第28話 最低!
俺は、ひどく混乱していた。
自分の体が、いきなり人型になったかと思ったら、帰ってきた将軍に、めちゃくちゃいじられた。
将軍が帰ってきてくれたのは、単純に嬉しい。
彼が俺を「かわいい」とか「きれいだ」と言ってくれたのは、くすぐったかったけど、悪い気はしなかった。
けれど。
あれは、やりすぎだと思う。
今でも、股がすれて痛い。体中、ひりひりする。
初めてだったんだ。あんな風に熱を持ったのは。それに、何? あの突きあげてくるような快感は!
一度で充分だった。多くても、2度。それ以上は、耐えられない。
それなのに何度も搾り取られ、いろんな姿勢をさせられ、口づけられ吸われ噛まれ、果ては、熱いものを体中にかけられた。
最後の方は、殆ど記憶がない。
そして目が覚めたら、カエルの姿に戻っていた。
慌てた将軍は、あろうことか、医者を呼んできた。
寝乱れた寝室に。彼が、さんざん狼藉の限りをつくした、淫靡な部屋に。
部屋に入ってきた医者は、顔を顰めた。すぐさま、窓を開けるよう、将軍に言いつけた。彼は、唯々諾々と指示に従っている。恥ずかしさで、俺は、死にそうになったものだ。
将軍と医者は、長いこと話していた。
そして、俺は知った。
ケンタウロスのルイーゼや人魚のシャルロット、さらには、以前、彼のハーレムにいたという、積極的な人間の女の子にさえ、彼が手を出さなかったわけを。
ロンウィ将軍には、心からの愛を捧げた人がいるから。
じゃなくて。
いや、それもショックだったけど!
軌道修正。
彼が、女の子達を避けていた本当の理由だ。
それは、彼の病気のせいだ。
誰とでも、来る者拒まずでやりまくった結果じゃないか!
しかも彼には、心を捧げた、愛する人がいるというのに!
そうした大事な人がいながら、身の回りの女の子たちを次々にベッドに入れていたなんて!
きっと、俺にしたように……ああ、鼻血が出そう。
最低!
ロンウィ将軍は、最低のろくでなしだ!
◇
目の色を変え、ロンウィは、走った。
「おい! カエル! カエルを見なかったか?」
通りかかった兵士を捕まえ、尋ねる。
「カエルですか? さあ」
兵士は首を傾げる。
「でも、いいですね! 祝賀祝いに、カエルの揚げ物!」
危うく、殴りつけそうになった。
厩舎の近くで捕まえた兵士は、もう少し、役にたった。
「グルノイユですね?」
彼は、獣人が人型になった兵士だった。
グルノイユの言葉がわかる。
「中央軍へ行く伝令にくっついて、出ていきましたぜ」
「中央軍?」
ゴドウィ河上流に残してきた、ロンウィ自身の部隊だ。
少し、ほっとした。
自分はまだ、彼に捨てられたわけではない気がする。
「それが、一番早く出発するやつだったからです。とにかく、
不穏な言葉だった。
「馬を用意しろ!」
ロンウィは叫んだ。必死で追いかければ、途中で追いつけるだろう。
追いついて、どうするかは、我ながら不明だった。
だって、できないし?
とりあえず、グルノイユが、伝令の兵士と一緒だというのが、耐えられなかった。彼は、兵士の、胸ポケットにいるのか? それとも、尻ポケット?
「ロンウィ!」
胴間声が聞こえた。
ゆうべの深酒で声を潰した、クレジュールだった。
「ここにいたのか、ロンウィ! よく寝たか? おや、随分顔色が悪いな」
「顔色が悪いのは、元からだ。ゆうべは、ぐっすり眠った。久しぶりで夢も見ず」
おいしい眠りの後、恐怖の朝を迎えたわけだが。せっかく発情してくれたグルノイユが、カエルの姿に戻ってしまった……。
クレジュールは、がははと笑った。
「眠れたんなら良かった。おれなぞ、寝不足だよ。ラウラが眠らせてくれなかった」
同僚ののろけを聞いている暇はないと、ロンウィは思った。
「クレジュール、見ての通り、俺は、急いでいる」
「なんで?」
「中央軍へ帰る。大至急だ」
「はあ? 何言ってんだ、ロンウィ。戦後処理が残っているぞ」
「それは、北軍でやればいいだろ」
「だめだ。君も来るんだ。これから、エスターシュタット軍と、人質交換だ」
「いやだ」
ロンウィの拒絶を、クレジュールは、あっさり無視した。
「向こうの大将が、えらくお前と会いたがっててな。ぜひ、連れてきてくれと頼まれた。お前のファンなんだとよ」
「だめだ、クレジュール。俺には、急用が、」
「急用? 戦勝国の我が国が、相手国を潰す、ぎりぎりまでの賠償を獲得する。それ以上に急ぎで大事な用など、あるものか。ああそうだ。戦死者を埋める場所の選定もしなければならない。壊しちまった建物の、瓦礫の処理も。やることは山積みだ。行くぞ、ロンウィ」
「だから、それは北軍でなんとかし、おい、クレジュール!」
クレジュールは
ロンウィ・ヴォルムスは、交渉力に長けている。その上、元貴族の彼は、エスターシュタット語も堪能だ。
ここでむざむざと、中央軍へ帰らせるわけにはいかない。
委細構わず、引きずっていく。
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