2章ー5 両親の秘密
ザックが部屋にやってきた。
外は今年初めての雪が降っている。
私の自室に暖炉はないけどストーブのようなものが置かれている。
これは火魔法で火をいれるストーブだ。形は前世のヤカンを上に置いて湯を沸かすような丸いストーブの形だ。
リリーがお茶の準備をして私とザックの前に置いたくれた。
リリーは何も言わずそのまま頭を下げて私の部屋から退室した。
ザックは最初に私に確認を取った。
「私は君に私の知る全ての真実を話すよ。聞く覚悟はできているかい?」
私は小さく頷いた。
父の名はゲオルグ・ヴァイオレット・ヒル。
ホー帝国の公爵だったそうだ。
公爵というのは国王に次ぐ力をもつ貴族。
その公爵が公爵位を捨てて母と駆け落ち、、、
ではなかった。
父は母に一目惚れしたらしい。
父は母を愛し命を捧げていたらしい。
ただ、それは父の心の中だけで終わるはずだった。
父はホー帝国の公爵で母はウィルス王国の者だ。交わることはない二人だった。
その二人を結びつけたのがこの目の前の男ザックだった。
母の名はフローラルティア・ザラ・ロージー・ウィルス。
ザックは母の名に「様」をつけていた。
それに名前を聞けばわかる。
母はこの国の第2王女だったそうだ。
「フィラ、これは君にとって辛い真実だ。しかし、伝えなければならないと思う。心して聞いてくれ」
そう話の途中で切り出された。
私はコクリと頷く。
母が王女だったこと以上にビックリすることとはなんなのか。
それは私にとって辛いこと。
予測がつかないザックの話に緊張して耳を傾ける。
「ゲオルグとギプソフィラ、君たちの間には血のつながりはないんだ。本来ならば、君は私がこうして呼び捨てることすら出来ない、そんな存在だ。君の本当の父上は君の母上の異母弟になる。血のつながりが半分ある二人が愛し合ってしまった。愛とは別に結婚を考えなければならない王族にあっても尚お二人はお二人以上に大事なことなどなかったのだ。人目を避け二人は愛し合われていた。そして、君がお腹に宿った。君の存在に気づいた時、王女は逃げる事に決められた。その手引きを私がしたのだ」
そこで一旦言葉を切り、今までで一番苦しそうな顔をしたザックは先を続ける。
「ゲオルグと私はゲオルグがホー帝国の帝王の近衛としてウィルス王国を訪れた時に意気投合して友になったのだ。そして、ゲオルグのフローラルティア様に対する想いも知っていた。私はそのゲオルグの想いを利用したのだ。フローラルティア様を逃がすときにゲオルグに一緒に逃げて貰えないか打診した。断られることはないと確信した上で。愛した女は決して手に入れることが出来ない隣国の王女だったゲオルグに、、、自分の子供ではない子を身籠った愛する女性を預けた。フローラルティア様の愛がゲオルグに向くことがない事も知りつつ、、、」
ザックは語尾を濁すように言葉を切った。
私は何も言えなかった。
ずっと父さんと母さんは愛し合っていると思っていた。
二人とも私を大事にしてくれたし、何よりも私のこの赤い髪は父さんからの遺伝だと思っていたから。
私は何かをザックに話そうと口を開き、何を話せばいいのか分からなくて口を閉じる。
では、あの二人の関係はなんだったのか?
私は父さんにとってなんだったのか?
