第9話 修学旅行初日

 今日は修学旅行のため、いつもより早い電車に乗る。早い時間ということもあり、電車内はガラガラだ。端の席に座り、寝ているとあっという間に学校の最寄駅に着いた。


「ともやくんはやいね!」


 改札を出ると僕を待っていたのか彼女が話しかけてきた。


「ちゃんときたね。寝坊するか心配だったよ」


「こんなイベントの日に休めないでしょ! 昨日はなかなか寝れなかったけどね。ともやくんは寝れた?」


「いつも通り寝れたかな」


「さすがだね。ともやくんは何が楽しみなの?」


「ご飯くらいかな」


 そう言うと彼女は立ち止まり、びっくりしながら僕の方を見た。


「え、なに?」


「いつも通りのともやくんなら特に楽しみないって言うと思ってたから意外で。これでもう安心だね」

 

 確かに最初は特に楽しみでもなかったが、京都と奈良を調べてみると意外と興味が湧くこともあった。


「まぁ僕も少しは変わったんだよ」


 彼女は嬉しそうに僕の横顔を見つめてきた。恥ずかしかったので目を合わせずそのまま学校に向かった。

 学校に着くとクラスごとで点呼をとり、バスに乗り駅に向かった。駅に着くと次は新幹線に乗り、目的の奈良へ向かう。新幹線の中ではトランプなどをして楽しんだ。移動の時だけでも思ってた以上に楽しくて生きててよかったと思えた。


 奈良に到着し、最初に鹿公園に行った。想像してたよりも大きくて少しびっくりしたがおとなしそうだったので安心した。

 

「ともやくんこれ楽しいよ」


 そう言い、彼女はせんべいを渡して急いで走ってどこかに行ってしまった。何に使うのかを聞く前にどこかに行ってしまう自由奔放な所にはもう慣れてしまった。しかし、これは何に使うのか。そう思ってると鹿が一斉に近づいてきた。これが鹿せんべいか。鹿の勢いが凄すぎてすぐに全部上げて走って逃げた。

 すると彼女がこちらに走って向かってきた。


「どう? 楽しかったでしょ!」


「君のせいで酷い目にあったよ。鹿は怖いってことがわかった」


「私も最初集まってきて怖かった! だからともやくんに半分渡した!」


「あれで半分なの? せんべい買いすぎだよ」


「足りなくなるよりいいと思って!」


「君らしいね」


「褒めてるの? ありがとう!」


 彼女は相変わらずポジティブだ。そんなこんなで彼女に振り回されて修学旅行の一日目が終わった。この調子ではこの先も何かされそうだなと思いながらも楽しみな気持ちの方が大きかった。

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