第3話 夜

ここからどうするか。それはすぐに決まった。


とりあえず、栄えた場所を目指すことだ。

特殊能力がわからない俺と、ここに来て何も能力がないポーラさん。

このメンバーでは、先程のようなモンスターにもう一度遭遇してしまえば、武器もない俺たちでは命がないと考えられるからだ。


俺の手元には、生前愛用していた模造刀があるがこれに切れ味はなく、相手を斬ることはできない。

しかし、完全に使えないということもなく、切先が鋭くなっているので突き刺すことはできるわけだ。


俺も始めたばかりの頃は、よく納刀をミスってよく怪我をしていた。


それにしても袴が邪魔で仕方がない。だからといって脱ぐわけにもいかないけどね。


対してポーラさんだが、あの世界で使っていた力を使うことはできないらしい。聞いた感じでは、運動神経にも期待はできない。


このことから俺たちには、何にも遭遇する事なく、迅速に、安全に栄えた場所へ行くことが求められるわけだ。


そこにいけば、最小限の武器や強い助っ人を雇うことができるかもしれない。

そうと決まれば、即行動だ。


〇〇〇〇〇〇〇〇


とりあえず、開けている道を歩いていく。

その道中、俺はポーラさんに尋ねてみた。


「そういえば、俺の能力って結局なんなんでしょうね。


闘ってたら分かるかなって思ったんですけど、全く発現しなかったんですよ。」


「えぇ?それはおかしいですね・・・。あの時は確かに何らかの能力が宿っていたんですけど。」


ポーラさんが言うには、まだ力が使えていた時に特殊能力を授ける前と後で明らかに雰囲気が変わっていたそうだ。


「だったら、もしかしたらものすごく強い能力かもしれませんね。」


微かな期待を持ちつつ、そう言ったのだが


「いえ、それが強いか弱いかは判断できません。確かに雰囲気は変わりますが、それは能力の強さに関係しませんよ。だから慢心はだめです。」


どうやらこの人が仕える神様の、前の神様の時は相手の体温がわかる程度の能力だったらしい。


それを聞いて安心はできない。もしかしたらめちゃくちゃ弱い能力かも知れないからな。


今は無双のことよりも、生きることが大切だ。



あれからしばらく歩いたが、周りには緑しか見えなかった。


周りも暗くなってきているし、このまま進むのは危険そうだ。


「ポーラさん。今日はここら辺で休みましょう。

もしモンスターに出くわしたら、2人してあの世行きですよ。」


「それもそうですね。」


そして俺たちは歩みを止めたのだが、安全に一晩を過ごせる場所が見当たらない。


木の上も安全とは言えないし、この場で野宿紛いのこともできない。

俺はここにきて、サバイバルの大変さを痛感した。


生憎、この世界の木の葉は非常に大きく、地面に敷くシートとしては大分役に立つ。これなら横になることも可能だろう。


「ポーラさん。ここは俺が見張りをするのでポーラさんは眠ってください。」


俺はそう指示したのだが、


「いえ!旅の仲間として陸歩さんが起きているなら私も起きています!」


と意気込んでいた。


・・・正直な俺の気持ちとしては、運動神経の悪いポーラさんにはここで休んでもらいたい。


今日だってペースを合わせていたので進みが遅くなったことも否定できないし、ここでポーラさんが休まなかったら埒が明かない。


しかし、善意を無下にするわけにも・・・


としばらく悩んでいた俺だったが、数分後には


「すぅ、、、。すぅ、、、、。」


と寝息を立てるポーラさんがいた。


しかし、見張るとはいっても俺だってすごく疲れている。しかも、袴が暑苦しくて半端じゃない。


あぁ、眠い、、、。暑い、、、。でも寝たら死ぬかもしれない、、。


こんな事を思いながら俺は見張りを続けた。


すると、暗がりの中から微かな唸り声が聞こえてきた。


俺の眠気はすぐに消え去り、すぐにポーラさんを起こしにかかる。


「ポーラさん。起きてください。モンスターです。」


大きな声を出すわけにもいかないので、耳元で囁きながら肩を叩く。


が、


「うーん、、、むにゃむにゃ、、、すぅ、、、」


こいつ!全く起きやしない!最初の戦闘の時もそうだったが、ポーラさんは寝起きが悪いことに気付かされた。


クソッ!こうしている間にも唸り声は近づいてきている。さらに、何だか数も増えてきたような気もする、!


