#005 刺客相手に無双します!

 森での一件の後、俺たちは女の子とネコを家に返すため町へやってきた。

 森を出て直ぐ、そこそこの規模の田舎町だ。


 ここまで来れば、帰り道が分かるとのことで、女の子たちとは街の入り口で別れた。


「ありがとうございました!」


 最後にお礼を言って女の子とネコは去っていく。

 俺たちは、それを手を振って見送った。


 そして、別の目的地へ向かう。

 街の肉屋、素材屋といった場所だ。


 俺が仕留めたクマの肉や毛皮を売り、当面の旅費を手に入れるためである。

 

「素材、売れて良かったですね」


 取引の終了後、立ち寄った茶屋で結果を確認する。

 想定以上の収入だった。


 というのも、俺が倒した熊。

 これが相当なレアモンスターだったらしく、素材がバカ高い値段で売れた。


 そもそもの獲物のサイズが大きい分、額も多くなる。

 おかげで、俺たちはしばらく遊んで暮らせるだけの金を手に入れた。


 しかし、これは大事な旅費である。

 無駄に使うことは許されない。


 けど、少しは贅沢してもバチは当たらないよね?

 というわけで、そのお金でちょっと贅沢にパフェなんかを頼んでみた。


 今までずっと、クソみたいな軍の配給品ばかり食べて育ってきた俺にとって……パッフェなんてものは夢の食べ物だ。


 どんな味がするのだろうか?

 ウキウキ気分でスプーンを握る。


 どうやらアリシアも初めて食べるようで、


「甘い! 美味い! パフェおかわり!」


 猛烈な勢いで食べ進め、おかわりを要求するアリシア。


 人間の街に、明らかに魔族なアリシアがいたら怪しまれるんじゃないか?

 俺もそう思ったが、どうやらツノや尻尾は自由に出し入れできるらしい。


 今のアリシアは本当に、ただの少女と変わりない姿をしている。


 というわけで俺も一口。

 うん、美味い。


 濃厚なクリームが口溶け最高だ。

 いくらでも胃に入ってしまう。


 俺もパクパクとパフェを味わっていると、


「アリシア様ったら、ガッツキ過ぎですよ? ほら、ほっぺにクリームが」


 グロリアさんがアリシアの頬をハンカチで拭う。


 微笑ましい光景だ。

 二人は主と従者という関係だが、こうして見るとただの親子にしか見えない。


 俺はただ、このやりとりを見ていられるだけで幸せだ。

 つくづく、魔族になって良かったと思う。


 この生活を守るためには……。

 必ず、俺が最初にやらなければならないことがある。


「トイレ行ってきます」


 言って、俺は席を立った。


 そして店内のトイレへと向かう。

 小便器の前に立ち、用を足した。


 すると、


 キィ。


 個室の扉が開く音が聞こえる。

 中から大柄な男が現れた。


 その男が俺の後ろに立ち、懐からナイフを取り出すと、


 バッ!


 俺の首元へ向かってナイフを振り下ろした。

 次の瞬間に俺が言う。


「気づいていたよ、最初から」


 男の認識を遥かに超えるスピードでナイフを奪い取り、逆に男の首元へナイフを突き立てた。


「俺たちが森にいた時から、後をつけてたんだろ?」


 言って、俺が男の首元に切れ込みを入れる。

 俺が本気だと知らしめるために、だ。


 さっきから、明らかに俺たちを監視するよう、数人の気配を感じてはいた。


 多分、グロリアさんも気づいていたと思う。

 目的はおそらく、アリシアか俺……もしくはその両方だ。


 そしてこの男の顔、見覚えがある。

 俺と同じ軍、それも同じ小隊に所属していた男だ。


 魔王がこんな場所にいて、軍が放っておくわけないだろう。

 やはりコイツらの狙いは、アリシアの抹殺か……。


 だったらこいつは俺の敵だ。


 かつての仲間とか、そんなのは関係ない。

 アリシアの邪魔をする奴は、一人残らず始末する。


 それが俺の、命に変えても成し遂げなければならない使命なのだ。


 だから相手を誘い出すため、わざと一人になるシチュエーションを作った。

 まんまと罠にハマった男に対し、冷酷な声で俺が尋ねる。

 

