第12話
「芽依、俺凄いこと思いついたんだ」
「……」
「芽依の近くにいると味覚が死ぬんだが、これを利用すればどんなに不味い料理でも腹いっぱい食えるんじゃないかって」
「……」
「で、今試してるんだけど、普通に呪いで吐きそう。アッハッハ」
「笑い事じゃないでしょ」
そのまま俺はトイレに直行し、スッキリした状態で返ってくる。
「なぁ芽依。ピンポイントで味覚だけ消せないか?」
「出来るわけないでしょ?そんなこと出来たら苦労しない」
「そうだよなぁ」
「というかまだ食べるの?」
「だって胃袋空っぽになったし」
「私と一緒に食べるとまた吐くよ?」
「それもまた一興だな」
芽依は大きなため息を吐く。
「それで、何か用?」
「用がなきゃ会いに来ちゃダメなのか?」
「キモい」
珍しく外で芽依を見つけると、外食をしていたのでそのまま一緒させてもらう。
それにしても
「この店あんま人気ないのか?」
「私が貸し切りにしてるだけ」
「なるほど、周りに人がいたら食べづらいしな」
「……」
なんか変な目で俺のこと見てくるが、変な目で見られることには慣れているので気にしないことにする。
「はぁ、まぁいいけど」
芽依はそのまま食事を続ける。
「最近調子はどうだ?呪いの力が収まったるとか」
「変わりはない。多分、今あなたに触れたら死ぬ」
「そっか」
彼女の今の精神状態だとそんなものか。
この世界で生き抜く為にも、そして何より彼女に呪いを克服してもらって美味しくない物を食べられるようになる為にも、どうにか幸せになってもらわないとだな。
それにしても
「それ、食べにくいんじゃない?」
「慣れた」
仮面の下に料理を運んで食べる芽依。
「外したら?」
「嫌」
「なんで」
「……見られたくないから」
「俺でもダメ?」
「ダメ」
「そっか〜」
こりゃ先はまだまだ長そうだ。
「ん?よく考えると、料理は消えないんだな」
「……言われてみたら確かに、どうしてだろ」
「本人も分からないのか。何か条件があったりするんじゃないか?例えば服だって消えないんだし」
「生きる為に必要なものは、呪いの対象外……とか?」
「ああ、なるほど。じゃあ人間もみんな食糧だと思えば呪いが発動しないんじゃないか?」
「私そこまで化け物に堕ちた記憶はないのだけど?」
それから俺たちは呪いについて話し出す。
最初は嫌々だった芽依も、呪いの攻略法を考え出すと次第にやる気に満ち溢れ出す。
「多分呪いにも意志があるんだろうな。元々呪いって英雄の能力だしな」
「待って、何英雄って?」
「え?知らない?呪いって元々世界を救う力なんだぜ」
「なにそれ……聞いたこともないけど……」
「そういえばなんでだろうな。文献とか残ってたりしないのか?」
「少なくとも、呪いについて調べてる私が知らない話」
芽依がどれだけ調べてるか知らないが、店を貸し切りに出来るだけの財力がある人間が分からないというレベルか。
神様、これって何か事情があったりします?
