第6話 新たなる任務⑤


※交合を示す内容(通常より度合い高め)があります※




「~っ!」


 これも、薬の影響なのだろうか。

なんとも言えない想いが込み上げ、体が小刻みに震え始めた。

 今まで自覚していなかった事。

 それらが一気に、頭の中へと押し寄せてくる。


 色々な制限のある王族に嫁ぐ、王太子と結婚するということは、政略結婚になることは稀ではない。

 相手と恋愛関係になることは愚か、世継ぎのために、好きでもない男性と望まぬ形の交わりをしなくてはならない可能性があった。


 私の場合、望まぬ相手になることはなかったが、情交となることは叶わなかった。

 彼に好意があった分、期待を抱いてしまう期間は長かったが、衝撃的な事象から、彼に何かを願う事は諦めがついた。


 市民あがりの王太子妃という弱い立場。

 だから、非道な扱いをされても耐えるしかない。

 逃げ道のない私がやらねばならぬ事は、世継ぎを残すこと。

 

 彼から愛情を貰う事を諦めてからは、そう割り切って“任務”をこなしてきたとはいえ、私が彼との交合を行うことができたのには理由があったのだ。

 

 なぜなら、彼は。


 好きになった人だったから。



 私には無関心で冷徹な対応しかしない相手だとしても、向けられた優しさは全て演技だったとしても、私は確かに彼に強く惹かれた過去がある。

 加えて。

 リリア様の装いでの交合がどういう意味をもたらしていたのか、それを明確には理解していなかった点。

 そして、どんな形であれ交わる相手は彼だけという点は、私が自我を保つ上で意味があったと、今、明確に認識した。

 

 彼は私に対して、何かしらの情はある。

 そのような勘違いも、重要な意味があった。


 婚約して3年、結婚して1年。何度か交わりをした相手でもあるのだから、最低限の情はあるのだと。

 リリア様の装いをしようと、“任務”の際は、私を相手にしている認識はどこかにある。

 結婚した以上、“任務”は彼とだけ。

 そう思っていたから、私は、まだ、自我を保つことができていたのだ。


 

 それなのに………………………………。


 


「~っ」

 

 視界が滲む。

 

 意図せず震えた体を抑え込むように、体に上手く力が入らないながらも、私は唇を噛みしめ両手の触れていたドレス生地をギュッと握りしめた。


 絶対に、泣くものか。


 

「うぅ~ん」


 俯き加減になっていた私の耳に、ジハイト様の困ったような溜息が聞こえる。


「まぁ、色々、僕だって思うことはあるけど〜、君との交わりは、やらなきゃいけない事なわけだからねぇ~~」

 

 同情を寄せたかのような雰囲気。

 それを醸し出したジハイト様だったが、


「だからぁ、僕がちゃんとできるように、最適なシチュエーションを求めることは、絶対止めないよ~?」

 

 すぐ様、信念を曲げることはしないと明るく断言した。


 少しでも状況が良くならないか。

 変化したジハイト様の雰囲気を感じ取り、そんな期待をしてしまった自分を、とても愚かに思う。

 


「じゃあ、今から準備してくれる〜?2時間あればいいよねぇ」


 ジハイト様がソファから立ち上がったのを、曲がっていた膝が真っ直ぐ伸びた事から私は察知した。

 


「メイド長が来て、整えてくれるから〜」


 そう言ったジハイト様はこちらを見る間もなく、身動きが取れない私をその場に置き去ったまま、部屋を出ていった。

 


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