第22話 変態、妹に頬ずりされるのを止めれず兄オワタ

 【変態、赤ホブ屠ってみた】


 動画タイトルをもしつけるならこんな感じだろうか。

 そんな事件が起きた今回のダンジョン研修は、途中までは順調だったらしい。


 まあ、研修場所は初心者ダンジョンでお馴染みの【小鬼の洞窟】で、チーム【疾風怒濤】はなんだかんだで上位パーティーだし、愛もいる。

 その上で、超能力を操る【念者】の秋菜がいるのならば、当然と言えば当然だ。


 問題が起きたのは第三層だったらしい。

 特にダメージもなく第三層まで辿り着くといきなり弱っているゴブリンを発見。


 今後の為に倒しておきたいと円城が強く主張。

 そして、押し負けた【風騎士】の許可の元、攻撃。

 しかし、思うように当てられず、ゴブリン逃亡。


 追いかけた円城を追う形で秋菜達もダンジョンの奥に。

 ……この段階で秋菜は一度念のため連絡を俺にしたらしい。本人曰く『嫌な予感がしたので』


 わたしわたし詐欺はこの時か。

 心配かけ過ぎないようにちょっとだけ意識をこっちに向けさせたわけか。

 秋菜らしいっちゃ秋菜らしい。


 その後、あの広間に侵入。

 追いかけたゴブリンを殺す円城を発見。

 雑賀先生からの注意を受け円城合流。

 そこに赤いホブゴブリンが登場。秋菜は撤退を提案。


 が、【風騎士】がダンジョン管理を理由に討伐を独断で決めた。


 ただ名を上げたかっただけだろうな。

 未知の魔物と遭遇した場合、発見、撤退、報告、国の討伐隊、もしくは公式依頼を受けたチームが来るという流れが普通だ。


 赤いホブゴブリンが一人で向かってきたそうなのだが、流石に多勢に無勢。

 赤いホブゴブリンは逃げるように下がっていく。


 という赤ホブゴブリンの作戦だったのだろう。

 気付けば、ゴブリン達に囲まれていたらしい。


 それに対し急に苛立ち始めた円城が暴走。

 只でさえ、囲まれるという状況に慣れていないクラスメイト達がそれにより一気に崩壊。

 その混乱の収拾に【疾風怒濤】は意識をとられ、赤ホブゴブリンの指示により、絶妙のタイミングで攻撃を喰らう。


 この段階で、秋菜は俺に助けを求める念話を送る。

 また、【疾風怒濤】の副リーダーも又、ダンジョン外に救援信号。

 愛は、円城の暴走を止めようとしたが、円城が聞く耳持たず、やむなく殴ってとめた。


 そして、じわじわと広間に入ってきた入り口から遠ざけられ、どんどん囲みを小さくされている時に、俺が登場、だったらしい。


 家に帰り、俺は俺が来るまでの状況を秋菜から聞いていた。


(そこからはあにも知っての通り)

(そうか、大変だったなあ)


 壁を挟んで念話で。

 固有スキル【変態】が本物過ぎる変態となってしまったあの忌まわしきSNS(しまった如意棒・小)曝され事件から数時間後、俺は引きこもっていた。


 その間に色々あったがひとまず置いとく。

 ベッドで体育座りをしたまま、来週のサザ○さんの三本立て予想をしていると秋菜から【念話】で話しかけられた。着拒出来ない恐るべき連絡方法が発見され慄いたがひとまず気分転換に話をしようという事で、俺が来るまでの話になった。


 しかし、本当に円城はどうしてしまったのか。

 今回、ヤバいほど足を引っ張った円城は、SNS曝され事件の直後話しかけてきた時もおかしかった。






「う、嘘を吐け! お前が更科だと!?」


 いや、顔も如意棒・小も曝させられて嘘なわけあるか。嘘なわけあるか!?

嘘の方がありがたいよ! ねえ!


 と、思って振り返ろうとするが怖くて止めた。

 鼻血出してんのに鼻息荒い数名の妖怪の気配を感じたからだ。ぶばぶば言ってるぅう……!


