9.夢を売る(比喩ではなく)
店長の淹れてくれたおいしいコーヒーを啜りながらなにか金になることはないかと考える。
このモダンな雰囲気のお店で俗なことを考えてごめんね。
バーテンダーみたいな制服で一生懸命テーブルを拭いている神崎さんに心の中で謝っておく。
ここの制服はキュッとお尻を強調するようなスラックスなんだよな。
スカートじゃないところがここの店長はフェチズムというものを分かっている。
単純にスカートとパンツ両方あって神崎さんがパンツを選んだ可能性もあるけど。
というかそっちの可能性のほうが高い。
店長ご高齢だしね。
「これ店長からサービスだって」
そう言って神埼さんがお皿に乗った数枚のクッキーを持ってきてくれる。
金欠の僕にはありがたい。
店長のほうに向かって拝んでいただく。
「あはは、大げさだな橘君は」
今の時間帯客がそれほどおらず暇なのか、神崎さんは僕の話し相手になってくれる。
「なにかお金を稼げる方法はないものか……」
よっぽど僕は思い詰めていたのか、いつしか僕の口からそんな言葉が漏れていた。
「え?橘君お金に困ってるの?」
しまった。
好きな女の子には絶対知られたくはないことベスト3には入りそうな『お金が無い』ということが知られてしまった。
「それだったらクラウドソーシングとかどうかな?私の高校のときの同級生がネットで何か仕事して生活してるって言ってたよ?」
「へぇ、そんなのあるんだ……」
神崎さんの意外なアドバイスを聞いた僕は、家に帰ってクラウドソーシングというものについて調べてみた。
「ああ、ネットで仕事を請け負うこともしくはその仲介サービスのことをクラウドソーシングっていうのか」
これって陰陽師の仕事とかないのだろうか。
探してみた。
「ないな……」
当然だけど陰陽師募集とか陰陽師公募とか、陰陽師コンペとかそんなものは存在しない。
まあそんなものがあったところで僕ができることといえば女の子をマインドコントロールしたりエッチな夢を見せたりするくらいだ。
そんなこと堂々と募集したりするのは頭のおかしい奴くらいだろう。
「でもきっと、需要はあるよな……」
仮にだ。
仮に請け負うとしても女の子をマインドコントロールするのはアウトだ。
男の子でもしかり。
マインドコントロール自体アウトだ。
売り物にするのなら誰にも迷惑がかからないエッチな夢の方か。
問題は宣伝方法だな。
こんなおおっぴらにしていい商売じゃない。
やっぱり街角の怪しい外国人みたいに一人ひとり声をかけて宣伝するしかないか。
僕は金を稼ぐべく、街に向かった。
「良い夢あるよぉ。気持ちいい夢、今なら安くしとくよぉ」
おかしいな。
一応念のためサングラスとマスクで顔は隠してはいてもさっぱりと小奇麗な格好をしていると自分では思っているのだが、僕の前を通った人は皆一様に早足で通り過ぎていくのだ。
やっぱり売るものを明確にできないというのは信用を得る段階でハンデになる。
今日のところは諦めて帰るかと思っていると、なにやら言い争う声が聞こえてきた。
少し歩き細い路地から出ると、ラブホテルの前で男女二人がなにやら言い争いをしている。
「ま、待ってくれ!今日は本当に1万円しか持ってないんだ!1万円でなんとか1本抜いてくれよ、後生だ!!」
「うるさいな!金がないなら家に帰ってオ〇ニーでもすればいいだろ!!なんと言われても本番は2万だよ!!!」
どうやら売春の現場に遭遇してしまったようだ。
それも女の方が高校のブレザーを着ているところを見ると、かなりアウトなやつだ。
脂ぎったおっさんが高校生にお金で一晩お願いするなんて、羨ましい。
僕だったらそんなリスクは犯せないよ。
二人はその条件が合わずに言い争っているようだった。
「じゃあ口でしてくれるだけでいい。な?それなら1万でいいだろ?」
「いやだよ。どうせ先っちょだけとか言ってまた入れるんでしょ?見え見えなんだよ!強姦で訴えるよ、おっさん」
「わ、分かった。今日は諦める。今度金があるときにまた相手してくれ」
「今度はちゃんと金持ってきてよね」
最後はおっさんが折れて交渉は決裂した。
おっさんは悲しげに手を振って女子高生を送った。
僕は女子高生が去るのを見届けてから、おっさんに話しかけた。
「おじさん気持ちいい夢、買わない?」
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