第31話
「凛はホントに料理が上手いな」
「そう言っていただけると嬉しいです」
「これから毎日食べられると思うと幸せ」
「そんな、お二人共褒め過ぎですよ」
そう言いながらも顔はデレデレな凛。
「それに器具が揃えばもっと美味しいものが作れますから、楽しみにしておいて下さい」
俺達の為にここまで健気に頑張る女の子か……ふむ。
「可愛いな」
「文清君って恥という感情をお持ちですか?」
「褒めたのに貶された……だと?」
「清は考えるよりも先に喋るタイプ」
そんなことないだろ。
例えばそうだな…………えっと…………
「何も思い浮かばん!!」
「口の中に脳があるんでしょうか?」
「本体が口なのかも?」
「おい呪いコンビ!!あんまり俺のこと虐めると痛い目見ちゃうぞ?」
「力でねじ伏せるから大丈夫」
「チクショウ!!これだからチートは!!」
パワーisパワーな芽依さん。
でも確かに、二人に敵う存在って他にいるのだろうか?
もしいるとしたら、それは多分
「他の呪い持ち」
芽依が俺の心を代弁する。
「ま、そうなるよな」
俺は食事の手を進める。
「他にもいるんでしょうか?」
「分からない。私も自分以外に呪い持ちがいると知らなかった」
「私もです」
ちなみに俺はなんとなく察していた。
神様が最初に、彼女達という風に複数の呼び方をしていることを見逃してはいない。
あれは伏線だったに違いないな。
だが果たしてそれが二人なのか、はたまたそれ以上いるのかは分からない。
どちらにせよ
「全員に会ってみるだけだな」
「清は呪い持ってたら誰でもいい」
「呪い大好きさんなんですねー」
「言い方」
流石に二人のような扱いになるかは微妙である。
俺が二人を好きになった要因は呪い以外の要素が大きい。
二人と優しさだとか、弱さだとか、そんな部分に俺は惹かれていったのだ。
つまり
「人次第だな」
これで嫌いなタイプだったら世界が滅びちゃうけど、それはどうしようもない。
神様に土下座で許してもらおう。
「どうせ次の人もボッチ」
「呪いは色々と嫌われちゃいますからね〜」
「もしやボッチを探せば呪いを見つけられるのでは?」
今度簡単な呪いの見つけ方って本でも出してみるか。
「そういえば今日は俺暇だけど、何か頼みたいこととかあるか?」
「あ、お買い物に付き合ってもらえませんか?」
「私はギルドに行きたい」
「凛了解。芽依はギルドね」
ギルドか。
そういえば王都のギルドにはまだ行ったことがなかったな。
確かに少し気になるな……。
「それじゃあ今日はギルド行って、そのまま買い物でいいか?」
「うん」
「誰かとお買い物なんていつぶりでしょうか……」
毎回思うが、エピソードの一つ一つが重いなこの子達。
俺の悲しい話の一発目はこの前鳥のフンを踏んだくらいのものだ。
ちなみにこれはフンと踏んだで韻を踏むという高等テクニックなのだが、この前芽依にボロクソ言われた話も不幸話の一つに加えている。
「いや、これは楽しい話の間違いか」
「?」
「よっしゃ!!二人とも準備出来たら出発するぞ!!」
「「おー」」
そして三人仲良く街へと向かった。
◇◆◇◆
「なんか俺……ヤバい奴みたいじゃね?」
「みたいじゃない」
俺は両手に花ならぬ、両手に呪いを持って道を歩く。
芽依の力を抑えつつ、凛のエスコートをする為にはこの布陣で挑まなければならないのだが、いかんせん距離が近い。
「今までは気にしてなかったくせに」
「いやなんていうか……今まで芽依の中身って正直女とも男とも取れないイメージだったし、凛も普通に美人だからその間に挟まるのはさすがにビビる」
「女扱いしてなかったと?」
ちょ!!苦しい!!
呪いで怒りを表すのやめてくれます!!
「てか間は凛でいいだろ。凛もそっちの方が安心だよな?」
「いえ、私だと芽依ちゃんの呪いを跳ね返してしまいお互いに苦しむだけですので。それに、多分文清君の方が呪いを抑えられると思うので」
「いやいや、確かに芽依の一番最初の友達は俺だが、今は凛も同じくらい仲良いだろ。だから変わんないって。な?芽依」
「……」
「そ、そんな怒ること言ったかな?」
「やっぱり私じゃダメみたいですねー」
ニコニコ笑っている凛と、不貞腐れた芽依。
「なぁ芽依、機嫌治してくれよ」
「じゃあ訂正して。私は可愛い女の子だって」
「え〜」
別にいいけどさ。
「実際芽依はめちゃくちゃ可愛いし」
「バーカ」
握る手の力がほんの少し強くなった。
逆に苦しさがなんだか軽減された気がする。
「なんかおかしくない?」
俺がいる時空ってバトル展開がメインじゃないのか?(多分違う)
こんなほのぼの日常を送ってていいのだろうか?
