②渋谷のマックに神がいる

そまりあベッキー

プロット

○お題

 ラブコメ 共依存もの


〇参考作品

 ブレックファスト・クラブ

 鉄楽レトラ

 NHKにようこそ


〇キャッチコピー

 渋谷のマックには神(他称)がいる。

 汝、隣人を愛せよはもう古い。

 愛してもらいたかったらまずはダブチを買ってこい。

 話はそれからだ。


◯世界観

 現代日本/渋谷


〇作品内季節

 夏/8月頃を想定

 

◯基本登場人物設定

●主人公:尾長辰巳(おなが・たつみ)

 年齢:26歳

 一人称:俺、自分

 至って平凡な家庭で生まれ育った男性。

 現在はクビを宣告され、行く先が無くなってしまった

 うだつの上がらないサラリーマン。

 地方の一般家庭で育った何のとりえもない彼は

 上京すれば何かが変わると信じ、東京で就職をする。

 地元から東京に出て数年、意気込んで都会に出てきたはいいものの、

 地方と都会のギャップにやられ、いつしかどこにでもいるモブになってしまう。

 なにか特別なことをしたいと考えるも結局行動には起こせないタイプ。

 しかし酒を飲むと気が大きくなる。


◇彼の目標(表)

 特別な役柄を得たい(認知されたい)


◇彼の目標(裏)

 誰かの特別でありたい


●ヒロイン:浅間徒鳥(あさま・ととり)

 一人称:私

 年齢:17歳

 渋谷のマックに出没するJK。

 彼女が来る主目的は時間つぶしであり、友人との交流だが、

 その会話をTwitterに挙げられ当事者知らずの有名人に。

 不思議ちゃんな性格を見せつけており、

 一部界隈では神様として取り上げられている。

 しかし、その一方でネット経由で彼女を知り、

 絡んできた生半可な人物には冷たい反応を見せる。

 ※キャラ容姿イメージ:天空橋朋花(アイドルマスター ミリオンライブ!)

 ※セリフイメージ:「貰ったダブチ分くらいは、あなたのことを愛してあげる」


◇彼女の目標(表)

 面白そうなやつ(主人公)を使って遊びたい


◇彼女の目標(裏)

 自分を神として信仰してくれる信者第1号を探している

 ≒

 全肯定してくれる人を探している。

 

〇キャラ過去設定

●ヒロイン:浅間徒鳥(あさま・ととり)

 とある名門一家の末っ子として生まれる。

 父母、兄弟共に各分野でのトップに君臨しているが、

 徒鳥だけはどんなに頑張っても「2番目」の成績となってしまう。

 そのため徒鳥は家庭内で「何の取り柄もない役立たず」という認識をされている。

 何をしても2番目である以上、目をかける理由が無くなった彼女は

 家庭内でいないものとして扱われるようになる。

 彼女は自分自身を誰かに認めてもらいたいと欲求が溜まっている。

 彼女が欲しているのは無償の愛(≒親子愛)であり、

 それに一番近しい形をとることのできる「宗教」を作ることを目的としている。

 そのための準備として彼女はミステリアスなキャラを演じており、

 ネットで自分が渋谷のマックにいるといった情報を自身で流している。

 そこで彼女は「自分を全肯定してくれる人」を探している。



◯物語構成

※全4章×25,000字=10万字強の想定です。

※導入に関しては設定として

 一番重要な出会いの場の為、出来る限り細かく書いてあります。

 2章以降は簡潔な流れを記載させていただきます。


◇1-1(一部本文として掲載)


 辰巳の送別会が終わった所からスタート。

 周りが二次会に行く中、今回の主賓である辰巳は

 べろべろに酔っぱらいながら、中座する。

 その理由は簡単。周りは送別会という名でただの飲み会を楽しんでいる。

 彼らの中には辰巳への同情など一つもなく、

 ただ自分がクビにされなくてよかったという安堵感しかなかったのだ。

 そんな空気の中飲んでいればいつか自分は

 どこかで言いたくもない罵詈雑言を放ってしまう。

 そう考えた辰巳は一人早く自分の家へと帰ることにするのだった。

 

