第22話 コマ勝負と授業参観と、「そのままでいいんだ!」③

 チーム分けをして対戦することにした。

 オレとジョー、海とひでのチームだ。

 オレはジョーに

弱気よわきで回そうぜ」

 と、こっそり言った。ジョーは

「いいよ!」

 と言った。


「スリー、ツー、ワン! ゴー、シュート‼」

 かけ声とともに、みんなで一斉にコマを回した。

 ジョーのコマが一番初めにたおれた。

「ちぇっ! 弱気よわきでやらなきゃよかった」

 と、ジョーがくやしそうに言った。

 ジョーのコマがたおれてから約一秒後に、ひでのコマがたおれた。

 ひでも

弱気よわきで回したからだあ!」

 とくやしがった。

 最後は、オレと海との勝負だ。

 そして、オレのコマは海のコマにぶちあたり、海のコマをぶっとばした!

「よっしゃあ‼」

 オレはガッツポーズをした。


 オレは実は弱気よわきで回していなかった。ジョーに「弱気よわきで回そうぜ」と言ったのは、海とひでが「弱気よわきで回すぞ」言い合っているのが聞こえたからだ。それはジョーにも聞こえていたと思う。だからジョーは「弱気よわきで回そうぜ」っていう、オレの提案に「いいよ!」って答えて、弱気よわきで回したんじゃないかな。


 オレも最初は弱気よわきで回そうと思っていた。でも、弱気よわきで回したら負けるかも、せっかく朝がんばって、よく回る強いコマを見つけて持って来たのに、と思ったら、なんとなく弱気よわきで回したくなくて、ふつうに回しちゃったんだ。海もきっと弱気よわきで回していなかったと思う。


「今度は強気つよきでやるぞ!」

 ジョーとひでがそう言い合っている。オレは今度は弱気よわきにしとこうかな。

 弱気よわきとか強気つよきとか、大人にはなんかよく分からないかもしれないけれど、おもしろいんだ。だから、勝負のときはいつも、「弱気よわきでやろうぜ!」とか「強気つよきでいく!」とか言っている。負けたら、「弱気よわきでやったからだ~」とか言うんだ。コマ勝負だけじゃなくて、どんな勝負のときも、強気つよき弱気よわきっていうのは使っている。徒競走でも、たとえば後ろの方だった場合は「弱気よわきで走ったからなあ。今度は強気つよきで走る!」って言うんだ。ナミちゃんなんか、「なんで弱気よわきで走ったの? いつも強気つよきで走ればいいのに」とか言うんだけど、いいんだよ、これで。わかってないなあって思う。


「さあ、もう一勝負だ! ……海、早来いよ」

 ふっとばされたコマを取りに行っていた海に声をかけた。

「……コマ、こわれちゃった……」

 海が泣きそうな顔で、さっきふっとんでいったコマを持って来た。

 見ると、コマの軸が引っ込むようになってしまっていた。

「あーあ。これはもう回せないね……」

 ジョーが悲しそうに言った。

「分かった!」

 オレは元気よく言って、持っていたよく回る強いコマを海の手に乗せた。

「これ、あげる! 強いコマだよ! よく回るよ!」

「え? いいの?」

 海が心配そうに聞いた。

「いいのいいの。オレ、まだ持っているから」

 オレは机の中からコマを出して、みんなに見せた。

「でも、強いコマなんでしょ?」

 海は言う。

「うん、だからあげるんだよ。海のコマ、ふっとばしてこわしちゃったの、オレだしさ」

「……ありがと、すーくん!」

「いいよ、じゃ、コマ勝負、しよぜ‼」

「よっしゃ!」

 海が笑顔になって、よかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る