愛されていた。
それは事実だったと思う。
父は何を思っていたのか、、、
父の最期の瞬間を思い出す。
あの優しい手は本物だった。
「ギプソフィラ、愛している。俺たちの元に生まれて来てくれてありがとう。俺の人生は素晴らしいものだった。お前とフローラルの笑顔が俺を幸せにしてくれた。天に召されてもそれは変わらない。フローラルとともにずっとフィラを見ているから」
そうだ、母さんと一緒に見ていてくれると言ってくれた。
死に際のあの言葉は真実だったはずだ。
大丈夫。
父さんと血は繋がっていなかったとしても、父さんは私の父さんだ。
グッと両手を握り込む。
ザックを見た。
私の視線に気付いたザックが話を続ける。
「王女は天に召された事になっている。7年前に。冒険者となり、魔物にやられて命を落とされたと嘘の報告をしている」
「王族でも冒険者になれるの?」
「冒険者には誰でもなれる。ただ、王族が成る事は珍しいが、、、」
「父さんは?父さんも7年前に天に召された事になっているの?」
「ゲオルグは公爵位を弟に継がせ、冒険者となって旅に出た事になっている。まぁ、これはほぼ真実だが、、、二人が一緒にいるとは誰も思っていないからな、ゲオルグは生きていることになっているよ。」
「じゃあ、ホー帝国の父さんの家族はまだ父さんが、生きていると思っているの?」
「そうだな。腕の立つ人だったから、天に召されたとは思ってないだろうな」
「ザックはホー帝国の父さんの家族に父さんが天に召された事を伝えてくれる?」
「いや、ホー帝国へ赴くのは難しい状況なんだ。連絡を取るのも少し難しい。3年前から緊張状態が続いていてね」
私は胸の皮袋を掴みテーブルに視線を移した。
私自身がタブーを犯して出来た子供だという事。
その上、王家の血を引いている事。
これだけでも恐ろしい事実だ。
近親婚を繰り返すと障害のある子供が生まれやすいと聞いたことがある。つまり、私はなんらかの異常があるのかもしれない。
それに、王家にとって私は汚点になるのではないだろうか?
存在が知られれば殺されるかもしれない。
怖い。
私は自分で自分を抱きしめる。
ザックは信用できると感じたけど、、、
「ザック」
私はザックを真っ直ぐに見つめる。
「ザックは何を一番大切にしているの?何が目的で動いているの?それを教えて欲しい」
「私のことが信用できないかい?」
私は首を横に振る。
「信用はしてる、たぶん。ただ、内容が内容なだけに今とても怖い。ザックの真意が知りたい。なぜ私を助けに来たのか。ただの献身で私を助けてくれたとは思えない」
私の言葉にザックは頭を掻いた。
私はその仕草にホッとする。
「私の大切なものはこの国の王家だよ。騎士団長をしていると言ったが、私は仕事としてではなく、王家に仕えている。君も王家の一員だ。守って当然だよ」
「私はいずれ王家に行くと言うこと?」
ザックは首を横に振った。
「いや、君の存在は秘密にするよ。王家に知られると跡目争いを引き起こしかねない。その出自が知られれば諸外国からも攻められる可能性が高いから」
そこでザックはいったん口を閉じた。
静かな時間が数秒流れた。
「君は王家に入りたいかい?」
私はビックリして目を見開いた。
なんでそんな事を聞かれるのかも分からない。
「王家とは関わり合いたくない。出来たらここにずっと置いて欲しいと思ってるくらい。私はまだ自分の望みが分からないけど、ただ今はここにいたい。ザックと一緒に居たい。それだけだよ」
私は必死でザックに訴えた。
私の思いは伝わったのか、ザックは笑った。
「もちろん、ここに居たらいい、君の気が済むまで」
そして、彼は声のトーンを落とし、頭を下げて言葉を続けた。
「ただ、申し訳ないのだけど、私は騎士団長なのだよ。だから、王都での仕事がある。明後日からはそちらに行かなければならない。私と一緒に居たいと思ってくれたこと、本当に嬉しく思っているが、ずっと一緒は難しいんだ」
私は頷く。
「もちろん分かってます。ザックは騎士団長なんだから王様の近くでのお仕事があるでしょう。でも、お仕事がお休みの時は帰ってきてくれるでしょう?それでいいよ。私はザックがお仕事してる間にお勉強頑張るよ」
ニッコリ笑うとザックはまた頭を掻いた。
「休みの度に帰ってくると約束するよ」
困ってるのかな?
そう言えばザックは婚約者を見つけなくちゃいけないのだった。休みの度にこちらに帰って来てはパルマに怒られる。
私は慌てて付け足す。
「デートの時は特別に帰ってこなくて大丈夫です!」
私の最後の言葉にザックはもう一度頭を掻いて「参ったな」とつぶやいた。
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