地底に咲いた花
夕日ゆうや
この荒廃した世界に一輪の花を。
地上、というものがあるらしい。
らしい、というのは僕もよく知らないからだ。
仲間に聴いても夢物語、幻想などと言い、その存在はまさに夢想だった。
僕たちの住む世界は光が少なく松明の明かりが頼りだ。その明かりが地底を照らす。暖かな光。
火の熱が身体を温める。大人たちが買ってくる魚や野菜にかじりつく。子どもたちはみな労働をさせられていた。
酸素の薄いここで、鉱脈を見つけ、掘り進むのだった。
そんな生活が物心ついたときにはすでに始まっていた。
血豆が凝固し、固くゴワゴワした手になっていた。
そんなある日、同い年のアイがツルハシを止める。
「これ、宝石じゃないか!?」
ここ二か月、この鉱脈は枯渇していた。
そう思われていたが、宝石があるなら、僕たちの暮らしも良くなる。肉が食べられる!
感極まった僕は、アイに抱きつく。
「良くやった! アイ」
「ありがとう! イオ!」
そうこうしている間に監視の大人がやってきて鑑定を始める。
「これはウランだ! でかしたぞ! ボウズ!」
ウラン。
その響きに、ざわつくような感覚を覚える。
なんだろう。嫌な予感がする。
「ほう。ウランはまだとれそうだな。ボウズども、この宝石を集めるんだ!」
そう言ってウランを指さす大人たち。
何が起きているのか分からないが、大人がそう言うのだから間違いないのだろう。
僕はツルハシを振るい、そのウランとやらを集め出す。
とれるのはアイが見つけた近く。
そこに大量の鉱石があると知った。
ウランを採掘してから一か月。
大人たちはホクホク顔で20はいる子どもたちに干し肉を配る。
地底に流れる水脈から水を得て、火で沸騰させる。これで消毒できるらしい。
中には骨が痛む子どももいるので、それから水を沸騰させることを覚えた。
それでも身体が痛むことがある……そんな気がする。
寝る場所はそこら辺で雑魚寝。固い坑道の上で寝るのには慣れている。
死んだ仲間が一カ所に集められ、腐っていく。
ああはなるまい。
そう思い、今日も必死でツルハシを振るう。
一ヶ月前からウランの出土はたくさんある。これがあれば大人たちは喜んでくれる。
前の嫌な予感はもうしない。
いや、むしろ嬉しい。
それから数ヶ月。
ドンッと大きな爆発音と地響きが身体を揺るがす。
「なんだ!?」
アイが起き上がると、その声で僕も起き上がる。
僕というのは下僕の僕からきているらしい。
ふとそんな言葉を思い出し、天井に穴が空くのを見つける。
暖かな陽光が差し、一輪の花を照らす。
地底に咲いた花。
白く可愛らしい花。
「これ、なに?」
「図鑑で見たことある。花ってやつだ。地上に生えると聞く」
僕はアイの疑問に答えると、呆けている。
三日経っても大人たちは帰ってこない。
僕たちは空腹で地べたを這いずっていた。
「決めた。僕は地上を目指すよ」
一輪の花をむしりとり、アイに差し出す。
「僕と一緒に地上を目指さないか?」
「う、うん。でもなんで花?」
「きゅ、求愛の行為らしい」
そう告げると耳まで赤くするアイ。
「う、うん。いこ」
僕とアイは他の子を残し、大人たちがいたとされる通路を通って地上を目指した。
赤茶けた大地。
荒廃した建物。
灰が舞い、冷たい雨粒が落ちてくる。
砂の大地。
大人たちのいた形跡はない。
この荒野で大人たちはどう生きてきたのだろう?
金属片が見える。円柱状の切れ端。
図鑑で見たことがある。ミサイルという奴だ。きっと。
それがこの世界になんの影響を与えるかは知らない。
「これが地上だよ! アイ」
「なんだか、キレイな世界だね」
地下とは違い、どこまでも広がっているこの空、地上。すべてが驚きである。
雲の切れ間から差し込む陽光が暖かな光をもたらす。
これから旅路に出る。
僕たちの旅路はこれからだ。
地底に咲いた花 夕日ゆうや @PT03wing
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