 しかし、そんなくすぶった状態で家に帰ってしまっても

 気分が悪くなる一方ではと考えた辰巳はとある噂を思い出す。

 それは本当にあるかどうかも分からない噂。

 「渋谷のマックには神がいる」

 ネットで見かけた根も葉もない話のことを何故か辰巳は覚えていた。

 思えばこうやって東京に出てきたのは「何か特別な人間になれるのではないか」

 という地方民によくある未熟な願望からだった。

 しかし現実は地元と都心での違いに苦しみ、社会人としての生活に疲れ、

 彼の願望が果たされることはなかった。

 このままでは家賃を払う事も出来ず、地元に帰ることになる。

 彼は酔った勢いで、渋谷のマックに向かうのだった。


 彼は席に座って噂の人物がいるのかを観察する。

 そこで徒鳥とその友達二人が話をしているのを偶然目にする。


 耳を澄ましているとそこで話していたのは

 「無償の愛はもう古い」といったものだった。

 「まず愛してもらうならダブチを買ってきてから。でなければ愛さないね」


 その話を聞いて、鬱憤が溜まっていた辰巳は大爆発。

 どうにかして自分の夢をかなえようとしてきたつもりだった。

 それでもどうにもできなかった。

 むしゃくしゃした辰巳は、おもむろにダブチを二つ買って徒鳥の席に向かう。

 そしてそれをまるで貢物のように献上して

 「アンタが神だ」と酔っぱらった頭のまま跪ずく。

 それを見て、友人は軽く引くが、徒鳥だけが面白そうに笑い、

 「ダブチ分は愛してあげる」と返す。

 そこで主人公の記憶は途切れる。


◇1-2

 次の日、目を覚ますと知らない部屋だった。

 隣には昨日の女子高生、徒鳥の姿がこちらを見下ろしていた。

 焦る辰巳を笑いながら、朝ごはんの準備に取り掛かる。

 辰巳は自分がなにかしてしまったのかと頭を抱えるが、そんなことはない様子。

 徒鳥の説明によると、あの後気を失った辰巳を三人がかりで運び出し、

 タクシーに乗せて家まで持ってきたらしい。

 なんてことをやってしまったのかと落ち込む辰巳に

 徒鳥は大丈夫、悪いことしてないんだから胸をはれと言ってくる。

 だって辰巳にとって自分は神様。

 神に頼ることなんて凡人にとって当たり前の行為なのだから。

 そんな無責任な……とうろたえる辰巳。

 徒鳥は得意げに「いつだって神様は無責任でしょ?」と茶化すのだった。


 徒鳥は辰巳が目を覚ましたのを見届けたからか、

 学校に向かうと出て行ってしまう。

 辰巳は一人JKの部屋に取り残されてしまう。

 久々にぼーっとした時間を送る辰巳。

 腹が減った辰巳は机の上であるものを見つける。

 そこにはある程度の金額が入った財布と共に

 「これで適当に何か食べておいてくれ」と書き置きがあった。

 そういえば……と親がいないことに気付く辰巳。

 辰巳は一人暮らしのJKの部屋にいるのだと自覚し、

 人に見られたらまずいと思い、逃げる様に家から出て辺りを見渡す。


 外に出ると、辺りが富裕層が住む地域であることが分かる。

 なんとなく徒鳥が金持ちの娘なのではと推測する辰巳。

 簡単に、そして分かりやすい「金持ち」という特別な存在である

 徒鳥に劣等感を抱く辰巳。

 やはり特別な存在というものは簡単に、

 人を泊めたりするものなのだろうかと、考えながら、街に向かう。


 と言っても、やることもない辰巳は一人、

 食事を済ませ、街をぶらつく。

 今後どうやって生きていけばいいのかと考え込む辰巳のもとに

 聞きなれない着信音が聞こえる。

 それは自身の携帯からなる音だった。

 

