第3話

 冒険者ギルドとは


 簡単に言えば何でも屋である。


 あれを取ってこいだとか、あれを倒してくれだとか


 そういう依頼を集め、冒険者となった人々が解決する。


 こうしたモンスターが蔓延る世界だから成り立つ面白いシステムである。


「見た目も綺麗だったが、中も充実してるなぁ」


 早速中に入った印象は、殺伐としているのかと思いきや清潔感あふれる場所だなという感じだった。


 モンスターなんて化け物と戦う集団、きっと荒くれ者が多いと踏んだがそんなことない。


 むしろ綺麗な服を着た、かなり小洒落た人たちが何人も通り過ぎていく。


 少し気落ちしないでもないが、武器が銃とか持ったSFみたいな世界じゃないだけマシか。


「やっぱ剣こそ至高だよな」


 早速だが冒険者になろう。


 映像で見た猪のやつはまだ無理だが、ゴブリンとかなら狩れるだろ。


 そしていつしか新たな力に目覚め、俺は最強の冒険者として君臨するのだ!!


 ニヤニヤと妄想しながら受付っぽい場所に向かうと


「ねぇ君」

「ん?」


 突然声を掛けられる。


「もしかして、冒険者ギルドは初めて?」


 振り向いた先には、少し幼い顔をした赤毛の女の子。


 小柄だが、腰に刺さった二丁のナイフには独特の恐怖感のようなものがあった。


 てかそんなことよりこの子


「すげぇ可愛いな」

「え?あ、ありがとう。急に褒められてびっくりしちゃったよ」


 俺は別に色恋沙汰に興味はないが、このような美形の方々が嫌いではない。


 むしろ好きな部類だ。


 やはり目に入れるものは、美少女か魔剣とかがいいというのは全国の男子共通だろう。


 異論は認めます。


「あぁ悪い。俺思ったこと直ぐ口に出るんだ」

「も、もしかして私口説かれてる?」


 少しわざとらしく慌てる女の子。


 あ、多分こういうことに慣れてるんだろうなって感じだ。


 異世界でも可愛い子は可愛いのか。


 てことは異世界でも俺はフツメンなのか……まぁどうでもいいか。


「いや別に口説いてはない。俺の恋愛対象は勇者か魔王、もしくは重めな過去を持つ女の子だけだ」

「す、すごいね。中々いないよそういう人」

「そう褒めるな。照れるだろ?」

「どうしよう、凄く厄介そうな人に声掛けちゃった」


 口では軽口を叩くが、正直怪しい。


 ただのお人好しにも見えるが、わざわざ俺に声を掛けてきたのには理由があるはずだ。


「う〜ん、まぁいっか。とりあえず君、私達とパーティー組まない?」


 俺は好奇心と同時に警戒度を引き上げた。


「美人局か?」

「いや違うよ。まぁ誤解されても仕方ない部分はありますが……」

「怪しいだろどう考えても」

「なはは、でもホントに大丈夫だよ!!安心安全。もうめっちゃアットホームなパーティーだから」


 ……よし!!


「遠慮しておきます!!他を当たってくださいそれじゃあ!!」

「ちょ、ちょっと待って!!話、話だけでも聞いてくれない!!」


 全力で逃げようとするが、その小さな体に似合わない力で腕を掴まれる。


「壺なら間に合ってますんで!!」

「壺が間に合う状況ってなんなの!!ねぇお願い!!私達ホントに困ってるの〜」


 グイグイと引っ張られる。


 大声で叫ぶせいで周りからの視線も痛い。


 てか力強いな!!一歩も動けん!!


