1章ー3 剣の才能
5歳になると言葉もほぼ覚えた。
字も読めるようになり、前世の記憶と合わせて近所の同じくらいの子供とは少し違った。
母に少しずつ魔法を教えてもらい、父には剣を教えてもらった。
父も母も女の子の私が剣を教えて欲しいということに抵抗がなかった。
やりたいことをやってみたらいいと挑戦させてくれる。
私には剣の才能があったようで、父に教わる内容が理解できた。頭で理解できたことを体現する事も難しくなかった。
5歳の体には限界があったけれど、体の成長とともに技の精度が上がる事が確信できた。
花を育てる才能はあまりなく、母の育てる花は大好きだっけど、自分で育てる事はしなかった。
父が私に剣の稽古をしながら嬉しそうに笑う。
「フィラはすごい剣士になるな!」
父の剣は形が整っていた。
素人目ながら私にもその太刀筋が綺麗な弧を描き、なんらかの道に通じていると分かった。
きちんと剣を学び習得した人間の剣捌き。
しかし、父も母もその事について、何も言わない。
冒険者ギルドで見た他の剣士の剣筋は到底綺麗とはいえなかった。だからこそ、私は一つの仮説を立てた。
父と母は元々上流階級の人間。
そう、元貴族なのではないか、と。
加賀美かすみ時代に読んだ小説に貴族同士で恋愛し、親に許されず駆け落ちをするという内容の話があった。きっとそんなところなのではないだろうか?
私はまだまだ小さな手で小さな剣を握る。
私の手にはずしりとくる重さ。
剣としては小さいが体の前で剣を構えると剣先は私の目の位置にくる。
目の前には父さん。
私の倍以上の身長で見下ろされている。
父さんは下段に木刀を構える。
私の首あたりに剣先がくる。
私はしっかりと父さんを睨みつけて、肩や胸の動きを見ながら父さんに挑みかかる。
父さんは華麗によけながら、私の剣技にダメ出しを飛ばして行く。
「切先がブレてる」
「敵が避ける方向を見極める」
「目だけに頼るな」
剣の稽古を初めて1年ほど、毎日の素振りも欠かさず行っているが模擬戦となるとどうしても切先がブレて綺麗な弧を描けない。
一度、父さんと一緒に珍しい花を取りに草原に行った。
その帰り道に魔物に遭遇した。
確かそこそこに強いとされるオオカミの魔物。
父さんは何も躊躇わず、私を抱いたままオオカミ型の魔物に斬りかかった。
魔物はあっけなく一撃で死んだ。
その時の父さんの剣筋は見事なものだった。
私の剣の理想は父親となった。
勿論、珍しい花も手に入れ、魔物の素材も手に入り、父さんはホクホクしながら帰った。
父さんは帰って母さんにこっ酷く叱られたのだけど。
何故か。
母さんの言い分はこうだ。
「フィラを危険な目に合わせて、しかも、素材を持ち帰ったって事は、魔物の解体もその場でしたってことよね?」
「5歳の女の子に見せていいものと悪いものがあるわ!」
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