3年目の春 ~迫り寄る解放感への懸念

与方藤士朗

プロローグ

第1話 週末土曜の昼下がり・学生街の喫茶店から

 時は1959(昭和34)年2月の小春日和の土曜日の昼過ぎ。

 場所は、岡山市津島町にある喫茶「窓ガラス」。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 既に昼時の客は去っており、店内には大学関係者と思しき客が数名のみ。


「ありゃ、あんた、またスパゲティーかな。他に食べるものないの?」

 ママさんが、顔見知りであろう大学生に話しかけている。

「ここでは、スパゲティーを大盛で食べることにしていますけど、別の店では、カレーもかつ丼も、何でも食べています。たまには、酒だって飲みますよ」

「この前もあんた、そのイタリアンを頼んでいたからねぇ、しかも大盛で。もう、あんたとみたら間違いなく、スパゲティー、それも確実に大盛よなぁ、この店では」

 そんな話が、厨房近くのテーブルと厨房越しにはずんでいる。

「今日は、珍しくここで珈琲も飲んでいくつもりだな。臨時収入でもあったの?」

「まあその、先週、家庭教師先でいくらかいただきましたからね」

「そうかな。**君、機会があれば、ビールくらい飲んでみたらどうだ?」

「さすがに、昼間から酒までは、ちょっと・・・(苦笑)」


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 終末土曜日の昼過ぎの喫茶店では、常連客と店員が気さくに話しつつ、和やかなときがゆったりと過ぎつつある。そんなとき、店のドアが開けられた。入ってきた人物は、この店の常連客ではないが、この店に何度か来たことのある中年の男性客。


「いらっしゃいませ!」


 列車食堂と見まがうばかりのウエイトレスの服を着た店員が、客に声をかける。

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