もっと血湧き肉躍る日々の方が異世界ライフっぽいのではないのだろうか?
「楽しいですね、芽依ちゃん」
「うん」
……ま、二人が楽しそうならそれが一番か。
それに
「あれ……」
「どうしてこんなとこに……」
「気持が悪い」
周りから聞こえる声。
俺の隣からは決して聞こえない呪詛が道を歩けば溢れている。
「やっぱり世界はそんなもんか」
「どうかしたんですか?」
話題の張本人は気にしていない様子で尋ねる。
「いんや。楽しそうだなって思っただけだ」
「あ、すみません。はしゃぎ過ぎでしたね……」
「いいと思うぜ?芽依なんかはっちゃけてる姿見たことねぇもん」
二人は似てると言ったが、案外仲良くなると逆だったな。
謙虚だがテンションの高いハイスペ凛と、暴言厨のダウナー系な芽依。
うん、やっぱり真逆だな。
「今なんかムカついた」
「気のせいだろ」
右手がギュッと強く握られる。
また怒られた。
そんな俺達の様子を知るはずもない凛が質問をする。
「芽依ちゃんと文清君は冒険者なんですよね?」
「おう。エリートだぜ」
「清は雑魚。私は強い」
「あぁん?喧嘩売ってんのかコラァ!?」
「私もなろうかな……」
むむ!!
「いいんじゃないか?凛の実力なら余裕でA級だろうし」
「清が永遠に辿り着けない領域」
「いけますが!!なんなら一年で行って上げましょうか!!」
なんなのこの子!?
さっきのこと根に持ってるんですか!?
まぁいいや、俺は寛大だから許してやろう。
それに今は
「凛と芽依のコンビか……」
冒険者になったドリームコンビを想像する。
うん
「過剰戦力だな」
国でも滅ぼすのか?
いや、単体で世界滅ぼす連中は国どころじゃ済まないか。
「俺、今初めて呪いが怖いと思った……」
「タイミング」
「気付くのが大分遅かったですね」
不快な思いをさせたかと思ったが、案外二人ともピンピンしていた。
むしろどこか楽しそうだ。
「俺も呪い欲しな〜」
神頼みでもしてみるか。
世界滅ぼさないんで呪い貰えませんか!!
『ダメです』
ダメだった。
しょうがない、今度師匠に禁断の術とか聞いておくか。
「さて」
そんなわけで
「着いたな」
冒険者ギルド。
「予想してたとはいえ、やっぱデカいな〜」
前の街、スペルシティーだっけ?
あそこもかなり大きかったが、やっぱ王都はデカいな。
軽くお城みたいなサイズと言っても過言じゃない。
「なんかドキドキしてきた」
「私も」
「?」
そっか、凛はこの景色に圧倒されないのか。
「なんか凛を驚かせたいな」
「どうして急に!!」
今度は音で体験するホラーとかさせてみるか。
あとこんにゃくを時速100キロでぶつけたりとか
「それより中入ろ」
「それもそうだな」
そうして俺達はギルドへと足を踏み入れた。
「やっぱ中も凄いな……」
前よりも広いのもあるが、その上装飾品が豪華だ。
人が多い分稼げるんだろうな〜。
「お!!懐かしい光景まで!!」
俺達が中に入ると、あの時と同じように大きな通り道が生まれる。
「なんだか落ち着く〜」
「喧嘩売ってる?」
「どうかしたんですか?」
芽依が歩くと街中で道を開けていたが、どうやら凛の場合も同じらしい。
多分声をかけたら呪われるとでも思ってるのだろうな。
「ところで冒険者って他の場所だと何か変わったりするのか?」
「ううん。受けられる依頼も変わらないし手続きもいらない。ただ、私の場合は少し違う」
違う?
とりあえず俺は芽依が歩く方向に合わせて足を進める。
(あれ?受付からどんどん離れて行く)
わけも分からず進むと
「階段?」
「上がる」
よく分からないが
「凛、今から階段だから一歩ずつな」
「はい」
特に急ぎでもない俺達はゆっくり時間をかけて階段を登る。
「上って何かあるのか?」
「私は基本的に討伐依頼がメイン。だけど、私に見合った依頼は殆どA級のパーティー達と同じ内容だから」
「か、階段疲れますね」
なんとか登り切る凛。
「私だけ特例で、依頼の条件を無視するようになってる」
「やっぱ凄いな」
芽依のあの財力は、冒険者の中でも上位陣が束になってようやく勝てる相手に、単騎で打ち倒すことが出来る為だろう。
しかもそれらを一人で手にするのだから相当な額だ。
「それの手続きをするのか?」
「そう」
そのまま奥に進んで行くと、豪華な扉が現れる。
「多分ここ」
上の方には大きく
『ギルド長の部屋』
と書かれていた。
「分かりやすいな」
そして芽依が扉を開けると
「ようお前ら。調子はどうだ?」
そこには
「あ、あの時の名前がカッコいい人!!」
「よう」
最強の剣士がいた。
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