 着信元を確認するとそこには「徒鳥」とだけ書いてある。

 状況から察するに恐らくあのJKの名前だろう。

 出てみるとそれは招集命令。

 渋谷のマックに来い、というものだった。


◇1-3

 マックにつくと、既に買い物を終えた徒鳥が、辰巳を待っていた。

 

 今回辰巳を呼び出したのは昨晩言った事の確認。

 本当に辰巳が自分を神として扱ってくれるのか。

 辰巳は冗談か、と思わず笑いそうになるが、

 そう聞く徒鳥の表情は真剣そのものだった。

 彼女は本気で自分を神と認めるかと聞いてくる。

 そんな突飛な提案に辰巳は自らの夢を思い出す。

 「何か特別な存在になりたい」

 そんな子供じみた抽象的な夢の実現など不可能だと分かっていたはずだった。

 だけどもしかしたらと、この少女を見ていると感じてしまう。

 そこで辰巳は徒鳥の問いに思わずうなずいてしまう。

 徒鳥はその様子に満足げに頷きながら手を差し出してくる。

 「それじゃあなたは私の信者第一号ってことで」

 「あなたが私を神として敬う限り、私があなたを守ってあげる」

 「だから……私と共に信仰を広めましょう!」


 新興宗教も呆れて逃げ出すようなそんな言葉に

 辰巳は思わず笑みを浮かべてしまう。

 確かにこれまでの自分だったら夢をかなえることは難しかったかもしれない。

 何故ならこんな頭の悪いことを考えたことはなかったからだ。

 どうせ職もない、金もない、住む場所だって来月にはなくなってしまう自分。

 だからこそできることもあるかもしれない。

 だが、と冷静な自分がツッコミを入れる。本当にこのJKを受け入れるのか。

 まだ知り合って一日、互いの名前すら殆ど知らないそんな中で、

 徒鳥を信じることができるのだろうか。

 社会人としての経験上、そんなことは不可能だと悟る辰巳。

 しかし、先ほども繰り返した通り無職の自分が生きていくには金も職も必要だ。

 背に腹には代えられない状況だと冷静に判断した辰巳は、

 自暴自棄になりつつも目の前の少女を

 最大限自分の利益にするためにはどうするかを考え、ある結論に達する。

 辰巳はあえて笑顔で徒鳥の手を取る。

 その表情に徒鳥は了解を得たのかと嬉しそうに手を握ろうとするが、

 辰巳はその笑顔のままこう告げるのだった。

 「取りあえず契約社員ぐらいの扱いでお願いします」


 徒鳥も互いの信用問題等があるため、最初はそれでいいとのこと。

 徒鳥は鞄の中を漁り、書類を出してきた。

 それは所謂契約書。契約内容は有期労働契約について。

 急に契約書を出され驚く辰巳。

 そんな辰巳に徒鳥は、信用が未だ結べないというのならば、

 まずは契約といった目に見える縛りを入れましょうと提案。

 内容を確認する辰巳だったが、自分には利益しかない内容に驚愕。

 本当にこんな自分に条件が良い契約内容でいいのかと疑問を覚える辰巳。

 そもそも金の問題はどうするのか。

