潜入

前編 武器の調達

 林道を抜けて一番初めに見える土壁は、金物屋の自宅兼作業場である。昼間には軒先で酒をひっかけていたはずの主の姿が見当たらないのは、中で作業をしているからだろう――と、平時ならばそう予想するところだ。

「入るのか?」

 静まり返った扉に近づくと、すぐ後ろに着いて来ていたグレイプに小声で尋ねられた。

「ああ、ここは知り合いの鍛冶場で……何か、武器になるものがあるかも知れないからさ」

 年季の入った木製の戸には鍵がかけられておらず、僕は罪悪感に身を少しだけ低くしながら、薄暗い作業場に侵入した。煩雑とした中で、部屋の奥に位置する作業台の周りだけは心なしか小奇麗にまとまっている。脇に置かれた背のない小さな木製の腰かけも、作業台と平行になっており、いかにもお行儀が良い。

 きっと、作業台は豪快で大雑把な性格をした彼の聖域なのだろう。

 そんな、金物屋自身にとってはきちんとまとまっているのであろう作業場において、出入口側の壁周りの散らかりようは明らかに異質だった。壁に立てかけてあったと思われる長柄の農具十数本が散乱し、剣を飾るのに使っていたらしい壁掛け用の金具は壊れ、壁の破片とともに転がっている。

「ここにいたヤツは、武器になるモンを引っ掴んで、慌てて出て行ったって感じか?」

「そうだろうね。おじさんの愛用していた剣も無くなっているし、自分用と、誰かに配るための農具もいくつか抱えて行ったのかも」

 押し入ってきた何者かに連れ出されたのではなく、戦うために自ら出て行ったのだろう。部外者で、しかも異種族であるグレイプの見立てでもそうなのだという事実に、少し安堵する。

 金物屋のおじさんは、少なくとも襲撃されて一方的にやられたわけではないのだ。もしかするとまだ戦っているか、そうでなくてもどこかに隠れ潜んで反撃の機会を窺っているのかも知れない。

「僕はこれを持っていくけど、グレイプもどれか使うかい?」

 僕が足元の鍬を拾い上げるのに続いて、グレイプは少し思案した後、散らかった農具の中から草刈り鎌を手に取った。

「こいつを使わせてもらうよ。オレにはそんな長いモンは使いづらいからな」

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