7.僕が神の世界

 精神感応術、僕がこの術の使い道として最初に思い浮かんだのはエロゲのようなことだった。

 女の子の精神を支配し、エッチなことをする。

 全ての男子が最初に思い浮かべることだろう。

 だが当然僕はそんなことはしない。

 もしこの『陰陽師になろう』という本が業界人向けのハウツー本なのだとしたら、その業界が存在することになる。

 きっと僕が好き勝手なことに術を悪用すれば、怖いおじさんたちが飛んできてお灸をすえられてしまうことだろう。

 つまり陰陽術は、倫理的に問題のない方法で運用しなくてはいけないということだ。

 倫理的に問題の無い方法、精神感応という術にそんな使い方あるのだろうか。

 うーん、忘れたい記憶を消してあげたりとか?

 グレーゾーンだな。

 どんな理由があろうと記憶を消していい理由にはならない!!みたいなことを主人公的なやつに顔面パンチされながら説教されるパターンだ。

 顔面パンチされたくないな。

 しかし精神に干渉する類の術であるかぎり、どんな用途で使ってもグレーゾーンの域を出ない気がする。

 僕は少ない脳みそを振り絞って考えたのだけれど、その日は何も思いつかなかった。








 暇そうだという理由だけで経済学部を選んだのだけれど、少し後悔している。

 経済になんてなんの興味も湧かないのに、延々と講義を聴かなくてはいかない。

 友達がいない僕は独力で大学を卒業しなくてはいけないため、講義を聞き逃すわけにはいかないのだ。

 ぼっち辛い。

 ああ、でも今日は神崎さんのグループがすぐそばで講義を聞いているので少し気が紛れる。

 同じ学部だったんだな。

 今日は爽やかなイケメンたちはいない。

 どうやら同じ講義を取っているのは女の子ばかりのようだ。

 やがて講義が終わるが、次の時間使われることのないこの教室にはたくさんの生徒が残っていた。

 神崎さんたちも残っているので僕は寝た振りをしてもう少しだけ教室に残った。

 我ながら気持ち悪い。

 見目麗しい女の子たちの会話を盗み聞きしようというのだから質が悪い。

 いやどうせ僕なんてこんなに近くにいても気付かれることがないのだから気持ち悪いとも思ってもらえないさ、ははっ。

 

「昨日すごい怖い夢見ちゃった!」


「へー、どんな夢?」


「うーん、なんかあんまり憶えてない」


「なにそれ、あははっ」


 あれ?なんか思ったよりも頭悪そうな話してるな。

 まあ大学生なんて多少脳みそが発達していたところで同じ年齢層であることに変わりは無い。

 歳相応に馬鹿っぽい無意味な会話もするか。

 すべてが恋愛に直結された思考回路をしていないだけマシかもしれない。

 しかしみんな顔もスタイルもいいな。

 でも健康的な女の子が好みの僕からしたら、やっぱり神崎さんが一番タイプだ。

 夢でもいいから、神崎さんとデートしたいな。

 ん?夢?

 できるんじゃないか?

 精神感応で。

 いいことを思いついた僕は起き上がって教室を出た。

 やっぱり神崎さんは気付かなかった。







 おじいちゃんの家に帰って来た僕は、座禅を組む。

 これから使うのは精神感応系の術の中でも、そこそこ難しい術だ。

 正直言って霊力が足りるかどうかわからない。

 先に晴明様式霊力強化トレーニングをしておけばよかった。

 明日から頑張ることを誓って、僕は自分に術をかけていく。

 そう、術を自分にかけるのである。

 僕は思いついたのだ。

 自分の精神に干渉することによって、夢を操作できるのではないかと。

 自分の夢を操作するのは誰にも迷惑をかけないし、好き勝手しても夢が覚めたら現実への影響は皆無だ。

 これはすばらしい案なのではないだろうか。

 僕は早速夢の中に潜り込んでいった。

 自分の意識に入り込むというのは不思議な感覚だ。

 人間の精神の形というものは、人によって捉え方が違うのだけれど、土御門一門には晴明様の時代から伝わる精神相関図というものが存在する。

 それによれば精神を碁盤に例え、夢を司る部分は右斜め上の星と憶えるらしい。

 精神に明確な形があるわけではないと思うので、そういうイメージで術を発動させろという意味だと解釈する。

 僕は囲碁を打ったことがあるのでイメージはしやすい。

 星といえば碁盤に九個ある黒い点のこと。

 右上にある点をイメージして術を使った。

 視界が薄れ、やがて何も見えなくなる。

 真っ暗だ。

 今は起きているのだから、夢の中は真っ暗で当たり前。

 どうやら術は成功したようだ。

 僕はおじいちゃんの家の居間をイメージする。

 すると真っ暗だった視界が開け、いつしか僕は居間に立っていた。

 擦り切れた畳と傷だらけのちゃぶ台。

 間違いなくおじいちゃんの家の居間だ。

 全く夢とは思えないほどにリアルだ。

 僕はプリンが食べたいと念じる。

 するとちゃぶ台の上にはコンビニにしか売っていないプレミアムミルクプリンが。

 僕が食べたかったのはまさにこれだ。

 すごい、この術はすごすぎる。

 僕はプレミアムミルクプリンを一口食べてみる。

 匂い、味、触感、温度、まさしくプレミアムミルクプリン。

 僕のテンションは最高潮だ。

 この力は、なんでもできる。

 僕は、この世界では神だ!!

 調子に乗って神崎さんを6人ほど出したところで僕の意識は強制的に覚醒した。


「あ、霊力切れ……」


 明日から霊力強化トレーニング頑張ろう。

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