俺の固有スキルが『変態』だってことがSNSで曝されバズりまくって人生オワタ。予想通り国のお偉いさんや超絶美女がやってきた。今更隠してももう遅い、よなあ。はあ。
第40話 変態、大集合されて感動の再会オワタ
第40話 変態、大集合されて感動の再会オワタ
「で、何故愛さんがここに?」
「いや、だから、夏輝がヘコんでるって古巣君に聞いたから来たの。元気出してほしいから、お弁当も簡単なものだけど作ってきたよ」
おい、愛さんさっきダンジョンに潜ってきたって言ってたよね。
「あの、愛さんや、この何かは何かな?」
「鬼刺し」
馬刺し感覚で言わないでほしい。
すげー紫色の肉がビチビチしながらナイフに刺さってる。
生きが良すぎて夏輝逝きそう。
あと、弁当に肉刺しって狂ってんのか? 狂ってんのか……。
「はっはっは! 青姫、残念だったな。更科夏輝はそんなものは食べない」
何故ここにいる? 【女帝】サマ。女帝こと氷室レイラさんが上級冒険者用の個室から現れる。
「あ~ら、氷室さん、ダンジョン庁のお偉いさんがなんでここに? っていうか、あなたが夏輝の何を知ってんのよ」
「私は、更科夏輝の保護者的な立場、つまりは、家族的な立場、つまりは、肉体関係的な立場といっても過言ではないからな」
いや、過言。
「俺や古巣達が特例冒険者になれたかどうかの確認ですよね?」
「つれないな、更科夏輝……まあ、それだけではない。育成チーム組で早めに着いた奴らの登録も済ませておこうと思ってな」
氷室さんが立ち上げた若手冒険者育成プロジェクト。
日本最初にして最強のパーティーがバックについた大注目のプロジェクトでは、全国から最強の原石が集められている。
っていうか、昨日の今日でもう来たのか。いや、もう来る予定だったのか。
「今、諸々の手続きを行ってるよ。どうしても、地域差や慣習の違いがあるから早めに来て慣れてほしかったのもある。それより、武藤愛。お前のあの料理はなんだ? あんなものを更科夏輝が食べて腹を壊したらどうする」
おお! 氷室さん! 今日は流石にお仕事だから真っ当だ!
「更科夏輝が食べたいのはにょたいも……!」
やめろぉおおおおお! 違うよね! にょたいもっていうお芋だよね!?
多分、南米あたりの芋じゃないかなあ! 知らんけど!
「あの、おねえちゃん……早くしないとせんどが……!」
俺は光の速さを越えて、かわいい小動物のような瞳でこちらを覗く狂戦士ちゃんこと氷室ジュリちゃんの顔をぷにっと押してドアを閉めた。
なんかちらっと見えた肌色と魚の生臭さと「ふへへへ、手の匂い……」というアニメ声なんてボクシラナイ。
「ほしいな……」
なんか聞こえた気がするけどボクシラナイィイイイイイイイ!
「ふ~ん、【女帝】があれだけのご執心とは、君、ほんと何者?」
背後から声がする。振り返ると男がいた。
跪いている。俺が見えるのは金髪ロン毛の頭頂部。
「僕の名は、
男は俺の太ももに話しかけている。
「あの、」
「おっと失礼。僕にとっては太ももこそが顔なんだ。失礼失礼」
男が立ち上がって今度は顔同士で見合って握手を交わす。
いや、あんたにとって太ももが顔なら、あんたも太ももが顔だろ。
とは言わなかった。
なんか怖かったので言わなかった。
「それにしても、綺麗な髪だな。トリートメントはどこのでしているんだ?」
どっかのSNS始めた腰痛作家様の代表作で聞いたようなセリフが右から聞こえる。
ちなみに、俺はトリートメント等にこだわりはないが、お姉さまが俺の髪のトリートメントにこだわりがあり、ちゃんと言われた通りしないと、翌日100パーセント風呂に入ってくるので、黙って従っている。言われた通りにした場合50パーセントだ。
格段に変わる。排水口のところが魔力ポケットに変換されてた気がするが知らない。姉の空間収納スキルなんて知らない。
「ワタシの名は、
うるせえ、スキンヘッド。髪生やしてから言え。
「あくしゅ……ふふ……手が大きいねえ」
勝手に握手している赤のインナーカラーの入った地雷メイク女子。
誰だお前。いや、やっぱいいや。
「
「ちょっとやめなさい! 唯火! ごめんなさいね、ウチのメンバー達が……あ、私は、
やべえ奴らだ。
なんだこいつら。
「あ、ごめん! 自己紹介が遅れたね! 私たちはフェッチーズ! パーツ大好き人間で集めた冒険者チームだよ」
やべえ奴らだ。
なんだこいつら。
「まあ、イロモノに見られがちなのは分かるよ。でも、実力はあるつもり。それに……君の実力も知ってるよ。更科夏輝君、ウチのパーティーに入らない?」
ヤバい魔力を溢れさせながら、宇治土公さんが俺に手を差し出してくる。
ここで拒否すれば、何かしらの報復もありえるのかもしれない。
俺は……
「ちょっと待て」
出しかけた俺の手を下ろさせながら氷室さんが割って入る。
「……何の用かしら、女帝サン?」
「更科夏輝は、私の育成プロジェクトの一員だ」
「だから、何? チームはまだ決まってないんでしょ? じゃあ、強いチームに入った方が彼の成長の為でしょ?」
「強い、チーム、か……試してみるか?」
「あら? 女帝自ら?」
氷室さんと宇治土公さんが睨み合う。女帝にも引かないとはこの人、一体……。
「いいわ、やってあげる」
「ほかは?」
「じゃあ、あたしも参戦!」
愛さんが元気よく手を挙げている。
「流石に多勢に無勢でしょ。それに、『はナマナ』最終話で『ナツキの腎臓が食べたい』って言って腎臓を貰うのはヒロインって決まってるんだから」
アゲナイヨ?
