月が綺麗だった日

日景の餅小豆

ハジマリの日

「コラー、何してんの!」


 事の発端は私が一人の子を四、五人の男子どもが囲っていた場面に遭遇したことだ。


「げ、怪力女が来た」

「誰が怪力女だ」

「逃げろ逃げろ」


 バタバタと足音を立てて男子たちが駆けていく。あとに残されたのは私と囲まれていた子だ。校舎の壁側に追い込まれて逃げられなかったのだろう。しゃがみこんでしまっている。


「大丈夫? あいつらならもういなくなったよ」


 そういって手を差し出すと、おずおずと抱えていた膝から顔を上げた。

 その子は今までに見たことのないほど整った顔立ちをしていた。美しいとはこのことかと、幼心にも思ったものだ。ぱっちりとした大きな目は長いまつげで縁取られており、スッと筋の通った鼻、品のいい口、日に焼けることを知らないような陶器の肌。人形と言われたら信じてしまえそうな……


「あ、ありがとう」


 手に触れた温もりではっとする。


「怪我、とかはしてない?」

「うん、大丈夫だよ」

「そう。それならよかった。あ、でもまたあいつらに絡まれたらいつでも言ってね。懲らしめてあげるから」

「ふふ、頼もしいね」


 あ、笑った。あまりに整いすぎていて氷のような冷たさを持つ表情とは一変、花がふわりと舞うような春の風が通ったような熱を帯びる。もっと笑顔を見たい。もっと別の顔を見たい。


「ね、友達になってよ」


 突然の発言にあっけにとられている。


「ほら、友達ならいつでも守りに行けるし、助けに入ってもおかしくないでしょ。それに、なんだか君とは気が合いそうな気がするんだ。どうかな」


 言い訳のように言葉を紡ぐ。恐る恐る顔をうかがうと、クスクスと笑いながら手が差し出されていた。


「高山瑠衣だよ。ルイって呼んでほしいな。よろしくね」

「私は千代田識。オリでいいよ。よろしく」



 これが私と彼女……いや、彼との出会いだった。

 小学四年生の初夏のことだった。


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