俺は刀に手をかけ、居合切りの体制に入った。斬れないけど。


いつ、どこから来ても対処できるよう集中する。


やがて、こちらを威嚇しながらだんだんと近づいてきたモンスターの全容が明らかになった。


犬のような見た目、鋭い牙、逆立っている体毛。

それが後方に何匹も存在していた。


嘘だろ。一体だけならどうにかなったかもしれないのに、この数はキツすぎる。


思わず後ろへ後ずさってしまった次の瞬間、そいつらは一気に襲いかかってきた。


すかさず刀を抜き、一匹目を横に凪ぐ。

幸い、体躯はそこまで大きくなく簡単に吹き飛ばすことができた。そのことで、モンスターのターゲットは俺に絞られ、寝ているポーラさんに被害は無さそうだ。


が、後に続いてモンスターは次々に襲いかかってくる。


どうにかいなしたり、刀の先で突き刺したり、刀の頭をモンスターの眉間にぶつけたりして抵抗していたが、疲れからか集中が切れ始めモンスターに噛みつかれたり、爪でひっかかれたり、袴を引き裂かれ、傷がどんどん増えていく。



クソッ!なんで能力が使えないんだよ!このままじゃマジで死ぬぞ!


そんな思いも虚しく、ついに袴で見えなかった足に噛みつかれ、そのまま押し倒されてしまった。


流石に死を覚悟した瞬間


「ハァァァァ!!」


と声が聞こえ、何者かが俺にのしかかるモンスターを一気に切り裂いた。


派手に血飛沫が舞い、周りのモンスターたちを血で濡らす。


警戒しているのか、モンスターたちはまた威嚇をしていたが、勝てないと踏んだのか次々と引き上げていった。


安心しつつ、俺たちを助けてくれた人をまじまじと見つめる。


なんかかっこいい装備を身につけた男の人だった。

手に持っているのはやたら刀身の長い長剣で、まさしく勇者か騎士と呼ぶのに相応しい見た目をしている。


とりあえず礼を言おうと立ち上がって俺はその人に話しかけた。


「あの、助けていただいてありがとうございます。」


そう言うと


「礼はいらない。しかし、よくそんな装備でここへ来ようと思ったな。この山には討伐命令が下されるほどのモンスターが住み着いている。しかも今は夜だ。すぐに街へ帰った方がいい。」


うわマジか。そんなモンスターがいるなら全然安心できねぇ。

でも、この人に聞けば街がとこにあるか分かるはず。

俺は異世界転生したことを隠し、武器も装備もないこと、街へ行きたいが場所がわからないことを話した。


「ふむ。どこか遠いところからここへ来たというところか?それならばしょうがない。街へ案内してやろう。そんなボロボロな姿を見て放ってはおけないしな。


私はヨイノツニ=ケルマだ。ケルマと呼んでくれ。短い間だが、よろしく頼む。」


そう言って手を差し出してくれた。


「ありがとうございます!めちゃくちゃ助かります!


俺は尾ノ上陸歩っていいます。陸歩って呼んでください。」


よっし!ひとまずはこれで安心だ。街へ行けば安全だろうし、なにか武器が手に入るかもしれない。そうすれば俺でも戦えるようになるし、能力について何かわかるかもしれない。


そうと決まればポーラさんを起こさないと。


「ポーラさん!起きてください!街へ行きますよ!」


すると


「むにゃ、、、んー?、、、なんれすかぁー、、?」


「だから!通りすがりの人が街へ案内してくれるんです!」


「・・・え?!ほんとですか?!」


モンスターが近くにいる時は全然起きなかったくせに、

こういう時は跳ねるように飛び起きるなんて、、、。


・・・わざとなんてことないよね?


まぁ、ポーラさんも起きたことだし、さぁ行きましょうと声をかけようと、ケルマさんの方を見たのだが


「一体どこから出てきた?!」


と剣を構え、その切先をポーラさんに向けていた。


「え?いや、ずっと後ろで寝てたじゃないですか。」


と木の根元を示す。しかし


「何だと?そこには何もいなかったぞ?」


と不思議そうな顔をしている。こっちだって不思議だ。


だがすぐに、


「なるほど。君は景色に溶け込むことができるのか。私が知ってる中でも初めてだな。一体どうやって魔力をコントロールしてるか教えて欲しいもんだ。」


と納得していた。


いや納得するかい。


だが、その中で俺は『魔力』という単語を聞き逃さなかった。


やっぱりこういう世界には魔力と呼ばれるものがあるんだ。俺にもあるのかなとますます楽しみになった。


「あ、申し遅れました。私、ポーラ=オーラ(以下略)と申します。陸歩さんと同じように、ポーラとおよびください。」


そして礼儀正しく礼をした。


てか待て、ポーラさん景色に溶け込むとかなんとか言ってたけど、能力とかじゃないよね。俺には見えてたもんね?


ちょっとだけ不安になりつつ、先をゆく背中を追いかけた。

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