第25話 ロックンロールを壊した
作業直前のハイタッチ中に背中のほうから祭山田さんのアドバイスが飛んでくる。
「いいー?みんなー、大切なのは壊しかたじゃなくて、壊したいという気持ちなのよー」
「了ー解」。振り向かずにうなずく。
目の前に“対象”が来た。
あいかわらず不安定な動きを続けている。劇場型激情が見て取れる。
黒ひげ危機一髪の全穴NGみたいな感じで、自由を求める歌詞と音楽があちこちの傷口から大量出血のように噴き出している。
ボクらに見えているものが、ボクら以外にも見えていること前提で語りきれるほどボクらは子供らしくはない。
これは幻のお化け工場理論から
だから音楽的に壊して直す。その意味でセオリーオブエブリシングすぎてはいない。
では作業開始!
ゆっこちゃんがまず“対象”の傷口をふさいだ。この場合逆説的だけど傷口を開くことがロックンロールにとっては塞いであげることにつながる。ボクらも触れた。
ロックンロールを肌で感じた。肌から音楽が入ってきた。
定義の下しようがない 鼓動。
まるで救急のストレッチャー搬送みたいにベルトコンベアに伴走してボクらは動く。
そしてすべての傷口がハート型になるように整形していく。ハート型に著作権がなくてよかった。
即座にデジタル化した愛で消毒。この場合、真実の愛だとアレルギーをおこしてしまう恐れがある。
それが済むと同時にケイイチが「これを早くのませて!」とボクにすばやくあるものを手渡した。
それは以前、川を壊したときにお世話になった『爆逆魚』のうろこを使って非AI創薬をしたもので、『
「うん、了解」。ボクは投薬用マイクスタンドを使ってロックンロールに処方した。
するとロックンロールはわかりやすく視覚的にドクンッと脈打ち、巻き散らかした音楽を取り戻し始めた。初めて息を吸ったみたいに一気に吸い込んだ。
音楽は止んだ。
もうこのロックンロールは何かと闘う必要がなくなったのだろう。
いったん透明になったその“対象”は、そのあとで質量はキープした状態で急速に小さく
のぞきこむと全く違う宇宙を見ることができるレベルにまで達した良品だ。
「ボタンを押そう」
「うん、そうしよう」
肩で息をしていた。そういえば作業中、大きな声を自然と出していたと思う。
ボクらは三人でいっしょに『完破ボタン』を押した。
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