ていうか、なんだその漫画。
「あとは?」
「わたしも……参加します……」
服を着た氷室ジュリちゃんがやってくる。よかった、服を着ている。
ちょっと魚臭いがこの際気にしない。大事なのは、人間は服を着る生き物であるという事実だ。
「四対三、か……あと一人誰かいれる?」
「いや、いい。だが、更科夏輝は、フィールドの中に置いておくぞ。顔を見せてないお前らのチームメンバーに何かされないとは限らないからな」
「あら……目ざといわね。小姑みたい」
睨み合う二人。しかし、俺は違和感を感じていた。
何かとんでもない勘違いをしているような胸騒ぎ。
しかし、もう止めることはできない。
こうして、俺を巡る戦いが始まった。
そして、終わった。
いやあ、一瞬でした。
ダイジェストで解説。
『私の
『手はわたしにチョウダイね』
『
『『ぎゃああああああああ!』』
『キミの髪も好きですでも、長ければもっーと好……!』
『大打乱舞!』
『きでぇえええええええええす!』
『細い太ももだ……そんな太ももでは……』
『ギャハッハア! そんナにスキなら十倍にしてやるヨオオオ!』
『もももももももももももももももももももも!!?』
以上。
幻影舞踏の時に何故か『俺が』氷室さんの分身に囲まれて見せつけられたりとか、愛さんが激しく動き回って相手を圧倒しているときに何回もラッキースケベで『俺と』トラぶろうとしてきたりとか、狂戦士ちゃんが相手の腿をタコ殴りにしてる間、顔はずっと『俺に』向けてなんかくんかくんか言ってたが気にしない! 放送の都合上カットしました! 夏輝ディレクターズカットでお届けしました!
「茶番ね」
その声はその場所で驚くほどに響き渡った。
声の主は、遠くからこちらを見ていた。
真っ青な髪を靡かせながら少女はこちらをまっすぐ見ていた。
噂に聞いたことがある。
ダンジョンに生まれた時に捨てられ、ダンジョンで精霊に育てられた少女。
魔力の影響で髪があり得ないほど青くなってしまった少女。
彼女の名は、東江弓香。
九州から育成チームに呼ばれた【氷の精】と呼ばれる天才だ。
そして、その後ろに3人の少年少女。
日本最大規模の
前代未聞の二つの固有スキルを持つ天使であり悪魔である少女。【聖魔女】
そして、もう一人は、確か、氷室さんが見つけてきたという、確か、
「更科夏輝、私は、いえ、私たちはあなたを認めないわ」
東江弓香は、俺に向かって凛とした声で告げる。
「育成チームを辞退なさい」
「……いやだと言ったら」
「力づくでも、いいのよ」
ほかの三人もやる気のようだ。
なるほど、さっきの強烈な違和感はあのチーム噛ませ犬ではなく、こいつらが俺を見ていたせいか。たぶん、鑑定道具か何かを使って俺のスキルやらなんやらを調べていたのだろう。そして、どうやらお眼鏡にかなわなかった。
青い瞳が俺を捉えて離さない。
まっすぐな目。
やれやれ、あんな目されたらな。
「……今日は親が帰ってくるからさっさと帰りたいんだよ」
俺は、ゆっくりと呼吸を整えながら魔力を練り始めた。
そして、帰った。
なんか遠くでわーわー言ってたけど気にしなかった。
だって、早く帰りたかったんだもん。あ、特例冒険者は合格してたみたいです。やったー。
「夏輝おかえり」
「あに、おかえり」
俺は、ガラガラとかおしゃぶりを持った偽メイド本物姉と、念力でドローンカメラを操りながらスカートの裾を持ったまま罠に嵌めようと待ち構えていたこざかしい妹を無視して通り過ぎていく。
だって、早く会いたかったんだもん。
お父さんとお母さんに。
俺は地下へと急ぐ。
「父さん! 母さん!」
俺が扉を開き二人を呼ぶ。
「夏輝!」
「会いたかったわ夏輝!」
俺は目に涙を浮かべながら二人へと近づく。
「二人とも! ……近所迷惑になるからあんま騒ぐなって前から言ってるよね。外まで声と音が漏れてたんだけど」
俺は、血みどろで恍惚とした表情を浮かべる父、一輝と、上級魔法をなんの躊躇もなく父に放とうとする母、四季に向かって微笑みを絶やさず言った。
「俺の望む普通の生活を脅かすようなレベルのアブノーマルな夫婦のスキンシップしたいなら、もっかいダンジョン潜ってこい。このド変態夫婦が!」
父が幸せそうだったし、母が悔しそうだった。
もうやだ、この家族。変態しかいないじゃん。
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