第4話 霧の中へ
私はその後、明葉に電話をかけた。
「もしもし、明葉。仕事中だった?」
「ううん、大丈夫よ。何かあったみたいね。」
「そうなの、実はーー。」
法事のこと、仕出し弁当のこと。
母にまた迷惑をかけたこと。
今日の話を彼女は黙って聞いてくれた。
そして最後に、
「じゃあ、今夜はトンカツでも揚げるわ」
と言ってくれた。
その言葉が何よりもありがたかった。
「トンカツ?!いいの?普段あんなに面倒って言ってたじゃん。」
「たまには良いわよ。からあげの揚げ油も残ってるし。」
「ホント?じゃあ、すぐ帰るね!」
「現金な人ねえ……。」
電話を切った後、私は急いで車を走らせた。
明葉の作るトンカツはサクサクでジューシーだ。
しかも、ポン酢、味噌ダレ、ソースを3つ準備してくれる。
この世で1番良い女が明葉だ。
早く帰ろう、そう思って車を走らせる。
前に走る車を何台か抜かし、山をいくつも超え、ひたすら走った。
気がつくとあまり普段は使わないような山奥の道を走っていた、方向は間違えていないが。
メーターの時速が130kmを超えたところで、いきなりスピードが落ちる。
そのままガガガッという音を立て、ゆっくり動く。
故障?それともスピードを出しすぎた?
困惑しながら路肩に車を停車し、降りた。
白の軽自動車には、特に外傷もなければ変な匂いもしない。
本来エンジンルームを開けて調べるのが正しいと思うが、生憎私にそんな知識はない。
「はあ……?」
前方には、霧が広がっている。
せめて引き返そうと振り向くがそこも霧だった。
「道がなくなっている……。」
私は立ち尽くすしかなかった。
どうしよう、帰れなくなっている。
しかし、途方に暮れていても仕方ない。
もう一度車に乗り、エンジンをかけるとゆっくりだが動きだした。
ガタガタと揺れるが、それでも前には進める。
「おーい。あんた!おーい。」
霧の先に道路の中央で手を振るポロシャツの初老の男がいた。
「止まれー!」
男のいうことを逆らう理由もないので、とりあえず車を停車し、降りた。
「どうされました?」
「あんたあ、どこから来たんだ。」
男は私をまじまじと見て混乱したような顔をした。
「いや、どこって。ここはーー。」
私は県名から言おうとするが出てこない。
頭にモヤがかかったようだ。
「……実家から帰って。」
実家から帰って?
「やっぱあんたも同じかあ、とりあえず村に案内する。」
男は徒歩でどんどん進む。
私もどうしようもないので、ひとまずついていくことにした。
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