パンダのナミちゃんとゆうつなオレ

西しまこ

第1話 ある朝起きたら①

 ある朝起きたら、ナミちゃんがパンダになっていた!


 ナミちゃんって、オレのお母さんのこと。オレんちではみんな名前で呼び合っているんだ。

 ナミちゃんはいつも、「将来の夢はパンダ!」とか訳の分からないことを言っていて、オレは自分のお母さんながらバカみたいって思っていたんだけど、本当にパンダになってしまうとは‼


 パンダのナミちゃんは朝ごはんのベーコンエッグを作りながら、言った。

「ベーコン二枚、食べるひと!」

 オレもお兄ちゃん(3コ上の五年生)のかっくんも、なかなかうまく返事ができなかった。だって、ベーコンとかより、パンダの姿の方が問題だろ⁉ なんでフツーにごはん作ってんだよ!

「ちゃんと返事してよ!」

 ナミちゃんはパンダでないときと同じように怒り始めた。

 まずい。

 ここでちゃんと返事をしないと、キーキー怒り出すぞ。

 キーキー怒るナミちゃんは本当におっかないんだ。

「オレ、ベーコン一枚でいい」と、オレは答えた。ちょっと声、震えていたかも。

「それよりナミちゃん、なんでパンダなの?」と、かっくんは空気を読まずに言った。

 ヤバイ。何言ってんだよ、かっくん!

「パンダとか、そんなことどうでもいいの! ベーコンの枚数を聞いてんの‼」

 そらきた。

 かっくんはいつも空気を読まない。それで苦労するのはいつも弟のオレだ。

「かっくん、ナミちゃんはベーコン何枚食べるか聞いているんだよ」

「……二枚……それより、パンダ……」

「ナミちゃん、かっくん、二枚だって!」

「はーい! じゃあ、全部で四枚ね」

 一枚はオレ、二枚はかっくん、残る一枚はナミちゃん。

 お父さんのへいちんは「タンシンフニン」で郡山にいるから、今オレんちは三人家族だ。

「へいちん、早く帰って来ないかなあ」

 ナミちゃんは言った。

 オレも早く帰ってきて欲しい。いや、早く帰ってきてくれないと困る。ナミちゃんはパンダだし、かっくんは空気読めないし、オレ一人じゃムリだよ。

「ベーコンエッグ、出来たよ~」

 ナミちゃんは言う。

 パンダの手で器用にお皿を運んで来た。

 ナミちゃんはパンダの姿にいつものエプロンをつけていた。

「はい、かっくん、黄身あげる」

 オレはかっくんに黄身の部分だけをあげた。オレは目玉焼きの白身は好きだけど、黄身はあまり好きじゃないんだ。

「ありがと、すーくん」

 かっくんはいつもオレが黄身をあげるのを待っている。かっくんは黄身が大好きなんだ。

「ところでさ、ナミちゃんはどうしてパンダになっちゃったの?」

 オレは様子を見ながら、おそるおそる聞いてみた。

「そうだよっ! なんでパンダなんだよっ!」

 かっくんは口の中から黄身を飛ばしながら言った。ヤバイよ、かっくん。それ、ナミちゃんが嫌いなパターンだよ。

「もうやめてよ、かっくん! 口から黄身が飛び出したよ。汚い! 誰が掃除すると思ってんの!」

「そうじゃなくて、パンダ……」

「やだやだ! そんなにこぼして‼」

「……パンダ……」

「早く食べちゃって、二人とも!」

「……パンダ……」

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