第10話
「今日はお赤飯です」
例の場所で気分上々のアテネが赤飯を炊き始める。
「別にまだ問題を解決したわけじゃないだろ」
正直言って俺がしたことは大きな一歩に変わりないが、逆に言えばまだ完全な答えというわけではない。
俺が死ねば結末は変わらないだろうし、多分このままでも世界は滅びる。
俺はただ、最初の一歩を歩んだに過ぎない。
「ですが、それでも大きな一歩です。彼女にとってのこの日がどれほど大きかったことか」
テーブルに赤飯を置くアテネ。
「おかずは?」
「エッチなのはいけませんよ?」
「お前を食ってやろうか?(本気)」
「冗談です、どうぞ」
机にいくつかの料理が並べられる。
危ない危ない、もう少しで手を出すところだった。
「美味しいですか?」
「美味しいな。高級な店の味って感じがする」
だけどどうしてだろう
「あの時のモンスターの方が美味かったな」
「状況が味を変えることはあります。その時食べたいもの、空腹か否か、誰と食べるか、料理は腕前だけで決まるものではないんですよ?」
言われてみれば確かに、俺はあの時異世界っぽさに酔っていた自信がある。
大分テンション高かったからな〜、俺。
「そんなわけで、二人の相性も良さげでしたしこのまま友情が恋へと発展してそのままゴールインしちゃって下さい」
「アホか。俺はただ芽依と一緒にいたら楽しそうと思っただけで、そういうつもりは一切ねぇよ」
「でも彼女美人さんですよ?」
「顔が見えねぇんだよ!!」
芽依はいつも全身を布や仮面で覆っているため、その姿は完全に未知。
「気にならないんですか?」
「気にならないと言ったら嘘になるが……ま、そこは本人に任せよう。俺は俺の好きなようにする。気を遣うのも俺の勝手だ、そうだろ?」
「ええ、その通りです。好きに生きて下さい。あなたはあの子達と同じ、救われるべき一人なのですから」
アテネに頭を撫でられる。
「もうそんな歳じゃないんだが?」
「精神年齢で扱っています」
「……なら正解かもな」
甘んじて俺はそれを受け入れた。
◇◆◇◆
「朝か」
結局その後は困ったら教会に行けと、好きにしろという伝言だけを預かった。
神パワー的に見れば、俺の選択が唯一の瓦解策とかいう意味の分からないことを言っていた。
まぁ向こうの意図はどうでもいい。
俺は変わらず好きに生きるだけだ。
「おい文清!!お前帰ってきたと思えば話もせずに部屋に直行しやがって!!ちゃんと説明しろ!!」
朝食を食べようと部屋を出ると、偶然通りかかった冬夜が猛スピードで迫ってきた。
「ん?ああ。烏のモンスターに連れて行かれて食われそうになった、それだけだ」
「ああ、そうか。その程度で済んで……十分ピンチじゃねーか!!」
冬夜はノリがいいな。
将来は俺がボケでツッコミは冬夜に決定だな。
「まぁまぁ落ち着けや。俺もさすがに死んだと思ったが、天は俺を味方している。つまり問題なしってわけだ」
「いやそれは……はぁ、もういいや。お前変わってるな」
「何を言う。俺はごく普通な一般人……という設定だ」
「なんだそれ」
冬夜は俺がピンピンしているのを察し、笑った。
「その調子じゃ、冒険者止めるつもりは無さそうだな」
「ダメか?」
「いや、この世界いつ死んでもおかしくない。もしこの街がモンスターに襲われても、冒険者の方が案外生き残れることもある」
冬夜は自身の青色のプレートを見せる。
「冬夜は冒険者だったのか。しかもD級か」
「肩書きだけだよこんなもん。俺には無理だった、それだけだ」
冬夜はプレートを仕舞う。
「死んだ親父が言ってた。冒険者で生き残る奴は強い奴じゃない。度胸と、そして神様に愛される力がある奴だって」
冬夜は拳を前に出す。
「頑張れよ」
「おう」
俺はその拳にパーを出して叩かれた。
◇◆◇◆
「ヤッホー文清!!パーティー組も!!」
「組みません!!」
ギルドに入ると真っ先に声をかけてくる愛菜。
そのあざとさで、今まで一体何人の男を毒牙にかけてきたのか。
実際なんか周りからの目が痛いんだよなぁ。
「とりあえず向こうで話そうぜ」
「うん!!」
空いていた席に座る。
「やっぱり文清は辞めるつもりはないんだね」
「まるで確信があったかのような言い方だな」
「だって、文清あれからずっと目がキラキラしてるもん」
目がキラキラ?
