第34話

「えっと、南、太陽、悠太に雫でいいか?」

「合ってると思う?」

「なんでそっちが不安そうなんだ」

「えへへ」


 雫は苦笑いをする。


 強気少女が南、陽キャ男が太陽、オドオド男子が悠太。


 そして今話しているこの子が雫。


「戦いが始まったら太陽と文お兄さんが前、後ろに南と悠太。僕は真ん中でいいですか?」

「ええ」

「いつも通りだな」

「オイラもそれがいいと思うんだな」


 へぇ、少しアホっぽいと思ったが、このグループの陰のリーダーは雫って感じだな。


「む〜」

「どうした雫」

「もういいです。それに、僕はリーダーとか似合わないです」

「あ、声に出てたか」

「僕は確かにバカだから、みんなの足を引っ張らないようにするので精一杯なのです」

「そう……なのか」


 まだこのチームのことをよく分からないでいるが、少なくとも皆が雫を慕っているように見える。


 信用してるというか、頼りにしてるというか


「……ごちゃごちゃ考えても仕方ないな」


 本質はどうであれ


「速く戦いてぇ」


 そんな俺の気持ちと呼応するかのように


「敵来たぜ!!」


 太陽が呼びかける。


「出た、サウンドワーム」

「き、気をつけるんだな。あいつは音に反応して攻撃してくる。不意打ちは意味がないと思うんだな」


 悠太が情報をくれる。


 見た目はミミズを巨大化させ、正面に狂気めいた牙の生えた大きな口が特徴だ。


 正直気持ち悪い。


「んじゃ、正面からぶっ倒せばいいってことだな」


 俺は爆炎剣を構える。


「いくぞ!!」


 チームプレイなんて出来ない俺はとりあえず突っ込む。


 サウンドワームが反応し、俺に噛みついてくる。


「顔キッショ」


 とりあえず正面は分が悪そうなので横に逸れる。


「っておいおい」


 躱したと思ったら、顔を90度回転させ追ってくる。


「ちょ、ピンチ!!ヘルプヘルプ!!」

「何あいつ。勝手に突っ込んでおいて」


 南は大きな水球を作り出し


「当たっても知らないわよ!!」


 放つ。


「大丈夫だ」


 俺はギリギリまで待ち


「魔法の避け方なら最強から学んでる」


 ギリギリで回避し、サウンドワームに直撃する。


「おお……やるわね」

「いいじゃんお前。俺もカッコいいとこ見せないとな」


 いつの間にか太陽はサウンドワームの上に乗っていた。


 足速いな。


「刻むぜ!!」


 そのまま線を引くようにサウンドワームに剣を突き立て、走る。


 声帯がないのか叫び声は上げないが、痛そうに暴れ回るサウンドワーム。


「まぁ大分血は出てるが、薄皮切っただけだ。まだまだ動くぞ」

「で、でも、十分なんだな」


 悠太が何かを取り出し


「食らえ」


 投げつける。


 ガラスの割れる音が響き


「何したんだ!!突然あいつ暴れ出したが」

「ど、毒なんだな。傷口から塗れば、かなり動きが痺れるんだな」

「悪役みたいなことするな……」

「オ、オイラなりの戦い方なんだな!!」


 でも


「めっちゃ動き鈍ってんじゃん」


 俺は爆炎剣を振りかざす。


 サウンドワームに大きなダメージを与える。


「その武器凄いな」

「ああ。いいもん買ったって思ってるよ」


 止まらない連携。


 サウンドワームも必死に抵抗するが


「今!!」

「オッケー雫」


 放たれる水球。


 サウンドワームの動きの起点が潰される。


「太陽一歩下がれです!!」

「あいよ」


 綺麗の攻撃が外れる。


「すげー」


 なんだこれ


「めっちゃ動きやすい」


 俺の攻撃が面白い程に当たる。


 敵の攻撃が恐ろしいくらいに外れる。


「どうだ。雫は凄いだろ」

「ああ、びっくりだ」


 決して戦闘には参加していなのに


「悠太。あれ使えです」

「りょ、了解だな」


 悠太がまた何かを取り出す。


「来た、下がれ文清」

「え?どうして?今が格好のチャンスじゃ」


 すると突然サウンドワームが体を丸める。


「何のつもりだ!!」

「こいつはピンチになると爆発するんだ」

「はぁ?ふざけんな!!さっさと死ねよ!!」

「だから下がれって」


 俺は仕方なく後ろに下がる。


 だが間に合うのか?


