第10話 修学旅行二日目

 修学旅行二日目は一日自由行動だった。彼女との約束を果たすために、僕は体調が悪いと嘘をつき、ホテルに戻るふりをした。班のメンバーは一緒についてこようとしたが大丈夫だと伝えた。

 一人になった僕は彼女との待ち合わせ場所に向った。待ち合わせ場所に着くと店のベンチで座りながら団子を食べている彼女がいた。


「ごめん、お待たせ」


「お! きてくれたね!」


 そう言うと彼女は残りの団子を全て口に入れて立ち上がった。


「じゃあさっそくいこっか!」


 目的地は未だに知らされていない中、五分ぐらい歩いたところで建物に入った。

 

「予約してた伊藤です!」


「二名様の伊藤様ですね。 こちらへどうぞ」


 訳のわからないまま中に入るとすごい数の着物が用意されていた。


「びっくりした? 一度でいいから着物着てみたかったんだよね!」


「これもしかして僕も着るの?」


「もちろん! 一人だけきてたら変でしょ!」


「絶対似合わないと思うけど」


「そんなことないよ! じゃあ早速選んでいくよ!」


 彼女はいろんな種類の着物を手に取って悩んでいた。僕は特にこだわりもなかったので一番無難そうな黒のものを選んだ。彼女は悩んだ挙句、黄色の着物を選んだ。

 僕の着付けは五分ほどで終わった。それから二十分後に彼女の着付けが終わった。着物姿の彼女はとてもよく似合っていた。今まで見た中で一番綺麗だと思った。


「どうかな?」


 彼女は恥ずかしさを隠すように下を向きながら聞いてきた。


「いいと思うよ」


 すると彼女は吹き出し、いつものように笑っていた。


「反応うすいよ! でもともやくんも似合ってるよ!」


 身体中が暑くなるのを感じた。それから彼女と着物姿で一緒に歩いたが、すごく緊張した。


「あそこいってみようよ!」


 彼女は興味があるところには片っ端から入っていった。ほとんどは食べ物系で、いろんなものを食べたが緊張しすぎて味がわからなかった。

 八ツ橋を食べ中がら休憩している際に、前から聞きたかったことを尋ねた。


「君はどうしてそんなに毎日楽しそうなの?」


 素朴な疑問だった。僕とは正反対には彼女はキラキラして見える。


「今が楽しければいいって毎日考えてるからかな! この時間は取り戻せないからね! でも昔はこんなじゃなかったんだよ! すごく落ち込みやすくて何もかも嫌になった時期もあるの」


「君にもそんなかこがあるんだね」


「私にもあるよ! でもそんなこと気にする必要ないって教えてくれた人がいた。そこから私は変われたんだ!」


「いい人に出会えてよかったね。僕に取ったらその存在が今の君だよ。いきるいみもわからなくて死にそうになった僕を助けてくれた。君に振り回されるのは大変だけど、そのおかげで毎日楽しいよ」


 恥ずかしくて彼女の方は見れなかった。どうせ彼女にはからかわれるだろうと思っていたが彼女は無言だった。どうしたのだろうと彼女の方を見ると目が潤んでいた。


「なんで泣いているの?」


「なんでもないの!」


 そう言うと彼女はハンカチで涙を拭き、いつも通りの笑顔に戻った。


「でもともやくんがそう言ってくれて嬉しい! よし! まだまだ店回るよ!」


「え、もう結構食べたよね」


「まだ行きたいところあるの! 付き合ってくれるんでしょ!」


「ずるいなあ。わかったよ」


 その後は食べ歩きや神社に行きおみくじを引いた。おみくじは二人とも凶で喜べるものではなかった。

 時間はあっという間に過ぎ、太陽が沈みかけていた。


「今日は私のわがままに付き合ってくれて本当にありがとう。最高の思い出になったよ!」


「僕も楽しかったよ」


 この一日で、自分自身の気持ちに気づいた。僕はきみといる時間が楽しくて、もっと一緒にいたい。

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