俺の固有スキルが『変態』だってことがSNSで曝されバズりまくって人生オワタ。予想通り国のお偉いさんや超絶美女がやってきた。今更隠してももう遅い、よなあ。はあ。
二部第1話 変態、ラジオ体操参加させられて汗だくオワタ
二部第1話 変態、ラジオ体操参加させられて汗だくオワタ
夏休みの始まり、それはやはりラジオ体操。
だが、残念ながら、高校生の俺にとってはもう懐かしい話。
自分が将来固有スキル【変態】になるとは知らずに無邪気に今はもういない弟と、治療中の理々と一緒に行っていた小学校時代。
【変態】に目覚めたものの、むしろ、日常に溶け込むために、あと違法ダンジョン攻略の為に準備運動として、元気に参加していた中学時代。
とにかく、俺はラジオ体操に参加していた。
けれど、俺ももう高校生、流石に……と思っていたら、呼び出された。
くれくらくらぶ。
俺の中学時代のヤンチャダンジョン攻略動画で使っていたキャラ、身体を【変態】させることで生み出した紅と黒の鎧を纏った厨二病戦士、
そこが主催のラジオ体操に。
嫌な予感しかしないが、断るのも悪いし、俺の所属する冒険者育成チームのボスであり、俺の年の離れた友人、ぼっち究極体の、【女帝】こと氷室レイラさんも参加するというのだから、参加せざるを得ない。無地の白T着てるけど、汗かいた時のこと考えてるよね? いや、考えてるとマズいのか?
妹の固有スキル【獣化】を持つケモミミ美少女、氷室ジュリちゃんもついてきている。白の長めのワンピースなんだが、えーと、汗かいた時に見えても大丈夫にしてる? いや、見せる方向でなくて、見えないように。
「あの、ラジオたいそう、たのしみですね!」
アニメ声。かわいい。
小柄で銀髪な彼女だが、同い年。だが、その姿は場合によってはJS……いや、よそう。
犯罪の匂いがしやがる。
でも、ラジオ体操が良く似合います。
「ラジオ体操は最後の方のジャンプがいいよな」
古巣正直、通称アホは欲に忠実である。
「お前、揺れるのを見たいだけだろ」
「ち、ちげーし! あばばばばば!」
固有スキル【正直者】。嘘を吐くと身体に電気が奔る謎スキルは今日も絶好調。
「おい! 夏輝! 僕の眼鏡も揺れるぞ!」
だから、どうした。
元クラスメイトで委員長の、新井慎一郎が、眼鏡をクイクイしながら言ってくる。
おい、元居た四方山で一番の秀才と言われたお前がアホのせいでこんなことに……!
いや、違うな。眼鏡は元々コミュニケーション面ではアホよりアホだった。
友情と愛情を混同し、更にちゃんと理解できていないのだ。
心の眼鏡をしっかり見直せ。
「なーつき! 今日も三十度超えるんだって、こういう日をなんていうか知ってる?」
漫画の幼馴染に憧れる自称幼馴染の武藤愛さんが至極真っ当なクイズを出してきた。
俺は感動した。
大体、愛さんが出してくるクイズは、愛さんの愛読書、自称幼馴染という狂気に走らせた夢見きらりの『はナツキ合わせる二人のマナびや!』からの出題だった。
それが……泣きそうだ。
あと、恐らく俺に食べさせるつもりで持ってきたんだろうお弁当箱からジュワアという何かが溶ける音が聞こえる。泣きそうだ。
一先ず、真っ当じゃない朝食は置いといて、真っ当なクイズに答えよう。
「真夏日」
「んんんんっ……!」
べらぼうに色気ある声を上げる愛さん。地面に崩れ落ちる。
「ちょっ……! え、どうした?」
「あのね、最近、『まな』って夏輝の声で聞くだけで、興奮してきちゃって」
ヤ バ い
NGワードが誕生した。
正直、ドキドキするかしないかで言えばドキドキする。
だが、今後まなというワードを俺が言えば、わざと武藤さんの喘ぎ声を聞きたかったんじゃないかとなりうる。
俺は急いでNGワードを探すが、混乱しすぎてて芦田○菜ちゃんしか思い浮かばない。
一先ず、気を付けよう。ごめんな、芦田愛○ちゃん。
さて、指定された公園に辿り着くと、くれくらくらぶの、いや、育成組の面々が準備を終えている。
「ごめん、遅くなった?」
「いえ、我々は
リーダー東江さんが跪いて答える。
やだもう。
「え、と、始める?」
「はい! では、皆さんは今日が初めてかと思いますので、今日は見ながら何となく我々に合わせてください」
ん? ラジオ体操は全国共通のはず。
ははあ、都会っ子はラジオ体操なんてやらないと思っているのだろうか。
ならば、完璧なラジオ体操を見せつけて、知っていることを驚かせてやろう。
音楽が流れる。お馴染みのあの曲だ。
『では、くれくら体操第一』
ん? くれくら体操? 声が鈩君だ。いつもののんびりした声でなく、きびきびした声だ。
『腕を前から上にあげて持ち上げた魔物を真っ二つに裂くくれくら様~はい』
知 ら な い
くれくらくらぶの面々は何事もなかったかのように、そして、楽しそうに笑顔で体操している。
アホ達もすぐに順応している。
『血を浴びて笑うくれくら様のように爽やかに~』
やったことある気がしてきた。いや、体操ではなく、
『身体の外側から内側へ、内側から外側へ、握った
なるほど理解した。これは
って、なんそれぇええええええええ! ZA○YじゃないよCRAZYだよ!