 爆発って一体どれくらいの


「文お兄さん」


 俺の横を雫が通り過ぎる。


「耳、塞いでおけです」

「ちょ!!雫!!」


 悠太が何かを投げる。


「いいから塞いで!!」


 咄嗟に俺は耳を塞ぐ。


 そして次の瞬間


「!!!!」


 強烈な炸裂音。


 ダンジョンという閉鎖空間により、より巨大な音になる。


 耳の中がキーンとなり続ける。


 そして俺は前を見ると


「うそーん」


 そこにはサウンドワームの首を落とした雫の姿。


「む、難しいことじゃないんだな。魔力を溜めて自爆しようとしたサウンドワームに、音響爆弾を使えば体内の魔力が乱れて体が一気に脆くなるんだな」


 雫はテクテクと歩いてくる。


 今までの姿とは違い、どこか気品ある姿だった。


「モンスターの最後の抵抗は、僕達からしたらただの餌なだけです」

「凄いな……」


 俺は関心する。


 一人一人は俺と変わらない実力なのに、格上であるサウンドワームを簡単に手球にとってしまう。


「強いな」


 今まで見てきた個の強さではない。


 新たな道での強さ。


「楽しくなってきたな」



 ◇◆◇◆



 一方その頃


「清が心配で見にきたけど」


 芽依は同じく岩蛇城に来ていた。


 受けた依頼は奥にあるダンジョンコアの調査。


 ダンジョンコアが破壊されると、ダンジョンが崩壊してしまう。


 その為、定期的にダンジョンコアを見に行く必要があり、その依頼を芽依は受けたのだが


「入り口間違えた」


 周囲には100を超えるサウンドワーム。


 口からは涎を垂らし、獲物を捕食しようと蠢いている。


「確かに依頼にあった通り数が異常。何かダンジョンコアで起きてる?」


 芽依はいくつかのシナリオを想像する。


 王都への雪崩れ込み、ダンジョンの崩壊、もしくは何か別の存在による企み。


 だがそんなものよりも芽依にとって大事なことは


「清、大丈夫かな?」


 芽依の言葉を感じ取ったサウンドワームが、一斉に芽依に向かって視線を向ける。


「凛も連れて来たらよかった。グロ耐性ありそうだし」


 ダンジョン内を埋め尽くす巨大なモンスターが一気に芽依へと襲いかかる。


 それははたから見れば、一種の厄災かのように映るだろう。


 されど


「動きがうるさい」


 芽依が同じく睨みを効かせれば、それら生命は一切の澱みもなく崩れ去る。


 命果てる瞬間、それらは同じ感情を抱いた。


 あれこそが真の厄災なのだと。


「……とりあえず奥まで行って、清に合流しよ」


 そして芽依は奥へと進んだ。



 ◇◆◇◆



「えぇ!!ちょ、ちょっと!!」

「どうした」

「白鷺芽依、白鷺芽依が来てるんですけど!!」

「そんなわけないだろ。あれはスペルシティーにいる」

「だからそれが来てるんだって言ってるでしょ!!」


 女は男に向かって叫ぶ。


 男はやれやれといった様子で水晶を覗き込み


「……マジだ」

「だからマジだって言ってるでしょ!!」

「マジかよ……」

「ちょっと!!何諦めた顔してんの!!」

「だって無理だろ。あれに勝てる存在なんている筈ないだろ?」

「じゃ、じゃあこれどうするの?」


 光り輝くダンジョンコア。


「これを使って王都を襲う計画、失敗?」

「……」

「そんな……」


 二人は落胆する。


「一応、最後に足掻いてみようと思う」

「それってまさか……」

「お前は反対の道から逃げろ。俺がこれを起動させる」

「ダ、ダメに決まってるでしょ!!そんなことしたらあんた……」

「いいんだ。目的の為なら俺の命くらい安いもんだ」

「……」

「行ってこい。もし生きてたら、あそこで落ち合おう」

「……待ってるから。絶対に待ってるから!!」


 そして女は走り出す。


「さすが英雄か。あんな状態になってまで俺らの邪魔をしてくるとは」


 男はダンジョンコアに触れる。


「頑張れよ。俺の命はお前にかかってる」

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