24湯目 西伊豆スカイライン
私と花音ちゃんとの、「不思議な二人旅」は続く。
道の駅伊豆のへそで、不思議な「ロッシ会話」をした後、彼女が先頭に立って、私を導く。はぐれないように一応、次の目的地は聞いていた。
西
ナビを見ると、山道を登って、西伊豆スカイラインを通り、約33キロ、40分くらいだった。それほど遠くはない。
しかも、その西伊豆スカイラインに着くまでの、国道136号のルートでは、彼女は珍しく、「私に気を遣う」ように、スピードを落として、距離を保っていた。
ところが、やっぱり「花音ちゃんは花音ちゃん」だった。
山を登り切った後の、県道411号、ここからは通称「西伊豆スカイライン」と呼ばれる道だ。
―グォオオーン!―
CBR250RRの特徴的な水冷2気筒の音を轟かせ、あっという間に視界の外に消えていた。
だが、彼女の気持ちもわからなくもなかった。
山の稜線を走るようなこの道。
本当に気持ち良かったからだ。
所々、木々が邪魔をして風景が見えないこともあるが、ある程度進むと、まるで「雲の上」でも走っているかのような、山の上の快走路で、交通量も少ないので、飛ばし放題だった。
普段は、あまりスピードを出さない私でさえ、スピードを出したくなるような、あまりにも気持ちのいい道。
しかも、7月下旬という時期が、これを後押しする。
地上は、具合が悪くなりそうな猛暑の暑さと湿気に包まれていたが、標高が高い、この山の上は、本当に気持ちがよく、清々しい。
行ったことはないが、北海道の夏のような物だろう、と思われるくらいに猛烈な暑さからは解放される空間。
途中には、いくつかの展望台があり、ワインディングやアップダウンを繰り返す道だが、
そこは、不思議な場所で、ログハウス風の三角屋根の山小屋のような場所で、喫茶店でもあるらしく、日曜日のこの日、ライダーを中心に賑わっていた。
花音ちゃんは、その入口付近にバイクを停めて、柵にもたれかかって、携帯を見つめていた。
「お待たせ」
私が、ヘルメットを脱いで、向かうと、彼女はもう慣れたのか、文句を言うことなく、
「中に入りましょう」
と私を促してきた。
どこか北海道の牧場のようなその建物に入る。
中は、本当にログハウスのようになっており、木目調の内装が美しく、外のベランダ風のスペースもあった。晴れていたその日は、外で食事を摂る客が多く、ほとんど埋まっていたが。
「いらっしゃいませ」
そこで、店員と向かい合った彼女は、私が見たことがないような反応を示す。
「これはこれは。またいらして下さったのですね、夜叉神様」
「どうも」
ここの常連客なのか、彼女は。
そう思えるくらいに、丁寧な態度の店員に、彼女は、
「席、空いてます? 出来れば外がいいですけど」
遠慮なく、いつものようにぶっきらぼうな口調で告げていた。
店内を見回したその店員が、ちょうど席を立った、ベランダ席に座っていた、若いカップルの姿を目に止めていた。
「ええ、大丈夫です」
彼女は、お礼も言わずに、すたすたと外の席に向かって歩き、私は続いた。
ちょうど、空いたその席に向かい合って座ると、すぐに先程の店員がやって来て、残ったコーヒーカップを片付けて、ついでに水とメニューをテーブルに置いた。
ひとまず注文を見ると、コーヒーやソフトクリーム、さらにはカレーやうどんなどもあった。
店員が一度、去り、私はメニューと睨めっこをして、悩んでいると、
「私はコーヒーだけでいいです」
と花音ちゃんはメニューも見ずに決めていた。
「オススメは?」
「ソフトクリームですかね」
「じゃあ、それで」
あっさり決まって、私が店員を呼び、二人分の注文をする。
ようやく一息ついたところで、
「よく来るの?」
気になっていたことを彼女に尋ねてみた。
「まあ。正確には私の父が、ここの常連客でして。家族でよく来てました。だから店員にも顔を覚えられてるんですね。私は最近までバイクに乗ってなかったですからね」
「なるほど。花音ちゃんのお父さんは、有名なライダーだもんね」
「まあ。ネットを見れば、写真で顔もわかりますし。有名人の娘ということで、色々と面倒なんですけどね」
と言って、空を見つめていたが、私にしてみれば、羨ましいくらいだった。
だが、この時、「空を見ていた」彼女の仕草が、後に重要なポイントとなった。
彼女はその前に、雨雲レーダーを見ていたのだ。
「瑠美先輩」
「ん?」
「これから、一旦下に降りて、温泉に入りに行きます」
「そうなの? この辺にあるんだ?」
「何を言ってるんですか。伊豆半島なんて、『温泉の宝庫』ですよ」
言われてみれば、熱海に伊東、
「何だか、雨が降りそうですからね。ちゃっちゃと入って帰りましょう」
そう言って、再び空に視線を走らせる彼女につられて、私も空を見上げたが。
綺麗な入道雲が空一杯にかかり、いかにも夏の空、という感じのよく晴れた、ただの「夏空」にしか見えなかった。
この状態の一体どこに雨の気配があるのだろうか。
花音ちゃんは、私に言わせると、どこか「不思議な」ところがある、女の子だった。
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