よく見つけて来たなこれだけの種類!
『足を開いて胸の運動。腕を横に振って魔物を裂いて』
俺そんなに裂いてたっけ?
『斜め上に大きく、息を吸って、吐いて』
気付くと背後にジュリちゃん。とっても大きく息を吸って偉いけど、吸いすぎじゃない? 俺の方向いてない? あと、コイツ獣化してますよ、普通の公園で、ねえ、ダンジョン庁のお偉いさんのお姉さん。
『前後に曲げる運動。弾みをつけて柔らかく3回。地面に逃げようとした土竜鼠を引き抜くように』
気付くと前に、そのダンジョン庁のお偉いさんであるお姉さんの、レイ。俺の真ん前で前屈して、シルクの食い込んだ何かが見えそうになったが、僕も前屈してたからわかんない。おい、膝を曲げるな。
ていうか、この姉妹。前後で挟んで抜群のコンビネーションを見せやがる。
そして、右を見れば愛さんが目が合うだけで悶え、左を見れば眼鏡がクイしてる。
ナニコレ? もうこれが珍百景だわ。こんな光景他にはないヨ。
そうして、俺の黒歴史を思い出そう体操は終わる。
『続いて、くれくら体操第二』
終わるのぉおおおおおお!
一先ず、今日の所は、第一で終わった。
第九まであるらしい。年末か。
さて、ラジオ体操が終わると恒例のスタンプカード押しである。
押し係は何故か俺。
一番先頭は姉さん。
姉さんは偉かった。今日は黙々とちゃんと体操してた。
体操はアレだったけど。
「夏輝、おして」
「うんってあれ? スタンプは?」
「夏輝の指」
は?
見れば姉さんはハアハアしながらスタンプ台に俺の指を押し付けようとしてくる。
「ちょ、ちょっと……なんでだよ!」
「ほんとは……血判がよかったんだけど……」
「おしまーす」
俺は大人しく押し始める。くそう、ハードルの高いものを先に見せて……なんという交渉術。
姉さんは恍惚として表情でスタンプカードを眺める。
そういえばこの人こういうの大好きだった。蒐集家だしな。
「私のが、そのうち夏輝のでいっぱいに」
言 い 方。
姉さんのスタンプカードが、俺のスタンプでいっぱいに、ね。
ちゃんと言いなさい。ほんと、ヤバいから。
「おねがいしまーす」
武藤さんがやってくる。はいはい……
「っておおおおい! これ、婚姻届じゃないか! なんつーベタな……!」
「ベタもたまにはいいでしょ」
ペロと舌を出す武藤さん。かわいいな、くそう。
「んんんんっ! もう! 今、かわいいって思ったでしょう?」
思考が読まれている……! 武藤さんの固有スキル【愛人】の進化が止まらないんですけど。
おい、神様、進化のバランスおかしいだろ、これ。一人だけ超人類がいるんだけど。
ジュリちゃんは、しきりにスタンプカードを嗅いでいた。いや、匂う?
レイは、婚姻届を出すネタが被って悔しそうにしていた。レイは最近アニメを見過ぎではなかろうか。しかも、ちょっとラブコメヤバめの。
そして、くれくらくらぶは漏れなく俺の指スタンプに涙していた。ほわーい? こわーい。
「あれ? 秋菜、お前はいいのか?」
「あ、うん、あたしは参加してなかったし……」
そういえば、秋菜が体操している姿を見なかった。
あれ? 何してた?
「とりあえず、仮だけど、はい」
秋菜が何かを渡してくる。
そこには『更科夏輝で覚えるくれくら体操第一』と書かれた、俺の写真付きの解説書が。
こ い つ ず っ と 撮 っ て や が っ た
満足そうにドヤァしてる妹。
っていうか、写真見たら、俺全然、くれくら体操第一出来てないんだけど。
「兄さんの成長かんさつ日記」
ドヤァ。カワイィ。オイィ。
夏休みの始まりはラジオ体操である。
決して、くれくら体操第一ではない。
ぼくのなつやすみが始まった。
既に脇汗が止まらない。
あと、そこの痴女姉妹。わざと汗かいて透けさせようとするな。
赤と青の何かが見えてきてるぞ。何かは言わんが。ばかばか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます