第28話 飛ぶように売れた

それからというもの、ボクらの三人が壊したものは何でも飛ぶように売れた。それもびっくりするような高い値段で。


果たして需要はあったのだ。莫大に。


まさかボクらにA Iを凌げるほどの、物を魅力的かつ蠱惑的に壊す才能が備わっていたなんて……。


そんなことは通信簿にも書いてなかった。


ボクらはかの有名なニューヨーク誌が選ぶ21世紀中盤の100人にまで入った。


さらには「何京年に1人の逸材」とまで言われた。

ぜったい数えろよなとは思った。そもそも三人だし。


世界中の愛好家(?)からの指名が殺到して、だから休日返上で働いた。定時で帰れそうな雰囲気はなかった。


先祖返り的な産業革命ブームみたいになって、ぽつぽつ働く人間たちまででてきた。


「荒稼ぎ」という表現は多分どこかしらうしろめたさがあるときに使うんだろう。


数ヶ月経ったのちには、ボクらはひと財産築いていた。


── ピーターパンが一生かかっても使いきれないほどの『子供ドル』を。


もう“つもり貯金”を楽しむことはできない。


“行為こそすべてのはじまり”とゲーテさん言いなはった。


もちろんだけど工場も潤った。ボクらは子供だからピンハネもすごかったし、租税回避地を壊して売ったので、全体の税収増に貢献したとして大規模に減税してもらえたりもした。


大人たちは『子供ドル』を欲しがらなかった。


子供ドルが主要デジタル通貨とあえて連携していなくてその裏付けがないせいもあるけど


大人たちには紙屑かデジ屑に見えるんだそうだ。


──夢が買えるのに……。夢だけを大人買いできるのに……。


でも最後まで猿元さんも祭山田さんも他の関係者の方々も、どんな人たちがこの『聖品・・』を買ってくれているのかは教えてくれなかった。


(諸般の事情に鑑みて)


「そういうのは知らない方がいい」と、いつもみんなは言った。


「作風に影響するから」という、もっともらしい理由でお茶を濁さることもしばしば茶葉茶葉。


それでもどうしてもボクらが強く知りたがったときには、こう返された。


「そうだな、この星の秩序を作り出しているような人たち、もしくは、お化けさ。アハハハハ」


べつに笑えなかった。


ケイイチも、ゆっこちゃんも、そしてボクも三人ともそういえばこのごろ笑わなくなった。


夜を日に継ぐ重労働。“やりがい”は壊れやすかった。


『川は曲がりたがっている』とアインシュタインはんは言いなはった。


川沿いの道を真っ直ぐにいつも帰った。


これは就業規則違反だけど、ときどきA Iに悩み事を聞いてもらった。それは『脱走A I」というお尋ね者のA Iで、まあまあ良心的だった。


これはもしかしたらだけど、ようやく『働く』という概念がボクらに追いついてきたのかもしれない。


だけど時代に追いつかれたらちょっと困る。ボクらは時代までは切り盛りできないから……。







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