幕間
シンが先に王都へと帰っていき、数日が経った。三日後には姉のライラも、付き添いで残ったザルツと共に王都へと旅立つ。
皆が寝静まった深夜、サリムは下から物音が聞こえた気がして、ベッドから起き上がった。足音を立てないように階段を下りて、調合室を覗く。すると、月明かりに照らされたライラが窓辺に立っていた。
「姉さん、眠れないの?」
サリムが声をかけると、驚いたようにライラがこちらを見た。
「うん……あとちょっとで出発だと思うとね、何か名残惜しくて」
月明かりに照らされたライラは、何だかとても儚げに見えた。月が雲に隠れたら、そのまま光と共にきえてしまうんじゃないかと、サリムは不安になってしまう。
「姉さん、手に持ってるのって」
「この水差し? ハーレムに持って行こうと思ってさ」
ライラは水差しを愛おしそうに撫でた。
「そんなもの、持って行く必要ない。ここに置いていきなよ」
サリムは思わず、苛立ち紛れに詰め寄ってしまう。
「だって危ないじゃない。この水差しがあれば恋煩いの薬が作れてしまうのよ。今は私しか魔人は起きてくれないけれど、今後も私だけしか起きないっていう保証はないわ」
ライラは悩ましげな表情を浮かべている。そのどこか愁いを帯びた様子に、サリムは違和感を覚えた。
「でも、月の魔人は気まぐれなんだろ? そう簡単に、姉さん以外の声で起きるかな」
「月の魔人はね、乙女が好きなんだって。だから、エマやエメがもう少し大きくなったら、薬を作れちゃうかもしれない。そんなの危ないわ」
月の魔人は、サリムの声では起きなかった。だからライラ以外は無理なんだと思っていたけれど、まさかの少女趣味だったとは。
「何それ、おっさんみたいな魔人だね」
「違うわ。姿は分からないけれど……月の魔人は、女性よ」
ライラの口調が、ゆっくりになってきた。
「そうなんだ。あれ、姉さん眠いの?」
「うん、ちょっと……眠くなって、来ちゃった」
うつらうつらと、頭が揺れている。
サリムは慌てて肩を抱いた。すると、ライラはすうっと眠ってしまったのだった。『ごめん』という呟きを残して。
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