「とりあえず、数と配置を教えてもらおうか」

「……魔族に落ちた裏切り者に話すことなど、何一つない!」


 怒声を張り上げ吠える男。


 だが今はそんなこと関係ない。

 必要なのは情報だけだ。


 そのために俺は冷徹に徹し切る。

 人を殺す覚悟も経験も、とっくの昔に済ましている。


 男の首へ致命傷は避けるようにナイフを差し込み、再度男に尋ねる。


「人員と配置は?」

「……誇り高きシャロア帝国軍人は、決して敵には屈しない!」

「そうか、なら死んでくれ」

 

 口を塞ぎ、叫び声を上げられないようにしながら首を掻っ切る。

 抵抗する力がなくなったのを確認して、男の死体を地面に置いた。


 バレないように個室へ閉じ込めるか。

 そう考えて、男の体を掴んだ瞬間……俺はとんでもないことに気づいた。


「なっ、これは!?」


 男の服の下、全身に爆弾が巻き付けられている。

 この男、自爆覚悟で俺を襲ったのか!?


「マズッ……」


 刹那、


 ドンッ!!


 トイレ全体を吹っ飛ばす勢いで、爆発する。

 爆風をモロに受け、俺の左腕が吹っ飛びやがった。


 焦りはした、が……。

 魔力で全身を覆い、防御力を高めることで致命傷は避けた。


 それに、魔族ならこの程度の傷……。

 魔力を使って自己治癒能力を強化することで、すぐに修復することができる。


 余裕を崩さずに俺が言う。


「命懸けの行動、敬意を表すよ……だが、無意味だったな」


 直ぐに傷を治すため、魔力を左腕に集中させる。

 それでも俺はまだ魔力の扱いに不慣れなので、数分はかかるだろう。


 ともかく、先にアリシアたちが無事か確認するべきだ。

  

 二人の元へ戻る。

 店内に爆風のダメージは見られない。


 良かった、二人はなんともないみたいだ。


「ライアさん! なんですか? さっきの爆発は?」

「ん? 怪我してるじゃないか、大丈夫かライア!」


 俺の心配をする二人。


 特にアリシアは俺の傷を見て、涙目を浮かべた。

 本気で俺のことを心配してくれている証拠だ。


 だが、今はそんなことをしている場合じゃない。

 一刻も早くここを移動するべきだ。


 この騒ぎを聞きつけて、直ぐに他の敵もここへやってくるだろう。

 軍の本隊に囲まれたら、俺一人じゃどうしようもなくなる。


「残念なことに、もう逃げ道はどこにもありませんよ」


 だが、店先に現れた男は残酷に告げる。

 見ると、店の周りを十数人の軍服の男たちが囲んでいた。


 クソッ、遅かった……。

 既に軍の小隊に包囲されているわけか……。


「久しぶりです、ライア=ドレイク。私の顔、覚えてますか?」


 指揮官らしき男が語りかけてくる。

 それを俺は一蹴した。


「さあね。俺、男の顔覚えるの苦手なんだわ」

「つくづく気に食わないクソガキだよ、君は」


 言って、男が周りの兵士に合図する。


「我々に与えられた任務は、君たち全員の抹殺なのです! 怪我人に女子供……こんなもの、一瞬で始末できてしまう!」


 合図を聞いて、兵士が俺たちへ向かって銃を向ける。


「泣いて許しを乞わぬのなら、いいでしょう! やってしまいなさい!」


 兵士が一斉に発砲する。


 構わねぇ、やってみろよ。

 俺は命に変えてもアリシアを守るって誓ったんだ。


 そのために、今更この程度の連中に苦戦なんて……。


「……できるわけねぇだろ!」


 魔力で強化したスピードで、銃弾より素早く敵の懐へ潜り込む。


 そして兵士一人ずつ、魔力で強化した右手で首を切り飛ばしていった。

 最後に司令官の背後から、心臓の位置を素手で貫く。


 この間、時間にして一秒未満での出来事である。


「な、かぁ……」


 苦悶の表情を浮かべる司令。


「私がぁ、私がこんなクソガキに……」


 捨て台詞を吐き、絶命する司令。


 これで一先ずは危機が去った。

 だが、なるべく早めに移動しなければならない。


 今回は、まだ敵が雑魚ばかりで助かったが……。

 間違いなく、次は敵の本体が来るぞ。


 そして、それを率いているのは十中八九……あの男、ダリオ=ドレイクに違いない。

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