第5話 黒須パイセン

  翌日、私は職場の一年先輩である黒須智美さんに声をかけられた。

「真由先生も今日は早番シフトですよね。ご相談したいことがあるので、お仕事終わってから少しお時間をいただけないでしょうか」

 黒須先輩は、顔はまあまあ普通だがスタイルはよい。私も153センチと小柄な割には胸は大きい方だが、私を美乳とすれば彼女は巨乳か爆乳だ。背も私より十センチ以上高い。

 

 私たちは十六時で仕事を上がると駅近くの珈琲店に入った。

 黒須先輩とは特に深い付き合いがあるわけではないが、業務の面で色々とお世話になっているので、私は尊敬と親しみを込めて黒須パイセンと呼んでいる。

 私は自分の男性遍歴を特に吹聴はしていないが、さりとて隠し通しているわけでもない。その私をご使命ということは、男がらみの相談かなと想像していた。

 案の定、黒須さんはこう切り出した。

「金子さんって男性経験豊富ですよね」

 昨日のすき焼きでいつもより三割増しくらいに機嫌が良かった私は、彼女の猪突な相談にも親身に乗ってあげることにした。

「はい、特に数えているわけではありませんが、高校時代から通算すれば百人は超えていると思いますよ」

 予想をはるかに上回る私の返答にたじろぎながらも、彼女は言葉をつづけた。

 

 相談は園長先生のことだった。

 八神真純園長(35歳)、独身、福山雅治似のイケメンで、この保育園以外に幼稚園や保育園を複数運営している学校法人の理事長の跡取り息子だ。私以外の先生は残らず彼にあこがれていると言っても過言ではない。

 大学生の息子がいるおばさん先生まで、「私のおまんじゅう、食べてくれないかしら」とか言っている始末だ。

一方で、かなりのヤリチンでもあり、当園の保育士の何人かのおまんじゅうを既にいただいているらしい。

 かくいう私も、一回だけ彼のバナナをいただいたことがあるが、とりあえずそのことは伏せて彼女の話を聴くことにした。


「で、園長先生がどうしたの」

「はい。一か月ほど前になりますが、食事に誘われ、帰り道でいきなりキスをされまそた。」

「ほほう、それで?」

「ホテルに行こうって言われました」

 黒須パイセンは、ホテルに入ること自体は吝かではないが、その前に一つ確認しておきたいことがあると言ったそうだ。

「結婚を前提にお付き合いしていただけるのでしょうか」と。

「ずるずる関係を続けるのは苦手なので、一回だけならいいですよ」と言った私とは真逆の反応である。


 案の定、真純先生の取った行動も私の時と真逆だった。

「分かった、真剣に考えて返事をする」と約束し、その日はホテルには入らずに別れたものの、いつまで待っても返事をいただけていないそうだ。


「実は私、未だ男性経験がないんです。それどころか、キスも大学三年の時以来、五年ぶり二回目だったんです」

「え、こんなに立派な持ち物を持っているのにですか」

「といって、後生大事に処女を守っているという訳でもなくて。むしろ私の初めてを先生に捧げたいという気持ちが日増しに強くなっています。それなのにずっと放っておかれるなんて、あんまりです」


 彼女のいかにもな言い分に、私は、私なりの正論を述べた。

「やらせもしないで、お付き合いだとか、結婚だとか、甘すぎてお話にならないですよ」

「そ、そういうものでしょうか」

「待っても絶対返事は来ないと思いますよ」

「それでは、私から積極的にアプローチをした方が良いのでしょうか」


 それとて、園長先生は警戒して乗ってこないだろう。

 「セックスするだけだったら、私に作戦があります。それで彼女になれるかとか、まして結婚とかは保証の限りではありません。でも行動を起こさないと何も始まりませんよ」

 大いに意気消沈した様子の彼女が気の毒になった私は、昔紗理奈と検討したことのある秘策を披露した。

 速攻で断られるかと思ったが、黒須パイセンは意外と腹の座った女性だった。

「それでよろしくお願いします」と覚悟を決めた彼女と、私は作戦の詳細を一つ一つ確認していった。


 「以上ですね。それでは段取りは私がしますので、黒須先生は当日までイメージトレーニングをしていてください」

「イメージトレーニングと言いますと?」

「園長先生とのエッチを想像しながら、毎日オナニーです」





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