第4話カタールの宿泊施設(2)


 現在ドーハ時間で2022年11月29日火曜日午前7時。快晴、と言ってもいつも快晴だが。W杯暦で言えば、コスタリカ戦敗北から2日、無敵艦隊スペイン戦まで2日という中間にある。

 今日はコンテナのビレッジを出て、古巣の以前に(1)で紹介した同じ施設の別クラスターに移動の予定。この宿泊施設の酷さ、特にこのコンテナハウスの酷さは、今回のW杯の汚点であり、W杯全体の評判を大きく下げるものとも言える。

今日はそのコンテナハウス、正確にはFree Zone Fan village Cabin と呼ぶ施設の一部始終を書いてみる。


 場所はドーハの中心部から8キロほど南、最新の自動運転の地下鉄で5駅ほど、時間にして15分程度で地下鉄駅に直結している好立地の施設といえる。しかし、直結してると言っても、実際のコンテナハウスとその受付までは、重い荷物を引き摺りながら炎天下を15分以上歩かされる。これはドーハの他の施設、例えばスタジアムなどでも同じで、地下鉄直結でも、そこから延々と歩かされる施設が多い。この施設には25日から4泊の予定で1泊200ドルと、日本円で2万8千円で予約してある。


 25日の正午少し前に着いたので早すぎると思ったが、一か八かで受付嬢に聞いてみた。案の定、「チェックインは2時から」顔を洗って出直してこいとは言わなかったが、そんな風なぶっきらぼうな調子。仕方なく、コンテナビレッジの日陰に空いてる椅子を見つけ、そこでボーっと2時間過ごす。時たまドイツ戦を思い出し、ニヤついてしまう。


 さて、午後2時になったので先の受付嬢のところへ行くと、大行列。受付は横方向に10数箇所あるのだが、それぞれの受付に10人以上の列ができ100人をこえる旅行者が、大きな荷物を抱えて日陰のない炎天下を待たされている。

そこで結局チェックインが住むまで2時間半待たされることになる。受付嬢とチェックインする人はやりとりをしてるので、なぜ処理が進まないのかが、後ろの並んでいる人々には全くわからない。たまに全体に説明しようとするが、小さな声で分からない。「大きき」と言っても無視。そのうち、前方に並んでいた人が、チェックインを済んで列を引き返してくるので事情を聞くと、部屋の準備がまだでチェックインできない。したがって、その人には別の施設を提供するし、宿泊費は無償にするとの事で、その引換券を持って、施設へ向かうバスへと去っていく。

待っている間、流石に病人が出ると気を遣ったのか、無料の水が配られるが、ろくな説明は無く、先の受付嬢も手に負えなくイライラして、しょっちゅう席を外す。これで余計に時間がかかってします。マネージャーらしい民族衣装のカタール人はたまに顔を出すだけで見て見ぬふり。


 2時間ほど待って、やっと自分の番になると、部屋のキーが少しづつ受付嬢の手元に配られ出す。ところが実際の手続きとなると、「予約のバウチャーをネットのサイトからダウンロードしろ」と言われ、これで皆10分15分と時間を浪費してしまう。先の受付嬢は、最後にはここにサインしろとボールペンと鍵を投げ捨てる。全く、「待たせてすみません」とかの一言は無いのかと思ったが、並んでいる受付嬢は、臨時で雇われた外国人、欧州人の白人がほとんど。そしてそれをマネージングしているのが、先の民族衣装のカタール人。どちらも、自分には責任はないと思っているから、「すみません」の一言が出てこない。


 こんなひどいチェックインと思ったが、これは単なる序章に過ぎなかった。

鍵をもらってB 3-21の部屋に入ると、ベッドのシーツはやりかえたようだが、掛け布団となるブランケットはベッドの上にクシャクシャに投げた状態。タオルは新しいものが数本あるが、使ったタオルがシャワーにかけっぱなし。シャワーの周りは水浸し。床にはゴミ。ゴミ箱のゴミはそのまま。挙句はトイレが小を使った後に流しもせずの状態。普通であれば、「部屋を変えろ」と電話一本するところだか、その代わりの部屋が無いだろうと、諦めてここに4泊することにした。


