ボクは今日も今日をながめる

なで肩の天使

ボクのすごした何千年の、ある数日間

ボクは、キミが産まれたときからしってるよ。

ちょうどボクの真上の木の枝にできた、ちいさな巣に産まれてきた、6羽のなかでもちいさいちいさいヒナだったね。

お母さんが運ぶごはん、いつもいちばんたのしみにしていたね。

おっきい兄弟をおしのけてまでして、キミはそのちいさなくちばし、せいいっぱいにひらけていた、それだってしってるよ。


巣立ちの朝、キミはこわがりで、兄弟でいちばんおくびょうだから、お母さんに背中をおされてもとべないでいた。

つみかさねられたワラのはじまできたっていうのに、おしりに体重かけて、まだ落ちないように必死だったけど…。

ふっ、と吹いたそよ風におされて、「わーーー」ってかぼそくさけびながら、ボクのとなりに落ちてきたんだ。

落ち葉のクッションで痛くなかったでしょ?


ぶるぶるふるえてたキミだけど、ふとした拍子にボクをみつけたね。

そのときのキミの目のかがやきはわすれないよ。


心配したお母さんがキミを拾いあげにきたとき、キミはさっと、ボクをのみこまないよう口にしまったんだ。

そのままボクはキミの巣の住人になった。

兄弟みんなどこかへとびたってしまった、キミとお母さんだけが住むお家、キミのふわふわあたたかい毛布にくるまれて、いっしょにくらすことになったね。


キミだけ巣立てないまま、もう二週間もたった日のこと。

お母さんがごはんをとりに羽をひろげて、ぴょんとひととびした瞬間のできごと。

そのいきおいにおされて、ボクは巣から落っこちてしまった。

5メートル10メートル…、どれだけ落ちたろう、落ち葉のクッションに、どすっと音をたてて。


キミは泣きわめいたね。

ボクを取り戻そうと下をのぞいたけど、別の落ち葉がちょうどボクをおおいかくしてしまって、キミにはみえなくなったんだ。

それに、ボクをとりにまた巣立てるほど、キミは強くはないからね。


キミの泣き声がこだまする。

もちろんボクも悲しいさ。

でももっと悲しいのは、キミがお母さんを、ずっとずっとせめてること。

ボクを大切に思ってくれてたことはうれしいよ。

だけど、思い返してごらんよ。


このまえすっごく雨がふったね。

キミがそれでも元気でいるの、なんでだい?

ボク、みてたよ。

お母さん、羽をひろげて巣をかくして、キミがかぜをひかないように、キミがおぼれてしまわぬように、ずっとずっと、雨がやむまでびしょぬれになってたよ。


キミがたまごにいたときから、ずっとキミのこと食べてしまおうって、ねらっているヘビがいたけど、お母さん、おおきくない身体して、それでも必死にないて、ないて、追いはらっていたのも、ボクはしってる。


キミはボクをいちばん大切にみてくれた、せかいにただひとりの、大切なキミ。

だけどキミをいちばん大切にみてくれる、だれかを見失ってはいけないよ。


ボクはただころがって、何百年何千年うつりかわる毎日をながめる石。

またキミみたいに、大切に大切にあたためてくれる、だれかに出会えるかな。


ボクはただ、すぎゆく毎日をながめる石。

ただ、だれかに大切にされるだけの石。

だれかを大切にする、そんなことはできないけども。

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