第21話 きっかけをつかむ方法②

「ねぇ綾香、彼と話す方法を教えてくれない?」


 夏休みが終わる一日前。私は綾香に電話をかけていた。


 彼と会ってからもう数か月。夏休み中もあったのに未だ話せていない。

 さすがにもう待てないよ。

 それもこれも私が臆病なのが悪いんだけど……。


「えっ、まだ話せてなかったの?」

「えっ?」


 驚いた。

 話しかけているって本当に思ってた声だ。


「できるわけ、ないじゃん」

「いや、さすがにだよ」


 事情を話し終えると、すぐに笑われた。

 ――いや、ひどくない?


 確かに一年も会話できてないとか、ちょっと情けないけど、それにしても笑うことないよね?


「それで、まだ彼と話せてないから、きっかけをつかむ方法を教えてほしいってことですか」

「うん、もう待ちきれなくて。綾香だったら、何かいいアイデアがあると思ったの」

「わたし猫型ロボットじゃないんだけどなぁ」

「じゃあ、キテレツくん?」

「どっちも違うよ」


 そうだった。

 綾香はクラスで一番成績が悪いんだった。この前なんて、赤――


「失礼なことを考えてない?」

「そんなわけないよ?」


 どうしてわかったんだろう。


「……まぁ、いいよ。それよりもアイデアか、難しいなぁ」


 うーんと考えて、数秒、


「そうだ、ライトノベルの話を持ち出せば? いつも私に作品の感想を言ってくるみたいに」

「ラノベ読んでないかもしれないの!」


 あちゃーと、残念そうな声が聞こえてくる。

 なんか相談する相手を間違えた気がしてきた。


 ライトノベルを読んでいたら、話ができる自信はある。

 この間出た新刊だって――


「うーん、そうだなぁ。じゃあ、いっそ、ぶつかってそのまま押し倒しちゃうとか?」

「――――」


 えっと警察の番号は何番だったかな?

 一、一、〇?


「ごめん、冗談だから!」


 私の無言で圧を感じたのか、綾香がすぐ謝ってきた。


「次言ったら、ね?」

「冗談きついよ、唯葉ちゃん」

「ケーキバイキング」

「ケーキバイキングね! 分かった、わかったから、落ち着いて、ね?」


 今度学校近くにある、ケーキバイキングのお店でおごってくれることになった。

 圧で脅した?

 強制はしてないよ?

 ほんとだよ?

 だけどまぁ、セクハラはよくないよね。


「押し倒すなんて、そんなの、絶対に無理」

「うん、ごめんね」

「綾香は出来るの? そういうこと、彼氏にさ」

「え? ……ああ、うん、できるよ? 出来るに決まってるじゃん?」

「へぇー」


 ケーキバイキングだけじゃなくて、一週間分のお弁当も作ってもらえることになった。


 綾香のお弁当は一度食べたことがあるけれど、おいしさで溶けそうだった。

 なんか悪いことしてるみたいだけど、私は何も悪くないよね。


「それで、今度は何をおごってくれるの?」

「話が変わってるよ⁉ もうこれ以上、おごれないよ」

「あ、じゃあ、ケーキバイキング無しでいいから、アイデアがほしいなぁ」


 私は友達には優しいのだ。

 お弁当は作ってもらうけどね?


「えーっと、話しかけるしかないよ」

「ラノベのことしか話せないよ」

「ははは……さすが自称ラノベ読みさん」


 私も綾香も苦笑しながら、いったん電話を切って、考え始めることにした後、数分。

 綾香から着信があった。


「じゃあもう、話しかけてくれるのを待つしかない!」

「そんなの大丈夫なの?」

「大丈夫、大丈夫!」

「ずっと会話できないかもしれないじゃん」


 そしたら高校を卒業しちゃって、話す機会すらなくなっちゃうかも。


「……だいじょうぶ!」


 なんでそんな自信なさそうなの? 

 私の恋を応援してくれるんじゃなかったの?


「ほんとに、大丈夫だって! キョウくんと――」

「キョウくんと?」

「――む、向こうから話しかけてくれないなんて男じゃない、ってテレビでも言ってたんだよ」


 電話越しからガサゴソと物音が聞こえる。何かあったのかな? それよりも――


「……テレビねぇ」

「待つことも大事だって。もし会話が出来なかったら、もう脈はなかったって諦めるしかないよ」

「でも」


 そんなことで、この恋は終わっちゃうんだろうか。

 そんなの嫌だな。


「決めちゃおう、唯葉ちゃん」

「ほんとに大丈夫なのかな」

「……唯葉ちゃん。そうだよね、諦めるしかないなんて、言っちゃってごめんね」

「綾香」

「ただ、今回は向こうから話しかけてくれるまで耐えてみよ?」

「どうして?」

「それは――」


 何か隠してるのかな?

 さっき言っていた、綾香の彼氏さんと関係があるとか。

 そんなことを考えて数秒、悩んでいた綾香が話を切り出した。


「――ごめん、唯葉ちゃん。今回はキョウくんにも手伝ってもらってるの」

「そっか、だから、大丈夫って」

「うん、これは言わないでおこうと思ってたんだけどね?」


 はははと笑う綾香。

 そっか、彼氏さんも手伝ってくれてるんだ。


「ありがとう、綾香」

「ううん、大丈夫! 今回は絶対に成功するよ!」

「……そっか、そうだよね」


 話しかけてくれるまで耐えてみようかな。

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