 徒鳥の親御さんに迷惑をかけることにならないのだろうか。

 そんな当たり前の疑問に徒鳥は当然のように

 だって私、稼いでいるからと告げるのだった。


 どうやら株の売買によって相当な利益を出している様子。

 感心する辰巳だったが、どうでもいいと一蹴する徒鳥。

 強引に話を進める徒鳥は当面の目標を説明する。

 それは宗教法人の設立であった。

 先ほど言っていた「信仰を広める」といっていたのは

 単なる抽象的表現ではなく、本当に実現しようと徒鳥は考えていたらしい。

 突飛ながらもその説明にはかなり現実的な問題のクリア条件が記載されていた。

 具体的な話を進める徒鳥。


 宗教団体は、大まかにいうのならば、


 ○教義を広める事

 ○儀式行事を行う事

 ○信者を教化、育成する事

 ○境内地及び境内建物が団体自身の所有物件である事


 宗教団体が宗教法人となるには、追加で


 ○専任の聖職者を置く事

 ○信者が既に相当多数いる事

 ○法人となるにふさわしい団体運営能力が備わっている事


 が必要となる。

 辰巳の役目は

 ○教義を広める事

 ○儀式的行事を行う事

 ○宗教団体に専任の聖職者がいる事

 この3つの問題の解決だった。


◇2章


 急にそんなこと自分に決められない、と話す辰巳。

 しかしそんな辰巳に慌てるなと徒鳥が落ち着かせる。


 確かに急に宗教についてああしろこうしろと指図されても失敗するに決まってる。

 そんなことは徒鳥にだってわかっている。

 それに、徒鳥だって経験があるわけじゃない。

 だからこそ、トライアンドエラーを繰り返すのだと話す徒鳥。

 宗教を仕事に置き換えてみればわかりやすいかもしれない。

 

 〇宗教の教義を広める事

 →会社の社訓をひろめる事


 〇儀式的行事を行う事

 →社内行事を行う事


 〇宗教団体に専任の聖職者がいる事

 →役職を決める事

 

 そう説明されて理屈は納得した辰巳。

 とは言っても戒律って……そもそもないじゃんと突っ込む。

 その言葉に徒鳥は笑顔でだから今から作るのだ、と答えるのだった。

 

 辰巳は都立図書館に向かって初心者向けの宗教史等を調べることにした。

 そんな時辰巳の携帯が鳴る。

 徒鳥かと思い、取ってみるとそこには旧友の名前が。

 

 急な電話に驚きつつも対応する辰巳。

 最近どうしてるのか、と聞かれ答えに詰まってしまう。

 流石にJKと一緒に宗教作る仕事をしてるなんて口が裂けても言えやしない。

 適当に誤魔化すと、友人は世間話を切り上げ、本題を切り出す。

 それは同窓会の誘いだった。

 

 辰巳は現状を知られたくないからと、参加を一旦断るが、

 友人は辰巳に来て欲しい様子。

 返事は保留にしておくから、来る気が出たら連絡をくれと言われ電話が終了。


 適当な本を借りて帰宅する辰巳。

 徒鳥も一旦休憩なのかベッドに寝転がっていた。

 

