第8話 サイアクな日④
フォートナイトで敵を倒しまくって二位になり、ちょっと気分がよくなったのでリビングに下りて行った。
そうしたら、ナミちゃんが電話で誰かと話しているのが聞こえてきた。
「……はい、そうなんです。……でも、理由を全然話してくれなくて。……はい……はい……」
あ!
ナミちゃん、香月先生と話してる! ……たぶん。
「本当に落ち込んでいるようで、心配で……はい」
いや、ぜったい!
心配性のナミちゃんの行動力、忘れてた‼ ヤバイ!
「そうですか。……わたし、お伺いしてもよろしいでしょうか?」
それダメ! ダメだったら、ダメ‼
だって、ナミちゃん、パンダだし!
ダメダメダメダメダメ‼
パンダのナミちゃん、香月先生に見られたくないよ。。
「オレ、大丈夫だよ!」
電話をしているナミちゃんのすぐ横にかけよって、大きな声で言う。
「あ、ごめんなさい、いまとなりで……ちょっとお待ちください。……何? すーくん」
「オレ、大丈夫だから」
「だけど……」
「ちょっと、電話貸して! 香月先生でしょ」
オレはナミちゃんから受話器をムリヤリとると、電話に出た。
「先生」
「すーくんか」
「はい」
「お母さん、心配してるぞ」
「……うん。あ、でも、ダイジョーブです」
「何があったか、お母さんに話さないんだって?」
「……うん」
「先生になら話せるか?」
「……」
「ちゃんと話さないと、お母さん、心配でどうにかなっちゃうぞ」
先生、ナミちゃんはもうすでにパンダなんです。
「明日、先生に話そうな」
「……はい」
パンダのナミちゃんが香月先生と話すよりマシだ。
オレはしぶしぶ返事をした。
「じゃ、お母さんに代わってくれるかな?」
「……うん。……ナミちゃん、はい」
ナミちゃんはパンダの目で成り行きを見守っていた。心配そうに。
「はい、お電話代わりました。……はい、……はい、分かりました」
ナミちゃんは受話器を置くと、オレの目をじっと見た。パンダの目で見られるって、なんかヘンな感じだ。笑っちゃいけない局面だけど、ほんのちょっと笑いが込み上げる感じ。
「明日、香月先生にちゃんと話せる?」
「うん」
「……いまは言えないの?」
「……うん」
なんか、ナミちゃんには言えないんだよ。
「そう」
ナミちゃんは悲しそうな顔をした。
話して欲しいんだろうな、とは思う。
でも、オレ、困ったことや嫌なこと、ナミちゃんには言えないんだよ。
すーくんは大丈夫! 元気ないい子! 手のかからないラクチンな子! って思っていて欲しいんだ。
かっくんがいろいろ爆発していて、それに右往左往して、泣いたり疲れちゃったりしているナミちゃんを見過ぎたせいかもしれないけど。オレのことだって、かっくんと同じようにちゃんとたいせつにしてくれてるって、分かってはいるけど。
でも、言えないんだよ。
うつむいたオレの頭をナミちゃんがなでた。パンダの手で。でも、ちゃんとナミちゃんの「なでなで」だった。
ナミちゃん、ごめんね。
心配かけて。
こんなはずじゃなかったのに。
うつむいたオレの目から、涙がぽとりと落ちた。
ナミちゃんには気づかれなかったと思う。
現実の「敵」も、ゲームみたいにカンタンに倒せたらいいのにな。狙いを定めて、バン! って。
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