3章 王都での日々
3章ー1 王都着
勇者石の儀式が行われる日より7日早く王都に到着した。
絶対に石は光るからともう引っ越しの準備もしている。
結局専属メイドにリリーパルファを連れてきた。
と、言っても、リリーパルファがついて来たと言ってもいい。
もう一人、ティーテクトに一緒に来てもらった。
こちらは、きちんとザックを通して依頼した。
彼は一緒には来ていない。
先に王都の自宅に帰って準備をすると言っていた。
彼は、王城には住まない。
王都の自宅から通ってもらう予定だ。
王都に向かう馬車から王城が見えた時と王都に入ってからの2度、私の目は大き見開かれた。
王都に向かう馬車の中で、リリーが少し興奮気味に私に話掛けた。
「フィラ様、ご覧ください。王城がここからでも見えますよ」
私は黙ってリリーが
私の目が見開かれたのを見て、リリーが得意げに続けた。
「王城は中に入るよりも、こうして外から眺めるのが一番きれいだと思います」
暗に王城の中での腹の探り合いが面倒だとリリーは言っているのだと私にはすぐに分かった。
遠くに見える王城の4つの塔が青い空によく映えている。
塔の先端は赤い尖がった屋根で、外壁は白い。
おとぎ話に出てきそうなお城だ。
アイザック邸の絵画と同じ。
私は食堂に掲げてある王城の絵画とそれを自慢げに紹介してくれたザックを思い出していた。
王都の門をくぐると、私はもう一度目を見開いた。
そこは加賀美かすみ時代に高校の図書館で見た中世ヨーロッパの世界だったからだ。
石畳の道路。
三階建てや四階建ての白い建物。
王都の中心にはもちろんお城が建っていたが、お城以外の城下町の人々の暮らしも私たち家族が暮らしていたアレキーサ王国の小さな町とは比べ物にならなかった。
ザックの邸のあるアイザック・クラーク領も比較的田舎で階層のある建物は邸以外にはなかったから、三階、四階建ての建物の前を馬車で通る時は思わず上を見上げてしまった。
「フィラ様、王都はすごいですよね。平民も活気があって、建物自体から違います」
「貴族と平民が一緒に王都に住んでいるの?}
私の質問にリリーは少し目を見開いて首を横に振った。
「それは違います。いえ、確かに一緒に王都に住んでいるのですが、貴族街と平民の居住区は塀で仕切られていますから、、、」
「そう。そうよね。王様が住む王城もあるのに、平民と貴族が同じように住んではいないわよね」
「フィラ様、フィラ様は貴族と平民が一緒に暮らせるとお思いですか?」
「えっ?そうね、私は貴族社会を知らないから何とも言えないわ。でも、リリーの反応から察するに、それはとても難しいことなのね」
リリーは顔の表情を一変させて満面の笑みになった。
「フィラ様は本当に賢い方ですね。お仕え出来て光栄です」
コロコロ変わるリリーの表情は次の一瞬にはまた変わる。
伏し目がちに私を見て「貴族も平民もどちらも一緒に過ごすことを望んでいないのです」と小さな声で呟いた。
「でも、リリーは貴族と平民が共にあればいいと思っているのね」
バッと頭を上げてリリーは私の目をまっすぐに見つめた。
「はい、実はそう思っています。平民になりたいと」
「自由だから?」
「そうです、自由だからです。でも、平民にとって私は貴族です。ともに過ごすことは緊張を強いり、平民と友達になることはかないませんでした。貴族の友達もいません。それでも自由でありたいと自分を信じてここまで来ました」
そこまで言って、一度私から目をそらし、窓の外を眺め、もう一度私を見る。
「フィラ様に出会えた。自由を求め、アイザック様のお屋敷に雇って頂き、あなた様にお会い出来ました。なぜでしょう、あなたが私の視界に入ってきた瞬間、それまであった孤独感が全て溶けてなくなったのですよ。友など私には必要なかったのだと知りました。フィラ様には感謝しかありません。私を専属メイドにして下さりありがとうございます」
ここで、そんな感謝を伝えられるとは思っておらず、私は面食らってしまう。
思ってもいなかったリリーの告白に私はただただ頷くしかなかった。
ただ、リリーのその告白は加賀美かすみ時代の自分の姿とも少し重なり、私はリリーの良き理解者でありたいと思うのだった。
リリーと共に平民居住区から貴族街に入る。
アイザック・クラーク領の邸よりは大分小さなザックの王都での住まいの前に馬車が止まった。
邸の前にはザックと共に何人か知らない人間が立っている。
こちらの邸の執事とメイドと従僕たちのようだ。
その中に、なんとティーテクトの姿もあった。
私は馬車をおり、まずアイザックに挨拶をする。
勿論、貴族らしくカーテーシを披露した。
ザックはそんな私を優しく見守り、「優雅で気品あふれる挨拶だ」と褒めてくれた。
そして、ティーテクトの向いに進む。
「お出迎えまでして頂いてありがとうございます」
「王都でギプソフィラ様とお顔を合わせることを心待ちにしておりました。いつでも知識が必要な時は呼んで下さいませ」
表情の読めない顔ではあったけれど、ティーテクトが今回のこの王都での私の家庭教師という仕事を楽しみにしてくれていたことは伝わってきた。
私はザックの方を見て確認をする。
「ザック、明日から早速ティーテクトにはこちらのお屋敷に来て頂いても宜しいのでしょうか?」
ザックが頷くのを見て、私はティーテクトに早速明日の午後から屋敷に来て欲しいことを伝えた。
ティーテクトは、明日の約束をした後、すぐに自宅に帰宅した。
リリーが後から教えてくれたことだけれど、実はこのティーテクトの行動も貴族的には良くないそうだ。
本来ならば、アイザックと私とティーテクトでお茶をして、世間話をした後にティーテクトは帰宅すべきだったらしい。ただ、ザックも貴族的なことを好んでする人物でもなく、主のことをよく理解している執事やメイドのため、特に引き留められることもなく、ティーテクトは帰宅出来たそうだ。
ティーテクトもたぶんザック邸だったから出来た行為だとリリーが言っていた。
貴族とは本当に面倒なことだ。
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