 徒鳥に友人からの電話は伏せながらも、軽い報告をする辰巳。

 日も落ちてきたため、そろそろ自分は帰るぞ、と話す辰巳だったが、

 徒鳥はそれを止める。

 今日から一心同体のコンビとなるのだから、

 住居を別々にするのはナンセンスだと話す徒鳥。

 最初は断るも、徒鳥にうまい具合に説得されてしまい、

 徒鳥の家に住むことにとんとん拍子に決まってしまうのだった。


 衣食住は徒鳥に用意してもらうことになった辰巳。

 辰巳と徒鳥の奇妙な同居生活が始まる。

 互いの年齢も離れており、住んでいた環境も違う。

 そんな二人は「新興宗教の設立」という同じ目標の元、

 時々アクシデントもありつつ、生活をしていく。

 ※ここでコメディ的な徒鳥と辰巳のやり取りを入れるイメージです。


 基本は辰巳がまとめたものを徒鳥が確認。

 なにがダメなのか、どこが足りないかを徒鳥が指摘する日々。


 文字通り、トライアンドエラーを繰り返しながら

 どのような宗教にするのか基本の形を模索していくことになる。


 最初、辰巳は徒鳥の力を出来る限り借りず、

 一人でできるところまでやろうとしていた。

 ただ、辰巳の考えだけでは、足りない所が多々あった。

 ただの「宗教」を作るだけだったら事足りる。

 しかし「新興宗教」というのなら話は別だ。

 そもそも日本はある種無宗教のようなものであり、

 宗教に入信すること自体のハードルが高い。

 要は現代の人々が気軽に入れるような「売れ線」を作ることに難儀していた。

 最終的に辰巳は徒鳥に助けを求める。


 自分の仕事すら果たせず申し訳ないと謝る辰巳だったが、

 徒鳥は怒りはしなかった。

 むしろ、よく自分を頼ってくれたと褒めてくれる徒鳥。


 徒鳥は、辰巳がいつ自分に素直に助けを求めてくれるのか待っていた。

 分からないことがあったら上司に聞く。

 これは、仕事を潤滑に進めるための第一歩。

 辰巳が自分自身でそれに気づくことができたというのが、

 嬉しいのだ、と徒鳥は話してくれる。


 徒鳥はまず「宗教」といった感覚を捨てるところから

 スタートしてみようと助言する。

 急に新たな「宗教」を作る、といった気構えが

 話を難しくしているのだと話す徒鳥。

 そもそも新たな事を始めるには多大なエネルギーが必要であり、

 現代の人々は自分に明確なメリットがない限りそんなことやろうとは思わない。

 だからこそ、必要なものは「気軽さ」であり「実利的なメリット」だ。

 例えばこの宗教に入っていれば、

 お得に買い物ができたり、特別なイベントに招待されるといった具合に、と説明。

 そんなんでいいのか? と疑問に思う辰巳だったが、

 徒鳥は「人間なんてそんなものよ」と返すのだった。

 だからこそ徒鳥はその「メリット」を作るために

 今資金作りをしているのだと明かしてくれる。


 辰巳は徒鳥の助言を生かし、「気軽」で「メリット」があるものを考えるが、

 思い当たるものはない。

 何かないか……と探す中で、ある時一枚のチラシを見つける。

 それは近隣の神社で行われる小さな夏祭りの告知だった。


◇3章

 辰巳は徒鳥に、まずは宗教的儀式である「祭り」を作ろうと提案。

 まだ教義自体もできていないため宗教的儀式の意味合いは、とりあえず後にして、

 まずは人が「気軽」に集まることができ、楽しく遊べるという「メリット」が

 あるイベントを作ることにしようと話す。

 徒鳥は辰巳の答えに満足そうに頷く。

 確かに宗教的体系は必要不可欠ではあるが、

 そこが決まらなければ、他のものが決められない訳ではない。

 徒鳥は辰巳の手を引っ張り外に出かけようとする。

 急な徒鳥の行動に驚く辰巳に、徒鳥は

 「だったら実際に見に行きましょう」と笑顔を浮かべるのだった。


 徒鳥に連れられ祭りを見物する辰巳。

 小さな出店が並び、浴衣を着た人達が楽しそうにしている。

 徒鳥が少し物珍しそうに出店を観察しているのを見て、

 辰巳はもしかして徒鳥は祭りで遊んだことがないのかと考える。

 聞いてみると、徒鳥は少し恥ずかしそうに頷くのだった。

 詳しくは話してくれないが家が厳しく、遊びに出かける暇など

 無かったらしい。


 せっかくここまで来たのだ、少し遊んでみるか、と誘う辰巳。

 徒鳥は最初、自分たちは取材の為に来たのだからと断るが、

 実際に見ようといったのはそっちだと言い返され、渋々出店で遊ぶことになる。


 射的、輪投げ、りんご飴……そういったものに初めて触れる徒鳥は

 年相応の笑顔を浮かべていた。

 それを見て満足気に笑う辰巳。

 

 それは今まで自分を引っ張ってきた徒鳥を少し近くに感じられたという、

 達成感と安堵を覚えたからだった。


 祭りが終わった後、綿あめをほおばりながら楽し気に感想を話す徒鳥。

 「イベント」として祭りがあることは昔から知っていた。

 人が集まり、楽し気にしていることも知っていた。

 しかし、実際に体験してみなければ分からないこともあるんだなと話す。


 その言葉に辰巳は自分もそうだと返す。

 「宗教」なんて自分が作るとは思っていなかった。

 金と住居が手に入ればと思って始めた仕事だった。

 だけどそれも案外悪いものじゃない。

 多分、上司がいいんだなと話す辰巳に、

 それを言うなら良い神様だからでしょ? と返す徒鳥。


 最初は金と安定のために、とりあえずの手段として

 徒鳥と共に過ごしていた辰巳だったが、気づけば徒鳥と一緒にいるのが

 楽しくなってきていた。

 