 部屋の施設は、ベッド2つ。シーツや枕などは新品のものを使っているのでキチッとベッドメイキングすれば良いのだが。ここにはテーブル1つと椅子が2脚、前回の施設にはこれらが無かったので苦労した。クローゼットに冷蔵庫、温熱ポットが備わっている。空調は、部屋の外と直径15cmほどのダクトで繋がれた床には置いて移動できる空調機。これが航空機のような騒音を発生する。ドーハの夜は砂漠だけあって涼しくなるので空調を切っても過ごせたのが唯一の救いだった。シャワーはユニットのブースに最新鋭のシャワー機は備わっている。ハンディなシャワーにも、横面から、あるいは真上からのシャワーにも切り替えられる高級なホテルに見られるシャワー施設である。ところがシャワーブース自体に立て付けがいけない。ドアの隙間からシャワーの水が外の溢れ、洗面所はすぐに水浸しになるし、排水が詰まり気味で、外に溢れる寸前でシャワーを止めること数回。


 このビレッジには、部屋の清掃する人間があちこちに屯している。そこで、部屋に入って1時間ほどしたところで、外を集団で屯する清掃人がいたので、その主任的な人間を捕まえて、写真に撮った部屋の状況を見せながら、早く、部屋を清掃してくれと頼んだ。その主任、「すぐにやる。人をよこす。待ってくれ」と言って、他の清掃人と去っていった。清掃に来た時にシャワーを浴びてたらまずいと思い、シャワーも浴びずに待ってたが1時間しても彼らは来ない。諦めてシャワーを浴びて夕食を済ませる。夜になって、また同じ様に清掃の主任を捕まえて同じ事をするが清掃人は来ない。結局、清掃人が来たのは、翌日の夜の10時過ぎ。時差ぼけで8時ごろから寝ていたところ、突然ドアを開けようとする気配がしたので、ドアを開けると、「部屋の清掃に来た。部屋の清掃は必要か?」ときた。「ふざけるな、何時だと思ってる」と言って追いやった。


 こう言った状況に頭きたので、チェックイン当日の午後8時ごろ、この時間なら受付も落ち着いていると思って苦情を言いにいった。すると、大行列は変わっていない。彼らはここで一夜を過ごしてチェックインできるのは明日の朝でないだろうかと冗談半分に思えてしまう。


 受付にクレームできないならと、ルームサービスとある受付に行っても、何人もが苦情を言うためか並んでいる。そこで近くにいた例の民族衣装、白服に頭に白い布を紐でくるくる巻いて押さえてるマネージャーらしき人間をつかまえて、写真を見せて猛抗議。「受付に何時間待たせるんだ」「これがあんたらの国のホスピタリティか」「君らにはW杯を承知する能力が無い」「こちとらW杯は今回で5回目だが、最低だ。あのロシアの方がここよりマシだった。」というと、例の白服、そんなクレーム受けたこともないのか、顔を青ざめて声を震わせながら「悪いのは、請け負ったプライベートセクターだ」「この大会が一番だと思っている」と吐かす。「それをコントロールするのが、お前らの仕事だろ」と反論し、拉致があかないので「恥を知れ!」と言って引き上げた。


 ここで、やはりカタールでにW杯開催には無理があったと実感した。彼らはここ30年ほどでオイルマネーでボロ儲けして、虚飾の街を作り上げた。その利益を数十万人しかいないカタール人だけが享受し、嫌で辛い仕事は皆、外国人に無理強いさせる。その構図は、このビレッジの清掃にも見えて来る。清掃人は一日中ビレッジのなかのあちこちで屯して、その話し声で眠れないこともある。彼らは見かけでは、ほとんどバングラディシュ人で中にインド人らしきのがいるが、それが主任らしく統率を取ろうとしている、しかし、彼らとカタール人の白服とに連携が無い。白服は現場を見ようとしないから、全体の運用がスムーズにいかない。

カタール人にそれをやらせようとしても、それは無理で、何故なら、彼らは金融のマネーゲームしか知らない、物を作るとか、人に対応するとか、生臭い生き方とは無縁な人間だからである。


 世界中でCO2削減の問題が沸騰しているが、50年後、車が全てEVになって石油依存から脱却したらこの国はどうなるのだろうか、西欧社会中心のCO2削減の運動は、これらのオイルマネーの国への対抗策に思えてきてしまう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る