1章 両親と過ごした日々

1章ー1 新しい両親

私は冒険者の父と花屋の母の元に生まれた。

父は時々母の店で取り扱う花を取って来てくれる。

母の店は父が取ってきた珍しい花と母が手塩にかけて育てた花を販売していた。

私の記憶は何故か消えない。

加賀美かすみの時の記憶も死後の世界の記憶もある。

だけど、ここでは所詮赤ん坊だ。

言葉も分からない。

だから、私は2度目の生を新たな人生の再出発として考えている。

言葉を覚えるところから始める。

両親は本当に私を愛してくれている。

加賀美かすみの記憶が鮮明に脳裏に蘇ることがある。

私はかすみが可哀想でたまらなくなる。

そして、今の自分の状況にも不安になる。

いつか今の父も母も豹変して自分を痛めつけるのではないか?もしくは捨てられるのではないか?

愛されれば愛される程に失うかもしれない不安に怯えた。


私がこの人生を3年も過ごした頃、やっと今の両親を信頼できるようになってきた。

この人達は私を愛してくれている。

そして、私も父と母を愛している。

「フィラはうちのお店の看板娘ね」

母がお花に囲まれて微笑みながら私を見る。

私は小さな手足を一所懸命に動かして母の後ろをついて歩いた。

母の髪色は新緑の緑で瞳はピンク、コスモスのような色だ。少し童顔で可愛らしい顔をしていた。加賀美かすみとして生活していた頃にみたテレビの中の人のようだった。

よく笑う人だ。

母の名はフローラル。

生まれる前から分かっていた。この世界には魔法が存在する。

母が魔法を使うのをお腹の中で感じていた。

母は土、水、風、火の魔法が使えた。

ただ、お腹にいたころは魔法を使っていることは分かったけど、どの魔法を使ったのかは分からなかった。

魔法の発現に必要な魔力は体の中では同じものなのだ。

他にも使える魔法があるかも知れないが私の前で他の魔法を使うことはなかった。

母は、その4種の魔法を駆使してお花を育てている。

家の裏で土魔法で土を耕し、水魔法で水をまき、開花時期を家の中の隅で火魔法を使ってコントロールしていた。

だからか、母の花屋はとても繁盛していると思う。

父の魔力も多いが使える魔法は火の魔法だけだ。

それは父が自分で言っていた。

他にも魔法が存在するらしいが今のところ私の周りでは見ない。

ちなみに、父の名はゲオ。

髪の色は赤色で瞳の色はすみれ色だ。

背がとても高くて人混みで肩車をしてもらうと父の背の高さが際立つ。たぶん、顔も整っている。

近所のお姉さんやおばさんが「いい男だね」と母に言っているのを聞いたことがある。

父は冒険者で剣士だ。

剣士の腕前はとてもいいらしい。

どれくらいすごいのかは今の私には分からないけど、家で食べる肉類はほぼ父が狩ってきたものだ。

冒険者の仕事をしてきても傷を作って帰ってくることがほとんどない。

きっと腕の立つ剣士なのだ。


この世界で機械じみたものは見た事がない。

蒸気機関車も見ない。移動手段は馬車だ。

花屋にくるお客さんの話によれば、私たちは平民で王族が人々を統治し、貴族が国を運営しているらしい。

ただ、私は貴族には会ったことはないし、父や母の口から「貴族」という言葉を聞いた事もない。

私たち家族は3人で贅沢はできなくても幸せに暮らしていた。

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