【短編】隣の席の(自称)未来の嫁が可愛すぎる。〜クラスでは目立たない僕ですが、(自称)未来の嫁な美少女になぜか猛アタックされてます〜

ゆーやけさん

第1話 席替えと(自称)未来の嫁。

「……あのっ! 桐原きりはら 唯斗ゆいとくん……だよね?」


 よく晴れたある日の昼下がり、6時間目のホームルームの時間。賑やかな教室の中で、僕が席替えの紙――良くも悪くもない位置のものだ――を静かに眺めていると、後ろからふと声をかけられた。


「えっ? あっ、はい」


 急に声を掛けられたので生返事になってしまった……と後悔しながら声のほうを見ると。


「……って、姫宮さん!?」

「はい、姫宮です」


 鈴の鳴るような声で答えた彼女は姫宮ひめみや 恵流めぐる。つややかな長い黒髪に透き通る肌を持つ、物静かな雰囲気の美人だ。


 声を掛けられるのはクラスの賑やかな男子(しかもイジリのため)くらいの僕に、声を掛けてくるような人ではない……けれど。


「えっと……大丈夫ですか? なんかぼーっとしてますけど」


 姫宮さんのことをじっと見つめながら考え事をしていたせいで、困惑の表情を浮かべている。


 しまった……と思ったものの、困惑する表情も可愛らしく、思わずまたじっと見てしまいそうで……確かにこれはモテまくるわけだ。


「あっ……あのっ!」

(……えっ?)


 ……と、そんなことを考えていると、手が強く握られた。白く細い手。きめ細やかで柔らかくて、温かいこの感触は女子のものだ……まあ、よく知らないけど。


(って、そうじゃなくて……あれ? これって……姫宮さんが? なんで?)


 僕の目の前にいる女子は、姫宮さんだけで。驚いて姫宮さんのほうを見れば――──彼女は、顔を赤らめながら細い声で何かを呟いた。


「……え、っと?」

「本当に、会えた……」

「……え? 前にどこかで会いましたっけ……?」

「そうじゃなくて!」


 握られた手が、僕の指をからめ取る。すべすべとした感触が手のひらに走って、思わず顔が赤くなるのを感じる。


「あっ……あのっ!」


 詳しいことを聞く前に、姫宮さんは意を決したように目を開き、顔を真っ赤にしながらこう告げた。


「私は――――唯斗くんの、未来のお嫁さんです!」

「……えぇ?!」


 少しの間、静寂が走った後に僕は思わず大声で返してしまう。当たり前だろう、クラスの中でも一番の美女に”あんなこと”を言われたんだから。


「えーっと……姫宮さんも冗談とか言うんですね、ハハ……」

「冗談じゃないよ! 本当に未来のお嫁さんになるから!」

(これは……からかわれてるのか?)


 そうとしか考えられない。だって、罰ゲームでなきゃ、こんなことやらないに決まってる。もしかして、僕が戸惑ってる反応を見て楽しもうってことなのか……?


「その目、絶対信用してないでしょ! 私、本当にタイムリープしてきたから知ってるよ!? 唯斗くんがメンマ食べれないことも、中学生の頃に書いたポエム集が押入れの中にあるのも、【自主規制】が【自主規制】するエッチな本を────」

「なんで知って……いや、何言ってるの!?」


 教室の中でなんてこと言ってるんだ!

 というかなんで全部合ってるんだ!?

 なんだこの人、ストーカーか? ストーカーなのか!?


「あの2人、なんの話してるの?」

「というか姫宮さんがあんな大声出してるの珍しくない? 桐原になんか言われたんじゃ……」

「【自主規制】を【自主規制】って……桐原、性格に反してハードすぎるだろ……」

(なんか大変なことになってる!?)


 まずい、一瞬にして悪い意味で注目を集めてしまった。もしこのまま教室にいたら、さらに酷いことになる気がする……!


「そういえば僕、用事あるんだった! それじゃ!」

「あっ、唯斗くん……行っちゃった」


 そんな嫌な予感がして、俺は荷物を持って逃げ出すように教室の外へと飛び出した。ホームルームとはいえ授業中には変わりなく、廊下はひどく静かだ。


「何だったんだよ、ほんとに……!!」


 変な誤解を生んでいないだろうか。出席点は大丈夫だろうか。そもそも、なんで姫宮さんは初めて話した僕にあんなことを言ったんだろうか……色々と気になることが多すぎて、思考の整理がつかない。


(明日からあんな人と隣になるなんて、大丈夫かな……)


 クラスの男子の憧れにして、僕の未来の嫁を自称している美少女、姫宮さん。


 僕はとんでもない人と隣の席になってしまったのかもしれない……なんて思いながら、やけに重く感じる荷物を背負って1人で下校したのだった。

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