第3話 変態、幼馴染の弁当食べさせられて胃腸オワタ

 武藤愛むとう まな

 高校二年。陸上部と水泳部、兼部。

 黒髪ショートで瞳は少し藍がかった黒。

 身長は高めでスラっとしているのに出るところは出ている。

 特例で冒険者ライセンス所持。

 固有スキルは非公開だが、身体能力を飛躍的に高めるものではと言われている。

 更科夏輝さらしな なつきの幼馴染らしく、とても仲良しでいと悔し。


「以上!」

「解説ご苦労、ヤ〇チャ」


 アホ古巣による読者の為のわかりやすい説明。


 そんな愛さんが弁当をもっていらっしゃる。

 そして、俺は瞼を閉じた。


「おい、寝るな」


 しまった、思わず。


 前髪をひっつかまれて持ち上げられる。

 え? そんな女の子いる?


「すみませんもうしませんたすけてくださいいのちだけは」

「もうしませんを百回は聞いたけど?」

「おめでとう! 百個揃えた君には記念にこのお弁当をあげよう」

「これはあたしがあんたにあげたお弁当なんだけど?」

「愛様、申し訳ありませんでした」


 やべえ、キレてる。

 ついつい揶揄いたくなるのは性分だ。


 武藤愛のことはよ~く知っている。

 そのせいか、遠慮なく接してしまう。

 特にコイツはなんでも信じるし、なんでもいう事を聞いてしまうところがあるピュアッピュア少女なのだ。

 だから、ついつい色んな事(嘘)を教えてあげたくなってしまうのだ。


「愛様に甘え、遠慮なく接してしまう愚かな私をお許しください」

「……ま、まあ、確かに幼馴染だし? 甘えてるし? 遠慮ないよね? ……許す」


 愛様はなんかもじもじしながら許してくれた。ありがたや。


「ありがとうございます。では、あっしはこれにて」

「待~て~、お弁当は?」

「え? なんだって?」

「お弁当」

「え? なんだ」

「お弁当」

「え?」

「お弁当」

「お弁当」

「お弁当」

「いや、待って。途中から俺しゃべってないんだけど!」

「お弁当」

「OH、bot!」

「イエス、オア、イエス?」

「キ〇スト」

「〇すぞ」


 愛の手の平から火が噴き出す。

 俺は間一髪で躱し、アホは燃えた。


「おい、ダンジョン外での魔法使用は違法だぞ」

「な・い・しょ★」

「ちがう、そういう使い方じゃない。だが、まあ、許そう」

「ちょっと待て! 燃えたのおれなんだけど!」

「ご・め・ん★」

「許しましょう」


 返事が早い、まあどうせ、アホは忘れるのも早いし大丈夫だろう。

 しかしまあ、本当に異常な奴だ。


 【混沌】とつながりダンジョンが生まれ、スキルに目覚めるようになった人類だが、魔法なんてものが使えるのは普通、ダンジョン付近のみだ。

 魔素という、酸素とかと同じようなものが必要なのではとこの前ユーキューバーが言ってた。


「いやあ、もえたわ」

「もえたな」

「普通に魔法使えちゃうんだもんな」

「威力は落ちてたんだろうけどな」

「それだけすごいってことだよなあ、流石、特例冒険者」

「うふ★」


 うふじゃねえよ。


 特例冒険者。ダンジョンに潜る人間は冒険者というライセンスが必要で、普通訓練・座学・実地研修を経て、ようやくもらえるものだ。

 ただし、18歳からしか取得できない、というのが一般的な規則だが、特例で18歳未満でもライセンスが貰える奴らがいる。

 それはダンジョンでの能力、ステータスと言われるものが高かったり、固有スキルが有能だったりする人間だ。

 まあ、政府さんはとにかく魔石が欲しいんだけど、民意を無視できないので、ライセンスを作ってあげることにした。

 それを愛は持っている。


 そして、今、愛はそれを躊躇なく使った。

 特例冒険者は、結構目をつぶってもらえることが多いのだよ、とほほ。


 今、死ぬか、あとで、死ぬか。

 俺は後者をとった。


 愛の弁当はなんというか非常に刺激的だ。

 ダンジョンに入りすぎると頭がおかしくなるというが、こいつは味覚がおかしくなってしまったのだろうか。

 弁当を開けてみる。


「ヒギィアアアアアアア……」


 愛さん、これ、ミミックじゃないですよね?


 啼いている、何かヤバいの、啼いている。


 泣いている、俺の心も、泣いている。


 更科夏輝、心の一句。

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