第24話 コマ勝負と授業参観と、「そのままでいいんだ!」⑤

 授業参観は道徳の授業だった。

 ことばには人を傷つけることばもあるから気をつけて使おう、そしてお友だちとうまくコミュニケーションをとろう、という内容だった。


 人を傷つける「ちくちくことば」には、どんなものがあるのか、みんあで自分が言われたら嫌なことばをいろいろ考えた。「キモイ」「バカ」「死ね」「消えろ」「クズ」などなど。

 オレも「バカ」とか「消えろ」とか言われたら、すごく悲しい。胸につきささって、とても痛い。


 かっくんとケンカしたとき、「ちくちくことば」をつい言っちゃうことがある。かっくんも嫌な思いをしたんだろうな。学校では言わないようにしているつもりだけど。でも、ときとき使っちゃってるかもしれない。

 海やジョーやひでの顔を思い浮かべた。それから、クラスメイトの顔を。

 みんなが笑っていた方がいいな。


 先生が、嬉しい気持ちになる「ふわふわことば」を使おうね、と言った。「ありがとう」「いいね」「うまいね」「がんばったね」「すごいね」などなど。これもみんなで考えた。

 オレもイッショーケンメー何かをしたときに「うまいね」って言われたら嬉しい。みんなみんな、「ふわふわことば」でいっぱいになったらいいな。


 香月先生がプリントを配った。

 線だけ引いてある紙だ。

「みんな、まず自分の名前を書いて。一番上のところに書くんだぞ。名前を書き終わったら、プリントを裏向きにして」

 先生は、裏向きにしたプリントを交換させた。

「じゃあ、表にして。そこに書いてあるお友だちの名前を見て、その子のことを思いながらことばを書いて。メッセージでもいいし、その子のことを表すことばでもいい。ただし、『ちくちくことば』はダメだぞ」


 オレたちはイッショーケンメー考えて書いた。友だちにことばを送るのは楽しかった。

 それを何回か繰り返して、みんないろんな友だちに向けてことばを書いた。


 それから、先生はプリントを集めて、みんなが書いたことばから誰のことを書いたのか、当てるゲームをした。班別対抗だったので、すごく盛り上がっておもしろかった! オレはひでと同じ班だったので、ひでと笑い合いながら、誰かを考えた。

 あんまり夢中になったので、オレはイスごと転げてしまい、みんなが笑った。参観に来ている、お父さんやお母さんたちも笑った。香月先生は「すーくん、大丈夫か? ケガしてない?」と心配げだった。オレは「大丈夫っ‼」と元気よく言って、照れ隠しに笑いながらイスを元に戻して座った。


「では、そろそろ時間だから、最後の一人です。本当はみんなやってあげたかったけど、ごめんなさい。最後の一人は……

 まず、『ドッチボール、うまいね!』です。それから、『キャッチするの、上手だね』」

 ドッチボールが好きなオレはどきどきした。

「『月曜日、遊んでくれてありがとう』」

「あ!」 

 と、ひでが言った。

「それ、おれが書いた!」

 ひでは思わず立ち上がって――その拍子にイスがたおれた。みんな、ますます笑った。

「じゃあ、続きいくよ。『いつも元気いっぱい』『冬でも半そで、すごいね』『笑顔がいいね』。冬でも半そでの子、何人かいるね」

 香月先生は笑いながら、クラスを見渡した。


「それから、『強いコマ、くれてありがとう!』」


「それ、ボクだ!」

 と海が言い、ひでとジョーが「海だ!」と興奮して言った。

「さて、もう誰のことか分かったかな?」


「すーくんだ!」「すーくん‼」「すーくんしか、いない!」

 満場一致でオレとなり、香月先生はにこにこしながらオレの名前を言い、そして拍手をした。るるちゃんがオレに向かって手をふって、オレも手をふりかえした。

 オレはすごく嬉しくて、でもちょっと恥ずかしくて、頭をかいた。

 へいちんとナミちゃんの方を見たら、へいちんとナミちゃんもすごく嬉しそうにしていた。

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