「……はぁ、話聞くから離してくんない?服伸びちゃうから」

「本当?」

「マジ、とりあえずそこ座ってから話すか」


 ちょうどよく空いていた席に座る。


 こんな可愛い子と向かい合って座るなんてこと、人生で想像もしたことなかったなぁ。


「それで?パーティーがピンチだと?」

「うん。実は私達三人でのパーティーを組んでたんだけど、その内の一人が実家に帰ることになちゃって」

「その穴埋めか?自分で言うのも悔しいが、俺は戦力にはならんぞ?」

「穴埋めって意味では合ってるんだけど、実は冒険者にはランクによって受けられる依頼の幅も違うんだけど、人数でも似たような条件があるの」

「説明してもらえるか?」


 話を要約すれば、冒険者のランクは上からA〜Eまで存在するらしい。


 そして依頼は、ランクによって受けられるレベルが決まっているそうだ。


 Aランク限定の依頼ともなれば、かなりの金額の報酬が出るらしい。


 そして同時に、人数による条件も存在する。


 Cランクが三人以上が条件、みたいなものだ。


 そんで彼女が言うには、帰った子がいない為受けられる依頼が減ったそうだ。


 そして相方の子はお金が必要らしく、どうにか三人目のメンバーが欲しいようだが


「やっぱり俺じゃダメだろ。俺はそもそも登録したところでEランクだし、大した依頼も受けられないぞ?」

「あぁそこは大丈夫。はいこれ」


 何かを渡される。


「なんだこれ?」

「帰った子の冒険者プレート」

「……は?」


 俺は分かった。


 この子バカだ。


「おま!!これ大事なものなんじゃ!!それに絶対申請通らないだろ!!」

「実はギルドの役員の人でセクハラでよく訴えられるおじさんがいるんだけど、その人の場所でなら、通るって言ってたから大丈夫だと思う!!」

「うわぁ、それ後で絶対脅されて酷い目に遭うパターンじゃん」


 純粋だなぁ。


 いい子ではあるんだけど、危なっかしい。


 違う意味でパーティーを組むのもありな気がしてきたな。


 でも


「やっぱいいや」


 俺の目的は呪われた女の子を救うことだが、俺のモットーは楽しむこと。


 異世界生活でパーティーを組むのも楽しそうだが、俺は一から成長をしたい。


 それにさすがに話せば分かる、この子は本当に良い子だ。


 おそらくだが、二人で活躍した報酬を分け与えるという意味も含めた提案なのだと思う。


 ただパーティーに登録するだけで報酬を受け取れる。


 それは本当に魅力的なものだ。


 だが、自分よりも一回り小さな女の子のおこぼれを貰うなんて


「カッコよくない」

「え、うん。カッコよさは別に求めてないかな?それに君、まぁまぁ美形だと思うよ?」


 教会から金は貰うばかりか、こんな子にまで金を要求すれば厨二の前に人として名折れだ。


 今もキラキラした目で俺を見てるとこ悪いが


「他を当たってくれ。お前なら相手なんていくらでも見つかるよ」

「……」


 俺の言葉にポカーンと口を開けた女の子。


 少し可愛らしいなと思ったが、もう関わることはないだろう。


 いやフリじゃないですから。


「あの!!」


 有限不実行か。


「名前を……教えて」

「文清。ただの文清さ」

「文清……」


 カッコつけた俺はそのままクールに去る。


 男に別れの言葉なんていらない。


 はずだった


「なんだ?」


 辺りの空気が変わった。


 先程まで慎ましくも活発だった空間が、一瞬にして通夜のような雰囲気になる。


 そして原因は直ぐに分かった。


「化け物だ」


 誰かがそう言った。


 相手に聞こえず、俺に微かに聞こえる声で漏れた言葉。


 スターの登場により、入り口から職員の道までが一気に開ける。


 少女は歩きにくそうにその道を進む。


 靴が合っていないのだろう。


 俺はその不恰好な歩き方に笑いそうになるが、周りの空気はとても笑えるものではなかった。


「よし、真面目な顔しとこ」


 キリッと効果音をたて、背景のモブ2へと姿を変える。


 だが、なんと彼女はとんでもないことをやらかした。


「アイタ!!」


 変な声を上げながら転けたのだ。


 しかも仮面のせいで前が見えにくいのか、壁に激突しながら倒れた姿は実にシュールである。


「ププ」


 そして我慢出来ずに笑ってしまう。


「アハハハハハ」


 腹を抱え笑った。


 皆の視線が一斉に突き刺さる。


 それは馬鹿を見るように、はたまた心配するように、そしてどこか期待するように。


 そんな視線が一点へと降り注ぐ。


「やっぱり、なんか放って置けないな」


 俺は倒れる少女へと足を運ぶ。


 歩みを進めるごとに体が重くなるのが分かる。


 だが俺は笑顔で歩く。


 出来るだけ穏やかに、出来るだけ刺激せずに。


 そして呼吸すること自体が苦痛に感じ始めた頃、彼女は逃げるように後退りする。


 だが座った状態では逃げ切れまい。


 俺は少女の目の前にまで迫る。


 そしてあの時と同じように


「初めまして、でいいのか?」


 手を前に出した。


 少女は何度も俺の手と顔を交互に見比べる。


 仮面越しで顔は見えないが、そこには疑念と恐怖の色が写っていた。


 そうか、あの時の記憶はないんだな。


 俺の出した手に、彼女は震えるように手を伸ばそうとする。


 だが冷静になったのか、直ぐに手を引き


「気持ち悪いから、二度と近寄らないで」


 少女は逃げるように走り去っていくのだった。

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