 祭りから数日後、そういえば……と同窓会の事を思い出す辰巳。

 カレンダーの日付を見てみるとすぐの日付だった。


 辰巳の中にあった、以前の不安感は少し小さくなっていた。

 その為、辰巳は徒鳥に同窓会に行きたいと、休暇の申請をしたのだった。

 徒鳥は快く応じてくれる。

 友達は大事だと話す徒鳥。

 辰巳はそういえば、と徒鳥は友人付き合いはどうしてるのかと聞く。

 急にプライベートな話になって少し驚く徒鳥だったが、

 どうやら上手くやっている様子。

 友達ってのはある程度利害関係を無視した関係であると語る徒鳥。

 ……まぁ、宗教については話してないけどさ、と話す徒鳥に、

 二人だけの秘密ってことだなと茶化す辰巳。

 馬鹿言ってないで早く返事をしちゃいなさいと返される。


 せっかくなら新しい服でも買おうと徒鳥は

 辰巳を連れて近くのデパートに向かう。


 徒鳥のセンスに合わせて服を買う辰巳。

 別にそんなに気を使わなくても……と話す辰巳だったが、

 信者兼従業員の辰巳にみっともない見た目はさせられないと

 全身コーディネートされることになる。


◇4章


 同窓会当日を迎える辰巳。

 地元から東京に出てきた10人程度の小さな同窓会。

 自分の現況については触れないようにしつつ、

 久しぶりの旧友との再会に少し気が晴れる辰巳。

 徒鳥が買ってくれた服も好評で、

 楽しいひと時を過ごす辰巳だったが、

 思わず徒鳥の元で働いていると口を滑らすと一転、

 高校生の元でヒモをしているのかとドン引きされてしまう。

 偶然JKと出会ってそこで再就職?

 しかも事業内容は宗教の創立?

 そんな話あり得ない。どうせ騙されてるに決まってると諭される。

 その言い方が本当に自分を心配しているものであるからこそ、

 逆に辛くなる辰巳。

 旧友の言葉は正論であることは間違いなく、反論ができない。

 級友たちに言葉を返せず、その場から逃げてしまう辰巳。

 

 店を出た辰巳は級友たちの言葉通り、

 確かに自分の置かれた状況はおかしいものであると自覚してしまう。

 果たしてこの状況が自分の望んだものなのか、分からなくなってしまう辰巳。

 

 帰っている途中、心配で見に来た、徒鳥がやってくる。

 辰巳は、やっぱり自分達の関係っておかしいものではないかと聞く。

 何があったのか想像がつく徒鳥。

 「でも、特別なことってそういう事じゃないの?」

 徒鳥は辰巳の夢がどんなものなのか見抜いていた。

 ちっぽけで抽象的な子供っぽい夢を徒鳥は大切にしてくれていた。

 

 しかし辰巳はその言葉に首を横に振る。

 本当にこのままで、自分が望む特別が手に入るのか

 分からなくなってしまった辰巳。

 徒鳥に流された結果、馬鹿を見るのは自分だぞとドツボにハマってしまう。

 そう考えると、やはり徒鳥は、金持ちの道楽として

 自分を騙そうとしていたのではないかと考え着く。

 辰巳は徒鳥に契約終了を申し出て、その場を去るのだった。


 辰巳は徒鳥の家に戻らず前まで住んでいたアパートに帰る。

 帰ってきた後、なぜ徒鳥にあんなことを言ってしまったのかと後悔する。

 言い過ぎたと思うが、取り返しはつかない。

 偶然出会ってここまで一緒にやってきたのが、奇跡なのだと自分に言い聞かせる。

 結局自分は特別なものになんてなれないし、徒鳥とは立場も違う。

 他人から見ればただのJKのヒモとして遊んで暮らしているおっさんでしかない。


 辰巳は徒鳥との関りを断ち、

 一般的なサラリーマンとして再び働くことを決めるのだった。


 辰巳は転職エージェントに登録して再就職先を探す。

 しかし自分を雇ってくれる会社は存在しなかった。

 エージェントも首を傾げるレベルで不採用通知ばかりがスマホに届く。

 これはもう実家に帰るしかないのか、と悩む辰巳に

 一通だけ、届いた書類選考通過のお知らせが届いた。


 これが最後だと決めた辰巳は、案内されたビルに向かう。


 面接会場で一人待っていると、

 ドアの向こうから辰巳の名を呼ぶ声が聞こえてくる。


 緊張で固くなりながらも部屋に入ると、

 そこには何故か、徒鳥の姿があった。


 驚いて声も出ない辰巳だったが、

 徒鳥は構うことなく事務的な様子で着席を求める。

 

