33湯目 宮城県の秘境
そこからの展開は、比較的速かった。
首都圏を中心に、いわゆる「朝の通勤ラッシュ」を迎える時間になっていたが、私たち3人は、高速道路上にいた。
つまり、周りにいるのは、せいぜい営業車か、長距離トラックくらい。行楽に行くような家族連れが乗る、サンデードライバーみたいのはほとんどいなかった。
そのため、流れが速く、途中で休憩を挟みながらも、あっという間に東北地方最大の都市、宮城県仙台市に近づいてきた。
羽生PAの出発からおよそ3時間あまり。
午前11時頃に、仙台南インターチェンジを降りると、後はもうひたすら真っ直ぐ続く、「田舎道」だった。
東京周辺はもちろん、私たちが住んでいる山梨県でさえ、甲府盆地では見られないような、交通量の少ない山道を通る。
途中で、秋保温泉の大きな温泉街を抜ける。つまり、元々、ここに立ち寄るつもりだったが、時間があるので、先にこの先にある場所に行くことになった。
そして、その場所についた。
秋保大滝。
ここは正直、なかなかすごい景色だった。
駐車場にバイクを停めて、案内板に従って、ひたすら階段を下って行くうちに、耳に轟音が響いてくる。
そして、木々の間から現れたのは、幅6メートル、落差55m。一説には、「日本三大名瀑」の一つにも数えられるという、大きな滝だった。
「すっごーい!」
「涼しいですね」
フィオと、花音ちゃんが対照的な感想を述べる中、私もまた滝に見入っていた。何しろ、ここは東北の山の中。
花音ちゃんが言うように、8月の盛夏と思えないくらいに、「涼しい」風が吹いていた。何よりも、この巨大な滝から巻き上がる水が涼しさを助長しており、周りの深い緑が、マイナスイオンを発出している。
地球温暖化の進行が一向に止まないこの世にあって、ここだけは別世界のように、涼しさを演出していた。
「来てよかったでしょ?」
私が滝に見入るフィオに尋ねると、彼女は珍妙な回答を寄こすのだった。
「そうだネ。宮崎県は素晴らしいネ」
「いや、フィオ先輩。ここは、宮城県ですから」
私が言う前に、隣の花音ちゃんが、渋い顔で訂正していた。
「んー? 違うの?」
「全然、違いますよ。宮崎県は九州です」
「キューシュー? ああ、あのラーメンに入ってる?」
「それは、チャーシューです!」
思わず、この絶妙な漫才コンビのようなやり取りに、私は自然と笑い声を上げていた。
フィオに、「九州」についてを説明するのも面倒になっていた。いや、むしろ宮崎県を知ってるのが意外だったが。
私たちの、短い夏の旅は続く。
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