3章ー3 儀式前夜の決意
ハリーが儀式の確認を終える前に、私達は先に広場を後にした。
勿論、ザックがハリーにその場を離れる許可を取っていた。
転生前も含めて、そんな身分制とは無縁のはずなギプソフィラだが、加賀美かすみ時代、家族の王様は父で、父の理不尽を受けいれ、父の目の前で勝手な行動がとれなかった私はきっちりと心に身分制が刻まれていた。
そのことに、ハリーとしてではなくヘンリー王子として王家の威圧感を振りまいている彼を目の前にして久しぶりの緊張した感覚を思い出したのだ。
この緊張感を私は知っている。
好奇な人の目にさらされる緊張とは違っていた。
絶対的な権力者。
ハリーからはその匂いがしていた。
私は好奇な目にさらされる緊張と絶対的権力に対する緊張で実は足が震えだしそうだった。
アイザックがその場から連れ出してくれて本当にホッとしたのだ。
広場から回廊に入り、今回用意された控え室に入るなり、私はガクンと膝を折ってしまった。
倒れる直前でリリーが私を抱えて助けてくれる。
「すまない、あの場に陛下がくるとは聞いてなかったんだ」
アイザックがすまなそうに頭を下げる。
「いえ、それはザックのせいではないので、謝らないで下さい」
そこで私は自分の手を見て、リリーに抱えられた足を見る。
まだまだ幼い手足だ。
明日の儀式さえ上手くできるのか不安になってくる。
「大丈夫だと思っていたのですが、思っていたよりも人の不躾な視線が痛いですね。それに、ハリー様も王族としての威圧感がすごくて圧倒されてしまいました」
私は自分の手で自分の足をさする。
そして、自分の顔の近くにあるリリーの顔を下から見上げて、リリーを称えた。
「リリーはすごいですね。王族の前でもいつもと変わらないなんて!」
リリーが優しく笑った。
「フィラ様、それはフィラ様が隣にいらっしゃったっからです。フィラ様の専属メイドとして恥ずかしい姿は見せられませんから。本当はとても恐かったですよ」
そして、私の手にリリーの手が添えられる。リリーも私の足を撫でてくれた。
「フィラ様はご立派でした。初めての王族との遭遇にも毅然と挨拶をされ、人々の視線にも笑顔で対応なさってました。それにしても、王子付きの近衛も侍従もなってないのではないでしょうか。あのような不躾な視線を送ってくるなど!!」
最後の方はアイザックに向けて怒りをぶつけている。
「あれは仕様がないと思う。なんて言っても、初めてフィラを見るのだし、興味をもつなという方が難しいから。そういう意味では明日初見になる人間が少しでも減って良かったのかもしれないし、ある意味予行練習になったと思えばいい」
ザックはギプソフィラの目を見て、続けた。
「明日の儀式ではあれよりも多くの視線と王と王妃がご出席される。今回以上のプレッシャーがかかる。大丈夫か?」
私に投げかけているようで、その実、否とは言わせないそんな声音だった。
「いやすまない。フィラには選択肢はないんだ。大丈夫になってもらうしか」
ザックは最近ストレートに言葉を紡いでくれる。
真摯であろうと努めてくれるその姿勢が私に勇気を与えた。
私は大きく頷く。
リリーが私を抱える腕に力を入れた。
「本当はこんなことせず、勇者の儀式などせず、アイザック様のお邸でずっと暮らされたらいいのにと思うのですが、それはフィラ様を閉じ込める行為なのだということも理解しています。フィラ様ならこのようなことも乗り越えて行かれる方なのだと、、、分かっているのですが、、、やはり、7歳の少女が大勢の人間の好奇な目に晒され、王族の威圧に満ちた空気の中に立たれると思うといたたまれなくなります」
リリーが私を無条件で認めてくれていることに私はびっくりする。
リリーは初めから私を認めてくれている。
そして、私のために心を痛め、私に親にもにた愛を注いでくれる。
私はそのリリーに強い自分を見て欲しいと思うし、リリーに笑って欲しいと思う。
リリーは私が幸せであれば、自分のことのように喜んでくれるのだ。
だからこそ、私は私を幸せにしたいと思う。
勇者になることは自分で決めたことだ。
好奇な目から隠れて生きるのも別段嫌なわけではない。
でも、今生、愛してくれた母と血のつながらない私に愛情を注いでくれた父と私を今大事にしてくれるザックとリリーに胸を張れる生きたかをしたい。
2度目の生を、意味のあるものにしたい。
そう思った時に果たして隠れて生きることは意味のある生き方なのかと思うのだ。
私はリリーに下ろしてもらう。
ザックの目の前に向かう。
「ザック、膝を折って頂けますか?」
それが無礼なことは分かっていたけれど、どうしても目線を合わせて話がしたかった。
ザックも何故私が「膝を折ってほしい」と言ったのか分かったようで、少し頷いて目線を合わせてくれる。
「アイザック様、私の後継人になって下さり、そして、このような機会を設けて下さりありがとうございます。明日の儀式、きちんと務めさせて頂きます」
改めて強い口調で宣言をする。
ザックは一瞬目を見開いた。そして、少し頷いて静かに微笑んだ。
その顔は初めてみる顔だったけれど、私の決意は伝わっていると感じることが出来た。
私の後ろで、リリーが少し涙ぐんでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます