第58話 変態、チャラ男2にゲーム対戦申し込まれてマウントオワタ

「ねえねえ、いいじゃんいいじゃん! 俺達槍サークル『グングンナル』と一緒にぱーりーしよーよ☆」


 ピンク髪のチャラ男2こと、千原嵐歩が理々に付き纏っていた。

 槍サーなんてあるのか。どうせ不健全に違いない。


「あの、私は、用事があってここに来たんです!」

「用事って何さ~? じゃあ、オレ手伝っちゃうから、それ終わったら行こうよ~☆ じゃ、その用事の為に案内するから。ね?」


 チャラ男2が理々の手をとり歩き出そうとする。


「キミ、結構手がゴツゴツしてるんだね」

「そうなんです~、よくゴーレムみたいって言われますぅ~」


 チャラ男2が振り返ると俺がいる。ブルブルボク悪いゴーレムジャナイヨ。


「誰ヨ!」

「俺ヨ!」

「だから、誰ヨ!」

「だから、俺ヨ!」

「夏、輝……?」


 理々が俺達の不毛なラリーに割って入る。

 チャラ男2がその声に反応して俺の顔を覗き込む。


「ああー! お前、変態じゃん! ツブヤイッターで見たぜ! すげー生変態だ」


 うるせえ、生変態男子大学生が。


「で、生変態がなんの用だよ?」

「ああ、この子、俺の幼馴染なんで、生変態男子大学生変態は触らないでもらえます?」

「ああん?」


 香水くせーな、コイツ。と思ってたら、香水まみれがニヤリと笑う。


「じゃあ、勝負しよーぜ!」

「勝負?」

「そ☆ 御剣大学名物、VRバトル! FU-!!」


 しばきてえ。




 御剣大学にあるトレーニング施設の一つでコロッセウムというのがあり、そこでは自身の能力を解析した上で、データに乗せ、自身そっくりのキャラクターを対戦させることが出来る。

 つまりはまあ、ゲーム的に戦闘シュミレーションが出来る訳だ。


 俺は狂気の仮面道化クレイジークラウンではなく、通常の冒険者のような恰好で戦いに挑む。装備は、鋼の手甲に、軽鎧、兜、まあ、格闘家モンクなんかの一般的な装備だ。むこうは忍者のような装備。


『ほっほー! 陰キャだけにインのファイトがお得意かな~☆』

『忍者って紙装甲じゃないんですか? 薄っぺらで似合いますね』


 ゲームが始まる。

 どちらも速度重視だが、やはり忍者の方が早い。

 真っ直ぐ突っ込んでいく俺を避けて円の動きで距離を取りつつ俺を狙う。

 忍者らしく手裏剣をいやらしいタイミングで投げてくる。

 その度に俺は直進を諦め横に逃げる。

 そして、また距離をとられる。


 その中で少しずつだが向こうの遠距離攻撃により体力が削られていく。

 直撃は避けているが紙一重。当たった部分に痛みはないが振動が起きる。

 体力がゼロになれば負け。視界の端に残り体力が表示される。

 ふむ。


『はっはっは! どしたどしたー? 手も足も出てないじゃない』

『いやあ、流石っすねDDパイセン。このゲームでは圧倒的に遠距離攻撃が有利だと知ってのその選択』


 そう。これはゲームとしては恐らく欠陥がある。早さを徹底的にあげて、遠距離攻撃に徹すれば勝率は格段に上がる。

 ただし、訓練の時に自分の普段使わない装備で戦う人間なんていないし、勝ったからなんなのだという話になる。トレーニングの意味がない。いうなれば初見殺しだ。


『勝ちは勝ちだろ? さあて、リリちゃんとどこいこっかなあ? 夏だし海で水着……超やばいの着てもらおっかな~。浴衣もいいね。汗ばんでじっとり最高☆ あとは、やっぱりナイトプール! からの、バー! からの、お持ち帰り! FU-!』

『おい』

『あん?』

『リリに触ろうとしてんじゃねえよ』


 俺はチャラ男2に向かって飛びこむ! 振りをして、右に飛ぶ。

 チャラ男2の手裏剣が地面に刺さる。

 そこで、もう一度飛んで戻ってきて手裏剣回収。リサイクルリサイクル☆

 それをチャラ男2に向けてダアアアアアツ!


『マジか! あぶね!』


 忍者の素早さを活かし左に避けようとするチャラ男2。

 だが。


『その手裏剣……曲がるよ』


 美しい弧を描き俺の投げた手裏剣がチャラ男2の足に刺さる。

 ブルゥアアアアア!


『は! まだ足やられただけだろ! ま、だ……!』


 チャラ男2の足が震えてる。

 このシュミレーションでは大きなダメージを受けるとその部位が大きく振動し動かしづらくなる。

 手を一本犠牲にしてでも足を守るべきだった。

 その緊張感や危機に対する意識が低かったな。

 俺は足に意識が向かったその瞬間一気に間合いを詰めてチャラ男2に迫る。


『インファイトか!? いいぜ、やってや……!』

『歯ぁ食いしばれ……!』


 俺はチャラ男2の小賢しい暗器攻撃を払いのけ、思いっきり腕を引き絞る。


『うぎゃああああ! いてええええ!』

『騒ぐなよ、痛みはないだろ? それに……ダメージもそこまでないだろ?』

『へ……マジだ? なんで?』


 俺は、ぶつかる直前で勢いを思い切り殺した。


『肉体的ダメージ与えられないんだろ? なら、精神的ダメージを思い切り喰らわしてやるよ』


 足をひっかけ仰向けに倒し、跨るTHE・マウントポジション、いえー。

 マウント(両面)からの黄金の右寸止めパンチを繰り返す。

 ダメージはほとんどないが恐怖と言う精神的ダメージがあるはず。

 チャラ男の上で空振る! ブル! ブル! ハットトリック!


『ひい! うわあ! ぎゃ! ああ! ごめっ! ゆ、許してぇええ!』


 チャラ男2のVRゴーグルが涙で壊れるまでやっちゃった☆

 俺はみんなの元へ戻る。

 いやあ、マジ、ゼロワンでバーストでスタッツしたわ(注、更科夏輝にダーツの知識はありません)


「ははは! 思った以上に危ない男だな君は!」

「いや~ちょっと引いちゃったわ~。ねえ、春菜」

「ええ……そうね」


 姉さんの様子がおかしい。姉はどうしてしまったのか。いや、元からかはっはっは! はあ……。


「姉さん?」


 とん……とん……とん


「あの、その右手の癖……」


 とん……とん……とん


「冬輝」


 俺は振り返る。そこには変態でも見るかのような怯えた目をした幼馴染がいた。


「あなた、冬輝なんでしょ……? なんで……なんで、夏輝の振りしてるの?」


 とん……とん……とん


「はあ? 何言ってるんだよ……」


 とん……とん……とん


「わ、私知ってるんだよ! 見たことあるから! 冬輝の固有スキルが【変態】だったんだって……昔、見たの、鑑定レンズで」


 ……え? なんだって?

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