ばあちゃん と ぬいぐるみ

染谷市太郎

第1話 死刑囚、ぬいぐるみになる

 12月24日。クリスマスイブ。

 世間が祝祭に浮かれる中、一人の死刑囚が刑を執行された。

 誰一人として悲しむことのない、死だった。





 ピシャアンッとゲームセンター上空で青天の霹靂が鳴る。

「今の雷か?」

「すごかったねー」

 高校生らしき長身の青年とその彼女が一瞬だけ気を取られたが、それ以上の追及はなかった。

「ねえねえ、このぬいぐるみ!かーわいー!」

「取ってやろうか?」

「えーいいのぉ?」


『うるっせえ!!!』

 女の猫なで声に逆立てられ男は叫んだ。

 しかしその叫びは誰に気に掛けられることなく、いやそもそも音になることもない。

『な、なんだこれ!あいたっ』

 ガコン、とクレーンが男の頭頂部を叩く。

 しかし痛みに体を動かすこともできない。

 視点が大きく変わり、自分の周りがぬいぐるみだらけであることを男は気づいた。

 男にファンシーな趣味はない。むしろこのぬいぐるみ群は男のいらだちを加速させる。

 しかし男は満足に動くことは、やはりかなわなかった。

『何だってんだよ、この趣味わりい空間は!……あ?』

 目の前のガラスに映った姿に目を見張る。

『ま、まさか』

 そこには、クレーンにつかまれた赤いくまのぬいぐるみが映っていた。

『これが俺だっていうのかあ!!!!』

 声なき絶叫を上げる男、もといぬいぐるみは、クレーンゲームの取り出し口へと落ちて行った。

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