第52話 変態、悪夢を見させられ絶望オワタ

 空ガ赤い。


 叫ビ声、泣きゴエ、怒声。


 焼ケたにオい、血の臭イ、仄カな甘イ匂い。


 おレは半身ヲ失っテ、座リ込んデいタ。


 身体ガ熱くテ、冷タい。


 カべガ硬イ。


 もたれカカり、ぼーっト遠クを眺メる。


 『ヤツ』は、去った。


 これでもう姉さんヤ妹ハ大丈夫ダろウ。


 しヌ。


 シぬ。


 死ヌ。


 オれももウ、おレに悩ム事ハ無い。


 とん、と『在る方の』肩が当たる。


「なア」


 見るト鏡ミたイに正反対ナ俺が、いタ。


「オ前、どっチの、俺だ?」






 そこでぱっと目が覚めた。

 良かった。

 夢だ。

 夢だけど、夢じゃなかったけど、夢だ。

 悪夢だ。

 最悪だ。

 汗びっしょりだ。


 だけど、悪夢は終わらない。


 今、俺はモンスターに囲まれている。


 まず、白銀の狼。

 狼は、今、俺の枕を奪い火が出るんじゃねえかってくらい顔を擦り付けてやがるっ……!


 次に、真っ黒な魔女だ。

 魔女は嗤いながら俺の包帯を剥ぎ取り、まるでそうすることが当然かのように自分の物にしたんだっ……!


 最後に、女だ。

 女は、黒く濁った何かを手で弄び煙を上げながら『オニギリオニギリチョイトツメテ』と歌ってやがるっ……!


「いや、ここ病室!」


 稀代のツッコミMACHINE東江さんには及ばずながらの更科夏輝のツッコミ炸裂!


 氷室さんとのどきどきアオハルトーク、略して、アオトーークで眠ってしまった俺が目覚めるとこうなっていた。

 どうやら氷室さんが朝方『自分は更科夏輝と寝た』と他の女性陣にマウントとりにいったらしく、怪我人だからと我慢してた我慢袋の緒が切れたらしく、秒で大集合。我慢袋ってなんだ?


 ちなみに、現在欠席我が妹、秋菜さんは【人狼の塒】をぶっ潰し中、昨日一度女性陣総攻撃した後、ローテでずっとぶっ潰してるらしい。

 今は秋菜のターン! らしい。

 ごめんな、人狼。


 さて、モンスター(変態)を改めて紹介していこう。

 まずは、白銀の狼、氷室ジュリさん。

 驚くべき事にケモミミだ。

 固有スキル【獣化】によって生まれた恐るべきカワイイ生命体だ。しかも、アニメ声。

 だが、その跳ね上がった嗅覚でもう見せちゃいけない顔になっちゃって口からお水を垂らしてる。これ以上詳しく言えない。


 二人目、姉、春菜さん。

 ローテで抜ける時以外ずっと包帯を変えてくれる。ずっとだ。

 回復術式付与の包帯は確かに最初に当てた後は、回復量は落ちていく。が、マジでずっと。え? 看護士になるの? 練習してるって位黙々と巻いて外してパッキングしてる。

 あと、なんでか看護士姿。なんでや。雰囲気?

 ていうか、ブラックナース。どこで買ったそれ。


 三人目、愛さん。

 起きたら美味しいものを食べてもらおうという可愛いフリフリのエプロン姿のスポーティーショートカットガールのカワイイ破壊力はは凄まじい。が、それをぶち壊すダークマター。遂に煙まで出し始めたから、次はブラックホールでも生み出すんじゃなかろうか。


 さて、こんな不毛な争いの火種、氷室さんは事後処理の為ダンジョン庁に戻ったらしい。

 氷室さんと友達になるという信じられない出来事。

 でも、それは確かにあったことで、俺にとっても間違いなく大きな変化だった。

 そして、氷室にとってもだろう。

 氷室さんは変わった。

 これからはもっと素直に楽しそうに生きてくれるだろう。

 無理をせずに。


 思えば、氷室さんはずっと無理しているように見えた。

 あんなに肌を曝していたのも俺を繋ぎ止める為に無理していたのだろう。

 友達になった今、それも必要なくなった。

 MINEの音が鳴る。

 氷室さんからだ。

 画像は氷室さんの自撮りだったけど、裸じゃなかった。



 ドえらいの着てた。



 もうまぢでいぇない。

 なんで着てる方がヤバいのか。

 とってもとても不思議だなあ。なつを。



 ジュリさんのアニマルセラピーか、姉のサブスク包帯か、愛さんのダークマター回避のためか、妹のありとあらゆる医療用撮影機器による精密な撮影のお陰か、俺はすぐに完治した。

 絶対に氷室さんの画像のお陰じゃない。


 そして、その後すぐに、東江さんから呼び出しを受けた。


 どこどこに来られたし、というまるで果たし状のような呼び出しに従い、向かった先は、高級マンションの一室だった。


 電話越しの指示に従い、やってきた俺を東江さんは真剣な眼差しで迎え、部屋に招き入れた。


「どうぞ……」


 大事な話があるらしい。


 沢山の人の気配と殺気だった雰囲気を感じる。

 息を殺し、俺の一挙手一投足に集中している。

 俺は万が一に備え、バレない程度に魔力をはしらせる。


 東江さんが、ドアノブに手を掛け、喉を鳴らす。


 緊張感が走る。


 勢い良く開かれたドア。


 そこには……。


狂気の仮面道化クレイジークラウン復活の祝祭』


 と、書かれた横断幕。横断幕? うん、多分、横断幕。


「は?」

「「「「「「キャアアアアアアアアアア!」」」」」」


 巻き起こる拍手。悲鳴のような歓喜の叫び声。

 泣いてるひとがいる。

 おがんでるひとがいる。

 だきあってよろこんでるひとがいる。

 あがりえさんがひざまづいてる。


狂気の仮面道化クレイジークラウン様のご帰還、心よりお慶び申し上げます」


 ん? くれいじーくらうん、さま?


 俺は知らなかった。

 悪夢は終わっていなかったことを。

 黒歴史曝されまくる闇の宴が始まってしまうことをっ……!

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