自分の気持ちから逃げないで欲しい」
ライラはその言葉に妙な焦りを感じた。
なんだろう、何か悪いことをしてしまったときに似てる。まるで後悔だ。でも、何に対して後悔しているのか分からない。でも『自分の気持ちから逃げないで欲しい』という言葉が、頭の中でうるさいほど響いていた。
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