第43話 変態、普通にしかられて感動オワタ

 全俺が泣いた。


「ちょっと聞いとるん!?」


 俺をしかってくれる人がいることに。


「ねえ!」


 俺を普通にしかってくれる人がいることに。


「あんた! ほんま失礼なんやきん!」


 俺の回りには俺をしかれない人、そして、普通じゃないしかり方をする人ばかりだったのだ。


「何度言えば分かるの!? 弟の食べたアイスのはずれ棒は姉が預かるものでしょう?」※ご家庭によります


「なんでこんな常識も分からないの? お風呂と脱衣所は別。だから、お風呂とトイレは念写ガードしていい約束だけど、脱衣所は違うに決まってるじゃない?」※ご家庭によります


「もっと父さんを責めろよぉお! ぬるい! ぬるすぎるっ!」※ご家庭によります


 以上、一部抜粋。


 あ、ちなみに、今日は氷室選抜育成チームの顔合わせです。

 そこでいきなり出会い頭の東江さんによるおしかり。


 『人の話をちゃんと聞かず帰ってはいけない』


 それは『普通』なのだ。


「まあ、内容にもよるけどね」

「なんなん? 急にスンとして……まあええわ、あの、」

「ちょっといいですか?」

「話聞きまいよ!」

「めっちゃ訛ってますけど、しかも、多分九州訛りじゃないですよね?」


 氷の精、東江さんは九州から来たはず。だけど、俺のイメージの九州の訛りと違う。ばってん。

 東江さんははっと口元を抑え、顔を真っ赤にしぷるぷるしながら口を開く。


「……両親出身香川県やきん。悪い?」


 かわいい。


 しかも、


「香川県出身なんですね! 偶然ですね! 俺香川大好きなんです! うどん好きで憧れの血なんですよ! まだ行けてないけど!」

「ほんまに!? ええとこやきん、絶対来まい! ってちゃうわー!」


 輝くうどんスマイルから急に七味ぶっかけたようにキツくなる氷の精、ノリツッコミとは忙しいな。だがそれでいい。


「こほん! ……そういう話でなく、更科夏輝! あなた辞退なさい! と言ったはずでしょう!」

「なんで?」


 これはダブルミーニングだ。なんでかわいい香川弁やめたのと、なんで辞退しなきゃいけないのというダブルミーニングだ。なつっちです!


「それは……!」

「東江、それ以上は……」


 傍らで俺達の話を聞いてた【神の子】が遮る。

 その視線で幾分か冷静になれたのか東江さんは深呼吸を一回、そして、再び俺の方を向く。


「私たちには大きな目標がある。その目標の為には、これからじっくり育てていく人物は要らないの。それに……そのメンツでゆっくり育成ってなんなのよ!」


 俺の周りには、アホ、眼鏡、秋奈、ジュリちゃん、武藤愛さんだ。


「男子はともかく! 女子はトップクラスやん! 普通に難関ダンジョン行きなさいよ!」


 まあ、確かに氷の精が言うとおりだ。


 だが、俺だってもっとかよわい女子と一緒に行きたかった!

 なのに、コイツら根回し万端で加入してたんだ。


「まあまあ、俺らが弱い分バランスはいいんじゃない?」

「そういう問題ちゃう!」


 氷の精が叫ぶ。その剣幕に誰もが押し黙る。が、面と言われたアホだけちょっと興奮してる。き、も、い。

 東江さんも声が大きすぎたと反省したのか、ちょっとバツが悪そうに俯く。


「……あ、あの、とにかく今は強いヤツが必要なの!」

「じゃあお眼鏡叶うくらいならいいんだよね?」

「え? ええ、まあ」


 眼鏡って言った瞬間に反応するな、眼鏡。お前じゃない。


「じゃあ、今日頑張って証明するよ。居てもいいと思ってもらえるように。今日のダンジョン演習で」


 見計らったかのように氷室さんが黒服と何人かのテレビで見た冒険者を連れて現れる。部屋に緊張感が走る。勿論、俺もだ。


「待たせたな。では、行こうか。互いを知る為にダンジョンへ」


 氷室さんはそう言うと、俺にウィンクをしてくる。

 氷室さん『互いを知る為だ』とか言ってMINEで肌色画像を送ってくるのマジでやめてください。マジであの人、どきどきさせてくれるぜ。

 興奮よりも恐怖が勝る。変態に対してな。


 あ、ダンジョン? いくいくぅ。


 何が怖いって、今は一番ダンジョン怖い。おあとがよろしいようで。

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