俺は鏡を渡されたので覗いて見ると、プリクラ加工したように俺の目がキラキラと輝いていた。
「そうか。怒涛の異世界ラッシュに遭遇したせいで、俺の中の厨二心が爆発したのか」
「よく分からないけど、自己分析の能力がすごいね」
愛菜はニシシと笑う。
「やっぱり文清は冒険者に向いてるよ」
「でも強くないんだよなぁ」
「強さなんて冒険では二の次だよ。大事なのは楽しむこと。そうでしょ?」
「ああ、全く持ってその通りだ」
愛菜と話していると、益々冒険に行きたくなってきた。
「依頼受けてくる」
「うん。今日は私は一緒に行けないけど、安全には気をつけてね」
「おうとも。もし戦闘になっても、この爆炎剣が火を吹くことになるだけだ」
「す、凄い強そう。さすが文清の持つ剣だね」
俺は何度か愛菜に爆炎剣の凄さを語り尽くし、とあるキノコを採取する依頼を受けた。
「じゃあ行ってくる」
「森一帯を焼け野原にしちゃダメだからね〜」
愛菜と別れ、俺はギルドの外に出る。
すると
「おい、少し面貸せや」
三人の男に囲まれてしまった。
真ん中に身長の高い怖い顔をした男、その両隣には下っ端のような奴が立っている。
「俺の爆炎剣で勘弁していただけないでしょうか?」
「あ?舐めてんのか?」
「いえ、決して舐めているわけじゃ……あ〜れ〜」
俺は首根っこを掴まれ、そのまま人気の少ない路地裏に連れて行かれる。
「お前、最近愛菜ちゃんと随分と仲良さそうだな」
連れられた理由は案の定であった。
てかテンプレ展開過ぎて読めないわけが
「話聞いてんのか!!」
「ここで俺の隠された格闘術の才能が覚醒し、チンピラ共を一斉に撃退することでーー」
「兄貴!!こいつホントに話聞いてませんよ!!」
「クソ、舐めやがって!!」
急に胸ぐらを掴まれる。
「痛い目に遭いたくなけりゃ、今すぐ愛菜ちゃんから手を引け!!」
「なんで?」
「なんでってお前……」
「もしかして愛菜のこと好きなの?」
「は、はぁ?ち、ちげぇし。全然愛菜ちゃんの優しいところとか好きじゃねーし!!」
中学二年生のように慌て出す強面の男。
「そ、そうだ!!兄貴はただ愛菜ちゃんに降りかかる魔の手を排除しようとしているだけだ!!」
「お、おうその通りだ。どうせお前も愛菜ちゃん狙いなんだろ?悪ことは言わねぇ、やめとけ」
なんか怖い人達なのか、ただの親切心のある人達か分かんなくなってきたな。
「別に俺はただの愛菜の友達だから、恋愛云々に関しては大丈夫だと思うけど」
「バカかお前。そんな言葉を信じられると思うか?」
「いや信じるも何も、愛菜に聞けばいいだろ?」
俺の言葉に、またしてもモジモジし出す連中。
「お、俺たち如きが愛菜ちゃんに話しかけていいはずないだろ!!」
「お前らもか。なんでみんな揃いも揃って勝手に自分の中で縛りをつけやがって」
俺は逆に強面の男の襟元を掴む。
「好きなら好きと伝えろ!!こうやって俺なんかに嫉妬してる暇があるなら、彼女にアピールでもしてこいよ!!足踏みばっかしてるお前如きが愛菜を守るなんて片腹痛いぞ!!」
図星を突かれたのか、後退りする男。
力が強すぎて俺もそのまま引っ張られてしまう。
「でも……俺が愛菜ちゃんに釣り合うはず……」
「愛菜は言ってたぜ。私が、表面的にしか人を見ないような人間に見えるのかって」
「愛菜ちゃん……」
「大事なのは中身だ。生まれ変わるチャンスは、いつだって目の前に落ちてるもんだ」
「俺……俺、行ってくるよ!!」
男は顔を上げる。
そこには先程のような暗い顔はどこにもなかった。
「ありがとう。お前のお陰で俺、前に進めた」
「良いってことよ。朗報、待ってるぜ」
そして俺は熱い握手を交わし、強さんと別れた。
◇◆◇◆
「依頼達成を確認しました。こちらが報酬の銀貨5枚ですね」
依頼から帰ってきら俺は報酬を受け取る。
すると何故か後ろが騒ついてることに気がつく。
「芽依が来たのか?」
騒ぎの中心である彼女の登場を疑ったが
「違う人……人っていうか……あれってまさか!!」
緑の髪に特徴的な長い耳。
ドワーフと並ぶ、異世界で最もメジャーな存在。
そう
「エルフだ!!」
俺は雄叫びを上げた。
やべぇ、本物だ。
どちらかというと神様に似たような美しさ。
ある種の芸術作品かのような、人間とは違う存在だと見せつけているかのような美貌と雰囲気。
異世界では一度会ってみたいと思っていたが、まさかこんなに早くに会えるなんて
「ちょっとあんた、名前教えなさいよ」
「え?」
感動に耽っていると、声をかけられる。
「エルフさんが俺の名前を、どうして?」
「いいから早く!!」
「文清。阿部文清ですけど……」
「そう」
エルフはニコリと笑い
「面貸してちょうだい」
本日二度目の呼び出しを食らった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます