第8章 能登半島
35湯目 北陸地方への旅立ち
夏休みは終わった。
結局、3年生でもあるまどか先輩と、琴葉先輩は受験勉強で忙しいため、ほとんど部活動には参加できていなかった。
そのため、私はほとんどフィオや花音ちゃんと過ごすことになっていた。
そんな中、新学期が始まったばかりの9月。
ある日に、いつものように狭い部室に行くと。
「能登半島に行こう」
唐突に、まどか先輩が言った。
その日はたまたま全員が集まっていた。
まあ、彼女の唐突さは今に始まったことではないから、私を含め、全員が驚きもしていなかったが。
「行くって、まどか。受験勉強は?」
「たまには、息抜きも必要だ。1泊2日くらいで、ちゃちゃっと温泉入って帰ってこようぜ」
「そんなこと言って、どうせ能登半島一周くらいやるつもりでしょ」
「まあ、それはなりゆきに任せる」
もはや、琴葉先輩は、まどか先輩の行動を読んでいるように、先読みをしており、まどか先輩がたじたじになっていた。
図星を突かれたのだろう。
「ワタシは、全然OKだヨ」
「私も、まあ別に走りやすいならいいです」
フィオも花音ちゃんも否定はしていなかった。
「能登半島は、めっちゃ走りやすいぞ。実は昔、父ちゃんの車で行ったことがあってな」
と、その時のことを思い出すかのように、まどか先輩は遠い目をして、往時の思い出を語ってくれたのだが。
(父ちゃんって、何だかかわいい)
その言い方に、私はクスリと、小さく微笑んでいた。
ということで、私も特に反対はなかったので、了承し、あっという間に日程が決まって行く。
元々、バイク乗りというのは、「フットワークが軽い」。
つまり、思い立ったら、すぐに旅立ちたくなるのだ。
すごい連中になると、目的地も宿も決めずに、ふらりと出発したりする。
さすがに、女子高生でもある私たちには、まだその境地にはたどり着いていなかったが、それでも行動は速かった。
まどか先輩が適当にネットから宿を予約。
「どこにしたんですか?」
「和倉温泉だ」
彼女の携帯を覗き込むと、和風の旅館のような建物が映っていた。
和倉温泉は、能登半島の東側。能登島という島の近くの七尾湾に面した位置にある。古くからある有名な温泉街として知られている場所だ。
調べると、なんと1200年もの歴史があるらしく、能登半島を代表する観光名所にして、高級温泉街として知られている。
あっという間に、次の土曜日に出発と決まる。
帰りは一泊して日曜日の夜だが。
プランとしては。
「節約のために、行きは下道だけで行って、宿に泊まって、日曜日は能登半島を一周して、高速で帰ろう」
という、計画が、まどか先輩の口から出たが。
「相変わらず、適当ね。ここから和倉温泉まで、下で行ったら、7時間以上、315キロもあるわ」
咄嗟に、携帯から琴葉先輩が調べて、嘆息していた。
「いいんじゃない? 飛騨の山を走って行けるんでしょ。面白そうネ」
フィオはその琴葉先輩の携帯を横から盗み見て、興奮気味に発言していた。
「私も別にいいですよ。上だろうが、下だろうが、走りやすければ問題ありません」
花音ちゃんは、相変わらずこういうところは、ブレない。
「まあ、往復高速で行くより、金銭的な負担は減るので、いいのではないでしょうか?」
私が呟いたことで、渋っていた琴葉先輩も折れた。
深い溜め息をつきながらも、
「仕方がないわね」
と、そのプランを飲むことになった。
今回は、国道20号で諏訪まで行き、松本から国道158号に入り、前に走った、飛騨の山中を突破する国道471号を走り、富山県に抜けて、能登半島の七尾市を目指すことになる。
実際、休憩を挟むと、軽く8時間は越えるルートだった。
残暑厳しい9月。
私たちは、軽い冒険のような、旅を経て、能登半島を目指すことになった。
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