「だ、だって、あんなにステータスが低かったのに!」

「ん? ああ、前回の鑑定レンズで撮影した時か。悪いな、俺普段から固有スキルで【変態】して『欺毛』ってヤツでステータス詐欺してるんだ」


 『欺毛』は『汚れダーティーバーニィ』というモンスターを記憶して手に入れたものだ。汚れ兎は、欺毛という毛が生えていて、これが不思議なことにステータスを誤魔化すことが出来る毛だ。汚れ兎はこれで力を弱く見せ、餌をおびき寄せ捕食する結構ヤバイ兎なのだ。


 とにかく、目をつけられたくなかった俺はこの能力によって低いステータスを装い続けていた。


「魔力はもう空に近いが、ステータスは今、元の状態だ。見るか?」

「……! お、おい」


 震えながら円城がクラスメイトの方に呼びかけると、一人のクラスメイトがゆっくりと出てくる。大槻か、円城とよくつるんでいるヤツだな。手には鑑定レンズ。

コイツに預けていたのか。


 大槻は鑑定レンズに魔力を込め、俺を見る。が、急にガクブルし始める。


「ど、どうした!?」

「や、ヤバいよヤバいよ」


 あれ? 下の名前哲郎だっけ? お、どうしたてっちゃん。


「こ、コイツ、ステータスほぼA越えだ」

「!!!!!?」


 円城が声にならない声を上げている。

 まあ、分かりやすく言うと、現在のステータスを大きく分けると、SS、S、A、B、C……といった具合だ。


 最も、SSは今一人しかいないので、実質Sがトップクラス。そして、Aは当然その候補。特例冒険者以外の学生だとCが一つあれば優秀ってところだ。


 つまり、


「へ、変態め……!」


 態々そっちで言うな! 化け物とか言えよ! こら円城!

 と思ってたら、おや? 円城の様子が……。


「卑怯者が! せこい手を使いやがって!」


 また、大声で叫び始める円城。

 コイツ、マジでクスリとかやってるんじゃなかろうかと心配したので優しい俺は円城君に駆け寄り優しく手を差し伸べた。


「せこい手ってどんな手だい? こんな手かい?」


 爽やかスマイルで近づく俺。仮面付けたままだから伝わってないだろうけど。

 円城は眉間に皺を思いっきり寄せて俺の差し出した手を叩く。


「ふざけんな! お前のせいで! お前がスマホを壊さなきゃ今頃、オレ、は……武藤、を、好きに出来たのに、おまえあ、えんあおお……!」


 ボロボロだったせいもあって魔力抵抗がめちゃくちゃ低かったのだろう。

 手の表面を【変態】させた麻痺棘で動けなくなっている。

 ついでに、痒み針で何か所か刺してあげる。めっちゃ痒いのにかけまい、ざまぁみろ。


 こうして愛さんに手を掛けようとしていたことまで自白した円城は、一旦氷室さんの部下預かりで連れて行かれた。高校生だし仮に、捕まらなくても、学校では針の筵だろう。

 なんせ、学校のアイドル(一般的な意見であり、評価には個人差があります)武藤愛を怪しい方法で狙っていた上に危険な目に合わせたのだ。その上参加したクラスメイトみんなを危険に晒している。これからは俺以上の地獄の空気だろう。


 うむ、一件落着!


 そのあともマジ色々あったが思い出したくない。ひとまず置いときたい。


(あに?)

(ん? ああ、すまん。とにかく災難だったな)


 チーム【疾風怒濤】に特例冒険者とはいえ学生にも関わらずヘルプとして呼ばれ、自分より年上に迷惑を掛けられ、命の危機にも瀕したなんて貧乏くじ以外の何物でもない。


(そうでもない)

(ん?)

(あにが怒ってくれた『妹怖がらせる変態野郎が』って)


「ぶふおおお!」


(聞こえてたのかよ!)

(念で聞こえてた。……ありがと、あに)

(お、おう)


 恥ずかしい。そして、珍しい秋菜がここまで素直だなんて。

 でも……悪い気分じゃない。


(あに、かっこよかった)


 悪い気分じゃない!!!!


(あに……)


 なになになにー?

 と、そこで【念話】が途切れる。不思議に思った俺が隣の部屋に向かおうとすると


(あ……血、が……ダメ、かも)


 秋菜の思考が流れてくる。

 俺は背中を汗が流れていくのを感じ、猛烈な嫌な予感に襲われる。

 そして、全力で隣の部屋へと向かう。


「秋菜! やめろ!」


 俺は勢いよくドアを開けるが時既に遅し。


「うへへ~、にいさんのら~、ぜんら~、ダメもう我慢できない~」


 そこには涎と鼻血を垂らし、多分【念写】したのであろう俺のSNS曝け出し写真に頬ずりする我が妹がいた。


 そして、


「あれ? また増えてない?」


 壁一面を埋め尽くすどこかで見た冴えない男子高校生の写真。

 ああ、この前の円城に盗撮されてたヤツもコイツちゃっかりプリントアウトしてやがったのね。ていうか、この前の戦闘中の写真もあるし、秋菜に跪いてる写真もある。


 固有スキル【念者】で何故か俺の姿を【念写】しまくる激やば妹、更科秋菜の変態力が上がっていることに俺は戦慄していた。心なしか写真たちも震えていた。

 っていうか、マジで頬ずりはやめなさい。なんか……ばっちいよ。

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