イミテーション・マイマスター

Aris:Teles

イミテーション・マイマスター

 温もりをしっかり味わうように、肌を合わせ抱き締める。

 主人マスターに創られた私の身体は人間と同じような金属の骨格と有機的な人工筋肉で出来ている。だから体温もあるし、引き締まった身体を纏う女性らしい柔らかさも備わっている。いわゆる、生体アンドロイド……私の場合は生体ガイノイドというべき存在だ。

 腕の中の少女は仔猫のように頬擦りしながら、私の穏やかな愛撫を受け入れている。主人マスターにどこか似た雰囲気を持つこの少女のことは私も好きだ。

 サラサラとした髪を手櫛で梳かし、首元を這うように撫でる。上目遣いにこちらの様子を覗くその瞳には同じ碧い色がうっすらと輝いている。上気したその顔が実に愛おしい。

 背中を擦り、背骨の辺りをスッと指でなぞる。少女の身体がゾワゾワとした感触に耐えられず身震いする。不意に可愛らしい耳を舐めてみたり、お腹を擦り上げたまま胸元にも触れてみたり。

 一つ一つの反応が、彼女が生きていることを懸命に示してくれる。

 

 この命の輝きを私は大事に大事に、その手で、肌で、味わい尽くした。


 主人マスターが遺していったモノは唯一の成果物であり、彼女の従者であった私と、僻地にわざわざ造ったというこの研究施設だけだった。私が創られてから主人マスターは愛を注いでくれたと思う。亡き後、こうして少女に対して愛を持って優しく接することが出来ているのだから。






 ――だからこそ、私は少女が悦びの絶頂に立った瞬間、眠るようにその命を終わらせた。

 静かに頸の動脈を抑え、意識を遠のかせてそのまま生を切り離す。まだ至らなかったために。崩れる身体を優しく抱き抱えながら少女へ向けて私はそっと呟く。


「おやすみなさい、31回目の主人マスター。次の目覚めが貴女の輝きを取り戻しますように。」


 一人の生体ガイノイドが眠りにつき、私はその身体を元にまた新しい肉体と精神を再構築させるだろう。

 もはや贋作なのだとしても、すべては失ったあの輝きをもう一度望むために。

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