 辰巳はこれを徒鳥の復讐だと考える。

 自分勝手に徒鳥の下から逃げてしまった自分を責めようとしているのだと

 考えた辰巳は、甘んじてその罰を受けようと考え、席に座るのだった。


 ただ、徒鳥からされた質問は事務的な質問ばかり。

 辰巳は不思議に思いながらもなんとか答えていく。


 最後に弊社を希望した理由は、と聞かれ、

 御社の理念に共感し……と教科書通りの答えを口にする辰巳。

 

 特に徒鳥から何も言われず、今日の面接はここで終了と告げられる。

 結果は追って連絡すると言われ、すごすごと帰ろうとする辰巳。

 しかし、徒鳥のため息が聞こえ、思わず振り返る。


 すると、そこでは不機嫌そうにしながらも、

 どこか真剣な様子で辰巳を見つめる徒鳥の姿があった。


 徒鳥はもう一度、弊社を希望した理由はと聞いてくる。

 その質問に言葉が出てこない辰巳。

 徒鳥は答えられないに決まってると話す。

 何故なら、御社の理念もなにも、そもそも決まってない事は、

 辰巳が一番知っているから。


 いつしか事務的な口調は消え、いつもの様子で

 辰巳は本当は何がしたいのか、と聞いてくる徒鳥。


 辰巳は普通に働いて、普通に生きていくのが精一杯。

 そんなの考える余裕なんてないと答える。

 しかし、それは特別とはかけ離れたものじゃないのかと徒鳥が言い返す。


 辰巳は思わず声を荒げながら、

 だって自分には無理に決まってると大声をあげてしまう。

 JKに養われる生活が特別なものの筈がない。

 皆そう言ってた。自分もそう思う。


 しかし徒鳥は特別なことをする人は、

 多かれ少なかれ特殊な状況に置かれるものだと話す。

 寧ろ、その状況に適応できる人間じゃないと特別になれないのだと訴える。


 徒鳥のその言葉に辰巳は頷きながらも、

 だからこそ自分は特別になれないとあの日気づいたのだ、と話す。


 結局自分は他人に言われただけで不安になってしまうような男である。

 自分の行いが間違いでないという、絶対的な拠り所がないのだと白状する。

 

 そんな辰巳に、徒鳥は無言で、一枚の紙を渡す。

 見てみると、それは無期限雇用の契約書。


「信用がないのも、信仰が足りていないことも分かってた。

 だからあなたにメリットをあげる」


 メリット、それは人々が新興宗教に入信するために必要な要素として、

 徒鳥が以前挙げたものだった。


「辰巳が私の元からいなくなろうとしていたのは、

 このままで大丈夫なのか不安になったからでしょう」

「それなら安心しなさい。

 私が貴方に、安定と安心を用意してあげる」


 辰巳は徒鳥が自分の拠り所を用意する為に、この会社を作ったのだと気づく。


「言ったでしょ? 私、無償の愛ってもう古いと思ってるって」

「だから……私を神と崇めなさい、辰巳」


 辰巳は泣きそうになりながら、徒鳥の顔を見てみると、


「あの夜貰ったダブチ分くらいは、あなたのことを愛してあげる」


 と、笑顔を浮かべるのだった。

  

 ※以下、二巻へ続く


 ※二巻以降では実際に宗教団体を立てる為の活動を主に書いていきます。

  徒鳥の生い立ちについても軽く触れていき、

  彼女の裏目標に関して読者の関心を寄せるような造りを想定しております。

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