……
はいはい、黙秘権ね。
神様協会はどうやら呪いの扱いに相当慎重である。
本当に俺だけで解決できるか心配になってきたな。
「どうして清はそれを知ってるの?」
「天啓」
「もしかして冗談だったの?」
「まさか。俺は正直者って古代から言われてるくらいだぜ?」
「……」
相変わらず絶対零度よりも冷たい目線が飛んでくる。
くぅ〜冷えるね〜。
「あなたに真面目に対応したら負けだと忘れてた」
「そうだ。俺と話す時はポップでアップなテンションで喋らないとだな」
「ご馳走様」
芽依は手を合わせ、金貨を数枚程置く。
まるで日本みたいだな。
てか
「待てい!!これ絶対俺の分も払ってるよな!!」
「あなたが勝手に食べ始めたんだから、私が勝手に払うのも同じことでしょ」
「ぐぬぬ、全然納得出来ないけど正論っぽくて言い返せない」
レスバで負けた俺は、無様に年下の女の子に奢られてしまう。
そもそも冒険者だけでは食っていけない俺としては全然金欠もいいとこだが、プライドがそこを許さない。
「今度会った時は全部俺が払ってやる」
「……楽しみにしてる」
芽依はそう言って店を出て行った。
つまりまた行ってくれるってことだよな……
「金、稼ぐか」
◇◆◇◆
「おじさんちーっす」
「お、今日も兄ちゃんが手伝いか」
今日の俺の依頼は店番だ。
ドワーフのおじさんが最近忙しいらしく、その間の店を俺が手伝うことになっている。
「武器を見ながら働ける場所はここくらいだからな。やっぱり武器は男のロマンだし」
「さすが兄ちゃん分かってるな。武器は見た目だけじゃない。中身も相まって、その美しさが表面化される。今時の言い方だと、機能美ってやつか?なんにせよ、武器の魅力は長い年月をかけても留まることを知らねぇ。武器は俺の人生において最高のパートナーだ」
ドワーフのおじさんは刀を一本手に取る。
一見周りの武器に比べて見た目の派手さはない。
だが、どこからか溢れ出す魅力は、確かにこの刀が名刀であることは素人目にも分かる。
「いいだろ?これ」
「最高」
「店番頼んだ。兄ちゃんにならこの店を任せられるってもんだ」
そしてドワーフのおじさんはハンマーと先程取った剣を片手に出て行った。
「いらっしゃーせー」
俺の仕事は店の物を売ること。
武器の性能は知らないが、下の方におじさんが詳細を書いている為そこまで困らない。
だから俺の出来ることは
「これカッコいいですよね!!この剣でモンスターを倒せば女の子にモテモテですよ!!」
どれだけ魅力を語れるかだ。
「この盾結構人気ですよ。特にC級の人達には人気ですね」
冒険者をすることで培った知識もここで役に立つ。
「槍を使った戦術があってですね」
昔学んだ戦術も、ここでなら最上級の力を発揮する。
「ありがとうございやしたー」
もしかしたらここって俺の天職では?と思い始めた頃、いつの間にか夕方となっていた。
「でもやっぱり、冒険に比べてのワクワクが足りねぇ。武器は見ててもいいが、やっぱり使ってみたいなぁ」
俺は自分の爆炎剣を手に取る。
ちなみに全然炎は出ない。
「お前のこと使ってやりたいけど、俺じゃあどうしようもないからな」
魔力のない俺では、モンスターと対峙したところで死ぬ未来しかない。
強敵相手に苦戦して負けるならまだしも、一方的になぶられて殺されるのはごめんだ。
「はぁ、強くなりたいなぁ」
神様に魔力を戻す方法を聞きたいが、あれ以降そこまで連絡が取れるわけでもないし。
教会に行こうか迷いもしたが、なんかもう来たの?と思われるのもあれだしな〜。
なんか俺が強くなれる方法って
「あら、また会ったわね」
「ん?ネインじゃないか」
店に現れたのはエルフのネイン。
「ネインの武器ってやっぱり弓なのか?」
「そうね。そこまで伝統に拘るつもりはないけど、先人達の技術は確かなものだったからありがたく勉強させてもらったわ」
「へぇ、努力家だなぁ」
「少し見て行ってもいいかしら?」
「どうぞどうぞ。いいもん揃ってますよー」
ネインはしばらく店の中を練り歩く。
主に弓の方を見て行くが、時々短剣なども覗いている。
愛菜用のものも探しているのだろうか。
「いいのあったか?」
「そうね……どれもかなり高品質ではあるのだけど、今の私のもかなりのものだから中々ね」
「そういえばネインってランクどれくらいなんだ?やっぱり愛菜と同じCなのか?」
「私はこれくらいよ」
ネインの見せたプレートは
「いやA級やないかーい」
金色に輝いていた。
「ちゃんと凄い人だった」
「大したことじゃないわ。エルフは大体こんなものよ。同じA級でも、上と下とでは圧倒的な差があるもの」
なんか自分を卑下してるところ申し訳ないが、目の前の男E級ですよ?
そんな神々の強さなんて俺にはちっとも分かりません。
「俺も強くなりたいなぁ」
「なれるわよ」
「でも魔力がないんじゃどうしようも」
「なにも腕っ節の強さや、武器のランクによって強さが決まるわけじゃないわ」
ネインは一枚の紙をくれる。
「ここに行けばきっと、あなたは強くなれると思うわ」
この日、俺が手に入れた一枚の紙は
「ここがネインの言ってた場所か」
俺の人生に大きな変化を与えるのだった。
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